ヤキモチ


「...で荒北さんがぁ...」

なんと言うのか私の彼氏の口からは1日に何回もの"荒北さん"が登場する。いいよ?そりゃ良い先輩もったっていうことだしさ。おかげで私までやたら荒北さんの事知っちゃってるよ、なにが悲しくて男性にヤキモチやかないといけないのだ。

私は荒北さんよりもユキちゃんのことが知りたいんですけど!そして私の事だって知ってほしいんだけど。思いきって告白したらすんなりオッケーもらったのだが、付き合ったものの手を繋ぐことすらしないしなぁ。こいつ私の事単なる話し相手としか見てないのではないか?そんなこみ上げる想いも知らずに荒北さん話を続けている。あーあー嬉しそうにしてさぁ...。そんな顔されたら話せないじゃない。






「で、どー思います!?」

冬の屋上で膝を抱えて何故か荒北さんに愚痴を吐く私。怖いとされていた荒北さんだったが、ユキちゃんのおかげか知らないけどとても身近に感じられるようになった。

「知らねェからァ!んなん当人同士で話せよみょうじチャン」
「でも、ユキちゃん荒北さんの事話してると楽しそうなんですもんー...」
荒北さんはいかにもめんどくさそうな顔をしている。話は聞いてくれているようだが。まぁこんな事言われても困るよね。
「ガキかてめェは」
「どうせガキですぅー、荒北のおっさん」
「誰がおっさんだボケなす」

そう言い不貞腐れる私の頭をガシガシ撫でる荒北さん。いや、これ撫でられているよりも動物的なあやし方なんですけど。
「...荒北さん痛いです」
「ハッ いー毛並みしてんネェみょうじチャン」
私をあやしながら笑う荒北さん。



屋上のドアがギィと軋む音をたてて開く。よくこの寒いのに屋上なんかくるな...物好きもいるもんだ。あ、私は物好きだから良いのだ。

「...何、してんですか荒北さん?」

ユキちゃんだった、よくここが分かったな。そして私よりやっぱり荒北さんか、私はついでかよ。

「味見ィ?」

笑う荒北さんが応えた瞬間、一気に屋上の空気が張り詰めた。え、なんで?何が味見?わけ分からない私。



無言の空気の中で荒北さんは立ち上がってユキちゃんの耳元で何かを言ったかと思ったら屋上を去っていく。
必然的にユキちゃんと残された。えーと...どうしたのか?ユキちゃん。

「なまえ、荒北さんと何してたんだよ?」
詰め寄ってくるユキちゃんにたじろぐ。やっぱ荒北さんかよクソ。
「...」
無言を貫く私。なんしろ言えないし、ユキちゃんの愚痴を言っていたとか。



「!?」
いきなり視界が反転した。背中に感じる冷たいコンクリートの床、そして乾いた青い空が見えると思ったらユキちゃんの顔で覆われた。
そして近くなったと思ったらユキちゃんの口で口を塞がれた。
「んっ!?」
付き合ってたけど、手だってキスだってしてなかった。なぜ今!?長いキスで頭が混乱する。キスとかだったら、こーいうシチュエーションとかが良いとか憧れもあった気がするが今じゃもう真っ白だ。

「っ!ユキちゃん」
肩を押し上げる様にして離れさせる。いきなりで上がる息。ユキちゃんは呼吸一つ乱さないで私を見てくる。
その視線から熱や怒りとかを含んでいるのを感じて凍りつく私。あの私何かしたのでしょうか?

「んなに知りたいなら教えてやるから」
色素が薄い髪が私の顔にかかり、そしてキスが更に深くなる。口元をなぞっていた舌が私の口を割って入ってくる。
「っはぁ、ぁっちょ、まって!」
食べられてしまいそうな感覚に戸惑い身体を押し戻すようにする。
「...やなのかよ」
目線を外すユキちゃん。
「ちがっ...」

だから意味がわからないんだって!怒っている理由とこうなっている理由が。
「〜っ!」
伝えきれない想いを届けるかの様にユキちゃんの首に手を回して顔を引き寄せてキスをする。
「っ!」
「っ、ね、どうしたの?」
「...なまえが男ん事知りてぇだか荒北さんに言ったんだろ?」

は?
いや、意味がわからないんですけど!?そんな事一言も言っていないし!荒北さんー!?
苦々しく呟いたかと思ったら、私の返答待たずに再度キスしてきて、口内を舌でなぞられる。ゾワっとする感覚が身体に走る。
「...っぁ、はぁ」
上がる息と共に太ももを撫でられる。逆立つ感覚に思わずユキちゃんの手を太ももで挟む。
「っゃぁ...」
なんでこうなってるの!?なんでユキちゃんこんなに怒ってるの?怖いんだけど!溢れ出す涙が止まらない。
「っ!っだよ」
「っぁ、ユキちゃん怖い」
「!」
知らない人みたいだ。

私が知っているのは生意気そうな顔とかイキイキと楽しそうに荒北さんの事を話す顔ばかりなのに。こんなキツイ目をした熱情的なユキちゃんは知らない。
「...悪かった」
ボソっと呟くように言葉を吐き出したかと思ったら私の上からどいて、私を背にしてあぐらをかいて座るユキちゃん。

「...あの、荒北さんに言ってたのは、ユキちゃんのことをもっと知りたいって事は言ったんだけど...」
思い切ってユキちゃんの背中に話しかける。
「...だぁーっクソ!!」
ユキちゃんが頭を掻きむしってそのままコンクリートにゴツンという鈍い音とともに頭をぶつけた。ちょっと大丈夫?

「え、何が!?大丈夫!?」
「...だったらそー言う事は俺に言えばいいだろ?」
後ろからしか見えないが耳が真っ赤だ。白い髪だから余計に目立つ。そして言えって...だから荒北さんばかりじゃないユキちゃんの話は。言う暇もないんだけど。




え、でも...これって、もしかしてヤキモチやいてくれたのか私と荒北さんに?

...ちょっと嬉しいかもしれない。私ばかりかと思っていた。
あぐらをかくユキちゃんの後ろから手を伸ばして赤い耳を指で挟む。
それにビクっとするユキちゃん。

「...ユキちゃんの事も...男の事も色々と知りたいです...」
精一杯の私の気持ちを伝える、私の顔はおそらく真っ赤であろう。いつものユキちゃんも悪くはないけど、さっきの熱情的なユキちゃんも見てみたい強欲な私。

「...なまえ、それ今度家で言って欲しい」
後ろを振り向くように仏頂ズラだけどどこか自信満々な顔にドキっとする。

あぁ早まったかもしれない。




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