撫でる
私の髪はそれなりに長い、ショートにするとどこか幼くなるし、ミディアムだと肩で跳ねるのでどうにも落ち着かない。長年様々な試行錯誤を繰り返した結果ロングで落ち着いていた。
でも、乾きにくいし、手入れは大変だし、色々と最近は面倒になってきた。彼氏が出来たからか気を抜きたいのか、我ながら疑問だ。
「髪切ろうかな…」
風呂上がりに新開君の足の間で髪を乾かしてもらっている最中。そう、何気無しに発した言葉に ピタッと止まるドライヤー。え、何聞こえたの?そう思いながら、止まったドライヤーを持つ新開君を見ようと振り返った。
「いやぁ、もったいないだろ。こんなに綺麗なのに」
目を細めた新開君が私の半乾きの髪をすくように撫でてくる。そしてまたドライヤーをオンにして乾かし始めてくれる。
他人に髪を乾かされるのはどうも眠気を誘われる。この音と温かさのせいだろうか。乾かし終わったらしくドライヤーを片付ける音がした。
「…新開君、別に良いんだよ?」
何故か暇ある時は乾かしてくれる新開君に思わず声をかける。
「なまえさんにだって俺の髪乾かすの頼んだりしてるだろ?良いじゃないか」
うーん。そうなら良いのだろうか…そう思いながら撫でるその手が気持ち良くて目を閉じた。
そして時々新開君の足の間に導かれてTV見させられる。本日もそう、いつの間にやら座らされて背後から寄りかかってくるのだ。
そんなTVを見る私の髪をすくように撫でてくる。頭のてっぺんから背中付近まで丁寧に撫でる手に意識がいった。
「良い香りするな〜…癒やされる」
私の髪に顔を埋めながらボソボソとつぶやくのでやたらこそばゆい。TVから聞こえる笑い声が響く中、ここの空間だけどこか熱い。
「誰だって風呂上がりはこんなもんよ」
「いや、なまえさんはいつでも良い香りするんだぜ?」
そう言いクンクン嗅いでくる新開君。風呂上がりとはいえ少しだけ恥ずかしい。
「…そうだ、高校時代の友人でさ、やたら匂いに敏感なヤツがいたんだ」
「へぇ」
「匂いで色々当てるんだ」
「…え、少し変態くさいね」
「まぁ、あいつは変態だろうな」
サラッと言い放つ新開君。きっと新開君にも言われたくないと思っていそうだな。少しだけ会ったこともないその人を同情した。
「なまえさん、やたら手入れ行き届いてるんだな。会った時からそれはしっかり見てたからな」
初めて言われる付き合う前の話に何かドキッとする。まぁ、本当にそう思っていてくれたなら良かったと言えるかも。…あぁ、素直じゃないな私も。…実は痛みない髪は少しの自慢なのにな。
「そりゃ、いい大人ですから。多少は気にしないと髪痛みやすいのよ」
「そんなとこも大好きだ。あと短くしても似合うと思うぜ」
「はいはい、ありがと」
私の髪を先程からずっと優しく撫でてくる新開君の指。確かにそれなりにサラサラしているかもしれない。
「…手入れが良いのは新開君の乾かし方かもね」
「そうかぁ?」
「私が乾かすより丁寧だもん…その、だから、好き、だと思う」
そう、実は初めて新開君に対して"好き"を使った。
普段こんな事言わないから、言葉にするとやけに照れ臭い、新開君はサラッとそれなりに言ってくれる人だけど平気なのだろうか。こればかりはその人の感じ方はあるのだろう。
「っ、おめさん。耳真っ赤だ、背後からでも分かる。」
「余計なお世話デス」
新開君が髪越しにうなじに顔を当ててくる。そのまま、"嬉しかったから、もう一回言ってくれー…"と髪に顔を埋めて、ボソボソ言っているのは無視する事にした。
「手の空いてる時は、乾かしてね」
「ああ、もちろんだ」
威勢の良い返事が聞こえた。
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