口づけ
先日行われた同期の飲み会。少し気合いを入れるのはこの歳のせいだろうか、はたまたたまにの飲み会のせいか。いつもより丁寧にセットした髪、そしていつもより高めのヒール。
やはり同期は楽だ。なんしろ仕事の話は分かってくれるし、同年が多いし。
話はある同期がペットを飼いだしたっていう話だ。それもろに結婚出来ないヤツじゃんっと笑われている。
「みょうじさんはペット飼っていたりする?」
同期の中でも甘めの顔でそれなりに女性人気がある彼に話しかけられた。彼の手元のグラスが揺れている。
ペットねぇ…なぜか新開君の顔が浮かんだ。
「ふふ、飼っているって言えば飼っている?」
そう時々動物の耳と尻尾がみえなくもない。今日もお利口にご飯食べているだろうか。少し口が緩む。
「へぇ、みょうじさんが飼い主なら嬉しいだろうね」
いや、飼っているこっちは凄い迷惑だけどねと心の中で付け足しておく。笑顔でそう言ってもらって嬉しいが、この彼は微妙な言い方の私におそらく亀とか熱帯魚とかを飼っていると勘違いしてそうだ。
「ねぇ、今度一緒に昼でも行かない?」
私だけに聞こえるくらいの声量とその言葉にドキッとするのもしょうがない、でも社交辞令でも嬉しい。社交辞令にはそれなりに返さなければならない。
「それは嬉しいけど、周りの目が気になるから…」
断ろうとするが、あわよくば誘って欲しい感じで断るタチ悪い私。
「じゃ、外で待ち合わせよう?」
「ん、 そうしよ。また連絡とろう」
私の意図が分かったらしく、こそっと話をして、それぞれ他の人と話す為に分かれた。仲良い女の同期にニヤニヤして話しかけられたが、単なる社交辞令だからと返した。
腕時計を見ると21時だ、もうお開きになりそう。
お開きになったは良いが二次会へと引っ張られた。あのダメ犬は、TVでも見ているかな…そそうをしてなければ良いんだけど。
23時過ぎさすがに明日を考えて先に帰ろうとすると震える携帯。メール画面を開くとなんと言うイラつくメール。本当、ほっておくとろくな事ありゃしない。
少し前に良い男だと思ったのは脆くも崩れ去っている現在だ。あの時に優しく追い出しておけば良かった。2ヶ月経った今じゃ、あー言えばこー言う奴だと知った。
アパートに帰り、無言で玄関のドアをそっと開けると寝てなかったらしい新開君が見えない尻尾を振って迎えてくれた。だがもちろん、後日チョコプリンを買わせた。
「太るぜ?なまえさん」
「大きなお世話です」
…
「ねぇ、新開君。食べ物に名前を書くという事はどういう事か分かる?」
コタツでTVを見ている新開君に話しかける。
「ヒュウ、プレゼントかと思ったぜ」
本日14日。…だとしたら逆でしょう。こいつはまた人のアイス食べてくれたのだ、しっかりと名前書いてあるのに。いつの時代も食べ物の恨みは怖いのだ。
「はぁ…私、気は長い方だと思っているんだけどなぁ」
「そうかぁ?なまえさん結構短いぞ?この間だって、ポテトチップスの袋開かなくて力任せに引っ張ってブチまけてたじゃないか。あと絶対エレベーターは閉まるボタン押すタイプだろ?」
「っ!それはいいでしょ!?」
しれっと人の嫌なとこをついてくる新開君。そしてなんでそんなくだらないのと覚えてんの!?あとエレベーターは押す人は多いでしょう!
「〜!それよりも生活費!ホワイトデーだしくれても良くない?」
渋々財布から出される万札を貰った。
「…なぁ、俺の財布が寂しいんだが」
「じゃ、仕事早く見つけてね」
いつかの新開君と同じ様に諭吉さんに口ずけした私だ。
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