開放感に手を伸ばす
その朝、"本気"という言葉がここまで当てはまる日もないくらいに本気の寝坊をしたのだ。
しかも、本日は朝一から重要な会議だった。昨夜、明日は少し早く出社したいからって早めに起きようとあれだけ思ったのに…!そんな日に限ってそういうものなのだろうか。
寝癖がさほどついていないことを幸いだった。
朝一、同じくこいつも起こさないと遅刻するであろう新開君を叩き起こした。そして数分で化粧をして、流れるように着替えた。
「新開君!私これで出るから!朝ごはんは適当にして」
「あぁ、分かった。遅刻しそうだからって焦るなよ」
「わかってる!」
歯ブラシを口に突っ込んだ新開君を置いて、ドアを閉めた。
…
"俺今日給与日、先に帰るからな"
夕方定時過ぎにスマフォを確認したら、新開君からそんなメッセージが届いていた。私もあと1時間ほどして帰れそうとの返事をして目はパソコンへ向かった。
そんな私に本日、問題と言っていいのかわからない事案が発生していた。
発生原因はもちろんあの寝坊のせいだ。重要な会議ばかりに気をかけていて、それには気付いていなかったのだ。
そう朝一の会議は乗り切った。いや、色々指摘される点もあったので威張れる事ではないが、ホッと一息をつく事が出来た。その時だった、一息ついた時に胸元に置いた手が何かを伝えたのだ。
…ブラジャーをしていない。
もうどれだけ焦っていたのか、自分でも呆れる程だ。通りで朝、風がいつもよりも冷たいなぁ…って感じたのは気のせいではない筈だ。白いシャツにジャケットという今日の服装。ギリギリ透ける事はないけれど、1日ジャケットを脱ぐことは出来なかった。
ノーブラと分かれば、背中がどうも丸くなる。プレゼンではアレだけ背筋伸ばして喋っていた私も、それ以降は大人しく過ごしたのだ。大きくも小さくもないけれど、あの下着の偉大さを感じた日。開放感に溢れているのは楽だが精神的には落ち着かない1日だった。
何しろ、動く度に擦れる感覚は何か恥ずかしいし。誰も私の事みてるはずじゃないのに、いつも以上に周りの目線が気になってしまうものだった。
仕事終わりに電車に揺られる、開放感に満ち溢れる胸を守るように鞄を抱えた。…バレずに1日過ごせて良かった。まぁバレても指摘は出来ないよね…そんな苦笑いをしながら帰宅の途についた。
「ただいまー…」
リビングとの境のドアを開けると新開君が野菜炒めを作っていた。どうやらあとは一品くらい作れば良さそうだ。
「おかえりなまえさん、会議間に合ったか?」
「遅れるかと思ったよね、でも大丈夫間に合いました!あ、鞄置いてくる。あと簡単に湯豆腐でも作るね」
「そりゃ良かったな。湯豆腐ならネギでも出しておくか?」
「そうだね、そして刻んでくれてると余計嬉しいです」
朝の私の慌て具合でも思い出したのか笑いを噛み殺す様に問いかけてくる新開君に、私も笑いながら返した。そして自室へ行き、鞄を置いてジャケットを脱いだ。やっと気兼ねなしに生活出来ると思うと一気に力が抜けた。
「そう会社着いたら、やっぱり私が最後だったんだよ」
「中々珍しい姿は見れたけどな」
凝った肩を回す様にキッチンに立った私。冷蔵庫から木綿豆腐を出した時だ、背中を指で上から下へとなぞられたのは。思わずビクッとなり、そして犯人である新開君に振り返った。
「…っ!何!?びっくりしたんだけど」
「…なまえさんブラジャーしてねぇのか?もう外したのか?」
「あ〜…今日慌てたから…実はしてくの忘れたの。会議終わりに気付いてビックリしちゃった」
笑い話なので、もちろん笑い飛ばす様に訳を話した私。なのに新開君からの呆れた笑い声は聞く事はなかった。それどころか、2人で和気藹々的な雰囲気だったキッチンに不穏な空気が漂い始める。
「…あの、新開君…?」
顔を覗くと茶色の髪が揺れて独特の目が見えた。
「なまえさん、バレてたんじゃねぇのか?」
「え…?」
「ホラ、」
「ぁ…っ!やめ…、バレてないって」
クリッとシャツの上からつまみ上げられる胸の頂点。イキナリの事に思わず高めの声を上げた。
「こんなに尖らせてんのにか?」
胸を見下ろすと2つの頂点に引っ張られているシャツ。そりゃ、ブラジャーつけてなければ服はこうなるしかない。改めてまじまじ見るとなんていうか事後の様だ。
さわさわと太い指で撫で回してくる新開君の手を止めようと手首を掴んだ。ブラジャーが無い分直接的な感覚に恥ずかしさが生まれる。
「…や、本当…気をつけるから」
「なまえさん危機感薄くないか?すげぇ心配になる」
「もうっ…、だから今日だけだから!」
「なんつーかそういう意識低いのすげぇ腹立たしい」
「へ…」
「だってなまえさん乳首すげぇ弱いしな。こうするだけで感じるだろ?」
「…っん」
「会社でも実は少し感じてたんじゃないのか?」
「っ、…そんな事ない…っ」
「嘘はいけねぇって」
「…ぅ…、す…す、少しだけだから」
私の耳元に口を寄せ、ペロリとひと舐めしたかと思ったら、いきなりシャツを下に引っ張られた。擦れた頂点に快感が走り、ため息のような声が漏れた。慌てて口を抑えたのが間に合う筈もなかった。
「…なまえさん会社でその声出さなかっただろうな?」
「出してないからっ…」
ジトッと睨む新開君。
私の抗議お構いなしにシャツの上から指で胸の先端をつまみ上げられて、ジンジンと痺れるような快感が広がっていく。好きでブラジャー忘れていった訳じゃないのに何故か責められ始めた。
「ブラジャーつけねぇヤラシイなまえさんにはお仕置き必要だな」
「っ!だからワザとじゃ…っ」
新開君は胸に顔を近付けたかと思いきや、パクッとシャツごと先端を口に含んだ。新開君の舌で転がされてしまって声を堪えた。唾液で濡れたシャツがザラつき、今までに感じた事のないもどかしい快感を与えられる。さらに甘噛みしてくる新開君を睨むと、意地悪そうな目で見返された。片手で胸を揉みながら、もう片方の胸を口に含む新開君。もうっ…、汗とかかいてるし…絶対にしょっぱい…!そう思い舐めるのを止めようと腕に力を込めると厚い唇で先端を強めに吸われてしまう。それに力を吸い取られてしまうのだろうか、手は新開君の髪に埋めた。
両方の先端をシャツの上から舐め回され翻弄される私の意識。新開君は何をしたいのか…、その時新開君は顔を上げた。
「なぁ、他の男になまえさんの乳首の色バレてねぇよな?こんなに透けちまってる」
「…っ!し、新開君がしたんでしょう!?」
「汗かいてたみてぇだし、バレてるかもだぜ?」
「っ、」
白いシャツは胸の所だけ見事に透けて胸に張り付いて、ぷっくりと硬くなった濃い先端が主張していた。新開君はそれを不敵に笑いながら、指で押しつぶしてくる。やけに生々しい見た目に、思わず顔を背けた。いつの間にやら整えられてしまった身体の状態、股をすり合わせるかの様にしてしまう私の太ももを新開君がなぞった。
「はぁ…なまえさん俺以外こんな事されたら許さねぇから」
「…こんな変な事するの新開君しかいないから!」
新開君の太い腕に手をかけながら、渋々顔を覗くと先程まで赤ちゃんのようにしゃぶっていた唇が降って来る。
新開君の胸元に手を置きながら、そんな可愛いキスをしていた時だ。ムードもへったくれもないお腹の音が響いた。
「…腹減ったな」
「…ぷっ」
「笑うなって。あ、なまえさんお仕置きだからその姿で作ってくれ」
「はぁ!?」
身体に宿った熱さを持て余しながら、忘れられていた豆腐を湯豆腐にしてご飯を食べる事になった。そう勿論この格好で。
そして夕食の終わりに新開君が私の透けた姿をみて"なまえさん痴女みてぇ"と呟いた一言。それについてはしっかりと文句を言ったのに、"そんな痴女ななまえさんにはお仕置きの続きだよな"と押し倒されデザートを差し出す事になった日であった。
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