笑う
ルームシェアして暫くたつ、もうカレンダーは2月だ。最初正直キツいかと思ったが意外と普通に暮らせているというのはなまえさんの必要以上に関わってこないこの距離感だろう。
ぶっちゃけ下世話な話抱けとか言われたら適当に腰振って多少金もらってからトンズラようとしてたしなぁ。やっぱ歳上より好き勝手できる歳下の方が好みだ。ブラック企業に揉まれた結果、真面目より適当に美味しいとこを持っていくのが楽だと気付いた。少し前まではそれなりに真面目だったのになぁ、まぁそれも過去の事か、どうでもいい。
なまえさんはご飯を食べたら直ぐにお風呂に入って、寝間着に着替えて引き戸挟んだ自室に篭る。そう悪くない、本当色々と色目使われたら嫌だったしな。
というかこの人色目どころじゃなくて、そもそも笑ってくれない。本気で早く出てけとしか思ってくれていなさそうだ。
一応形だけでも距離を縮めておかねばと、名前で呼んばせようと思いそれを提案した。でもなんでと睨みつけるように追求してきて、結局失敗する。
しかしその日は風呂から出たきたなまえさんがTVを見てて良いかと言われるので勿論全力で首を縦にふってやった。
風呂に入り脱衣所から出て、部屋に戻るとヘッドホンをつけたなまえさんが無言でドライヤーを渡してくれる。…一々この人タイミングが良いんだ。
ヘッドホンしているからとは言え邪魔するのも可哀想なので弱めにかけて髪を乾かす。濡れた髪を乾かしていると前よりも長さが気になる。あー、髪切りてぇな、また金もらおう。
乾かし終えて、布団の上で携帯を弄っていた。何となく少し目線を上げたら大きなクッションによりかかったなまえさんが少し笑ったり、ムッと無表情になったりしている。ははっ、完全にオレのこと忘れているな、これが素なのか。こんな表情豊かだったのか…。
まぁここ1カ月ちょっと一緒に住めばなまえさんの読みにくい表情も読めてくる。
ドラマの最後目を潤ませてポロッと零す涙に少し見惚れてしまった。こんなしょーもないドラマで泣くなんてなまえさん…つい手を伸ばしそうになった手を諌めティッシュを2枚ほど渡すのみにする。
するとようやく現実にもどったのか俺を見てビックリするなまえさん。そのまま気まずそうに部屋に戻っていった。
…はぁ、ヤバイな。多少人恋しいのもあって思わず抱きしめそうになった。そんな事したら追い出されてしまう。そんな決まりも明確にはないがこの距離感がそうだ。
近いうちにどっかで発散してくるかな。
…
次の日の土曜に髪切りたいからと言い一万円を貸してもらった。
久しぶりに切ってサッパリだ。それで帰る俺、最初の時には気づかなかったが意外とお高いアパートだここは。何をしている人かも知らない人と住んでいるがまぁ悪くない。
部屋に入るとお昼を作ってくれていた。
「…おかえり」
「ただいま」
「髪似合ってんじゃない?」
「そうか?おめさんに言われると嬉しいな」
初めておかえりと言ってくれて、少しテンションが上がる上に似合ってるとも言われた。よし!少しは距離近くなったんじゃないか?
「パスタか?オレは2人分食うからな」
「知ってる」
前の時は、足りないと言ったらドンと叩きつけるように水を出されたからな。始めに付け足しておいた。
「なぁなぁ、何か手伝うことないか?」
手伝わせる気がないと分かっているなまえさんの横に立ち、一応手伝うアピールをしておく。
「ないから座ってて」
ピッとローテーブルを指差すなまえさん。そりゃそうだ初っ端のオレの料理でキッチンに立つと視線が厳しいからな。
ローテーブルで待っているとご飯が並ぶ。ああ、今日も美味しそうだ。
「美味しいな、これも、…ん、サラダも」
「ふふ、リスみたい」
山盛りパスタを頬張るっていたら珍しい表情が目に入る。お、笑った!口角を上げて控えめに笑うなまえさんだった。
「やっと笑ってくれたな」
「え、そう?」
どんだけ待ち侘びたと思っているんだその表情を。って…そりゃ一緒に住んでいるのだから、殺伐とした雰囲気よりは柔らかい雰囲気のが過ごしやすいからな。
「ああ、すげぇ可愛い」
思わずポロッと口に出てしまった言葉にポカンとするなまえさん。
「はい?」
「…これ美味いわ」
「…そう」
とりあえずパスタで誤魔化したオレ。
オレは完璧に胃袋を掴まれているがなまえさんにとっては堪ったもんじゃないのだろう。
まぁ、まだ居座ってやるからな。
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