専属


ある日曜、バイトから帰ってきたはずの新開君から女物の香水が香った。バイトと聞いていたが、本当にバイトだったのだろうか?

新開君はなに食わぬ顔をして、丼をもって、大盛りの麻婆丼を美味しそうに食べている。

「ねぇ、…香水キツイ」
「ん、…あぁ、お客キツかったからな」

そう、頑なにバイトというか。そんな香水つける女が定食屋か?そしてどんだけ客に絡まれたのよと突っ込みたくなる。
まぁ、良い。別に付き合っているわけじゃないし、言うなれば早くその女のところにでも行ってほしい。





「…新開君彼女いないの?」

寝る前に、自室に篭りながら引き戸越しに声をかけた。

「いたらここにいないだろ。仕事で中々会えなかったら振られたんだ」
「…ふーん、いたら追い出そうとしていたのに」
「やめてくれ、俺のたれ死ぬ」

いや、どう考えてもその図太さなら生きてかれるでしょ。お気楽な声にため息をつく。本当に厄介な人物を拾ってしまったようだ。あの時の自分を呪うよ。

「おやすみなまえさん」

なぜか顔の見えない挨拶の声が眠気を誘う。

「…おやすみ」









その週を過ごしてみてあることに気付く。そろそろバイトを始めて1カ月は経過しているはずだ。しかしまだお金を一銭ももらっていない。そしてバイト以外の職見つかったんだろうか。

「ねぇ、新開君。仕事見つかった?」

食後に食器を洗いながら、ビール呑んでTVを見ている新開君に話しかける。

「仕事?おめさん専属の警備員だろ?」

ウインクしながらバキュンと私を射抜いてきた。
イラっとして無言という名の返事をした。中々こいつを追い出さない私は心が広すぎる。

「はぁ…警備よりお金欲しいんだけど」

私が呟くとススッと笑顔でキッチンに入って寄ってくる態度が大きい新開君。そのまま後ろから私の肩を揉んでくる。

「何?ご機嫌とり?」

少し酔っている新開君を肩越しに睨む。

「はは、そんな顔は可愛くないぞ。そうだな、なまえさんを揉みたくなったんだ。…太ったか?」
「変な言い方しないでくれる?そして太ってはいません!!」
「おめさん結構凝ってるな、ガチガチだ」
「はぁ、もういいから。お風呂おろしておいて」
「OKなまえさん」

やっと私から離れてお風呂のお湯を溜めに行く…と言ってもボタン一つだが。

「おろしたぜ」

私の隣に立ちドヤ顔アンドサムズアップの新開君に溜息をつく…その親指をへし折ってやりたい。そしてそのやり切った感は何よ…、ほぼ何もしていないじゃない。

「ねぇ、生活費ー」

って、だからそこ耳を塞ぐな。耳を塞いでいる手を掴み耳を開放して声を低くして言う。

「1カ月でも滞納したら容赦なく追い出すから」
「ヒュウ、気は長い方が可愛いぜ?」

目線がどっかいった新開君だ。気?充分な程長い筈だ、寧ろ長過ぎる。



次の日ションボリしながら○万持ってきた新開君に笑った。
「あ、まだ最初の日に貸した分と髪切った時、諸々合わせて3万は返してもらってないからね」
「そうかぁ?」
おいそこすっとぼけるな。













「なぁ、コタツが欲しいんだ。買ってくれ」
「いらないでしょ?」
そんな会話から始まった日曜。

うだうだとコタツの良さについて力説した新開君に私が折れたのだ。
私は通販でいいでしょと言ったのにすぐに欲しいと言う新開君に寒い中外に引っ張り出された。

…あんたが連れて行きたいのは私じゃなくて私の財布でしょ?隣りを歩く新開君を見る。
ただホームセンターに行くだけなのに、イキイキと楽しそうだ。そして普通の格好なのになぜかオシャレに見えるしね、これがイケメンマジックといつやつか?そんな新開君をチラ見する女性はやはり多い。はい、見てくれに騙されてますよ、そこのあなた。
私は新開君に出会って少しやさぐれ始めた…いや、もともとこうだったのか?分からないが新開君と暮らすのは並みの神経ではいかないと悟ってきたのだ。

「なまえさん俺をそんなに見てると金取るぞ?」
私を見て、カッコよく笑う新開君。しかし、口を開くと残念だ。
「…コタツ買わせてあげても良いんだよ?」
「コタツ持たせてやっても良いんだぜ?」
ほう、そう言うか。
「…じゃ、帰らせていただきます」
「…悪かった。ほら、手でも繋ぐか?」
ほらと言う割には手は寒いのかポケットのままだ。…本当この男は。
「繋ぐわけないでしょ」

ホームセンターに着き、売り場へ行く。
「コレでいいでしょ?大きいのは幅取るし」
お手頃サイズと値段のコタツを即座に指差す私。
「もっと大きいのにしようぜ?俺横になったら出ちまう。こっちのとかさ」
「コタツは寝るとこじゃないから!…っ分かった、大きいの買うのなら新開君が買ってね」
「…まぁ、このくらいでも悪くないな」
新開君が呟いた。よし、勝った!…が何故か負けた気にもなっている。

店員さんを呼ぶ私。に女性の店員さんが寄ってくる。
「すいません、コレ欲しいんですが」
そして、配送についての話になりそうだった。
「あ、これそのまま今日持って帰りますので」
新開君がサラッと言うので少し驚く女性の店員さん。そしてコタツが入っているダンボールを軽々担いでレジに向かう新開君。
「素敵ですね、彼氏さん」
「いえ、赤の他人です」
私の一言に店員さんは言葉を出すことはなかった。



はぁ…目立つんだけど、この状況。しかし新開君はそんな視線を物ともしないでコタツの絵が描かれたダンボールを持っている。
「…なまえさん、タクシー拾わないか?」
ジト目で私を見るな、疲れたのか新開隼人よ。
「新開君を拾ってるので、タクシーはアパートに拾わないよ。タクシー拾うなら新開君が出てけば?」
「…」

なんだかんだアパートまで運んだ新開君だった。









(voicry様からの"bonb"頂きネタ)

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