天然系彼女


ここ箱根学園自転車競技部には、よく見られる光景がある。


「寿一くんー、靖友くん部活終わった〜?」
可愛らしい音色が部活終わりに廊下を移動していたら声がかかる。それにピクッとする寿一と靖友。


「あぁ、待っていたのか?」
「そうなの、あのね!その今日アップルパイ作ってきたの」
「そうか、あとで頂くとしよう。待っていてくれ」
寿一と朗らかな空気で話すなまえ、寿一の幼なじみだ。俺も必然的に中学から一緒だからまぁ仲は良い。
「...俺にはないのか?」
「隼人くんは、全部食べちゃうからダメー」
そしてなぜか俺には多少厳しい。
「新開と喋んな、エロがうつる」
靖友がやっと口を開いたかと思ったら俺へのお小言だった。
「靖友くん、そんな事言っちゃダメだよ?」
「あぁ」
スルリと手を繋ぐ2人。きっかけは知らないが2人は付き合っているのだ。まぁおそらく寿一が関わっているのだろう。

持ち前の気質で、1年時の黒歴史時代の靖友のリーゼント頭を見つめたと思ったら"その空間には何が詰まってるの?空気?寿一くん?"と訳が分からない質問をしたなまえに思わず笑った。おそらくは寿一の事気に入ってるの?的な意味合いを含んでいたのかと思うがなまえの発言の真意は、昔から俺には理解不能だ。あの時の靖友はさすがに固まっていた。

着替え終わって、後輩らが帰って行く。そんな中靖友が痺れを切らしたのかなまえを部室に入れる。
「...さっきゴメンねェ!冷たくてェ!!つか、廊下寒かったよなァ、本当にあいつらチンタラ着替えやがってさァァァ!」
「大丈夫だよ?ほら、靖友くんも制服上着ないと」
笑顔でそう言い制服の上着をかけてあげているなまえ。
「なまえチャン...ありがとネ、俺世界一幸せだからァ」
なぜか泣きそうな靖友だ。
「へへ、なら、私も世界一幸せ〜」

背後にそんな会話をBGMとして聞きながら無言で着替える俺と尽八。...靖友その話の流れ、数日前もやっていたからな。
というか、ほんの10数分前まで黒田にボロッかすのように絡んでいたのに後輩らが居なくなった瞬間のその変わりよう。
デレっと眉を下げて、いつもより多弁。いやもうこっちが見てられねぇんだけど。
「...あの顔は美形しかしてはならんよ」
隣でボソッと呟く尽八にそうだなと返す。俺たちにとってはお馴染みの光景だ。本人達が満足しているならそれでいい。



「なまえ、アップルパイはどこだ?」
「福チャャャャン!ここだよここォ!一緒に食おうぜ」
なぜか靖友が反応してるし、なまえチャンはニコニコフワフワしていて、本当に靖友くんは寿一くん好きなんだねぇーと言っている。
「福チャンは福チャンだけど、俺はなまえチャンが1番だからァァ」
なまえをひっ捕まえて腰をもって膝の上に乗せている。
それでいちゃいちゃしながらアップルパイを切るなまえ。

「はい!隼人くんに尽八くんの分」
「やんなくていいヨォ!!こいつらはァ」

手渡される2センチくらいの幅の薄いアップルパイ。
「あぁありがとう、嬉しいよ」
ギロっと靖友が睨むので、笑顔で薄いアップルパイらしきものを受け取る。どうでもいいが格差あり過ぎないか?
薄いアップルパイを口に含む。...これしょっぱくないか?一緒に尽八とアイコンタクトをとる。考えていることは同じらしい。そして口を開く。
「あぁ、美味しかったよ」「そうだな..」
このナイスなアシストをする俺ら。

靖友達も口に含む。どうするのかと思ったらいつもの通りだった。
「すっげェうめぇ!この塩が効いたところなんて最高だヨォォ!」
「ほんとー?疲れてると思ったからお塩にしたの〜」
お互い語尾にハートが見えるけど、やっぱり塩入れていたのか...。
寿一もなんの物ともせずにパクパク食べている。この二人の舌を疑ってしまう。
「ホントなまえチャン出来た彼女だヨォ!なぁ、食わせてくんねェ?」
「ん、分かった〜!はい、アーン」
それは他所でやってくれないか!聞いているこっちが恥ずかしい。フォークもないので手でやるなまえ。モグモグと食べる靖友は、最後なまえチャンの手を掴んでアップルパイだかを摘んでいた親指と人指し指まで舐め始めた。
「ぁっ、やだ靖友くん...汚いよ?」
「こっちのが美味いからァ、もっと食わせてくれねェ?」
「もう、靖友くんたら、じゃぁ私も食べたいな、ダメぇ?」
「!...なまえチャン...」
感極まる靖友。


さすがにこちらが耐えられなくて、部室を後にしようとする空気を読む俺と尽八。

背後では淡々と食べる寿一とイチャつく靖友となまえ。なんだこの光景、寿一も慣れているせいで突っ込まないし、誰もツッコミ役が居ない。この不思議空間に取り残される訳にはいかない。


廊下を歩く俺ら。
「よく、あれあんなに食べれるよな」
「そうだな、結構キツかったぞ?荒北も荒北だ!あんな顔はイケメンしか許されないんだぞ!?」
ビシッと俺に指を差しながら言われても困る。
「ははっ、アレだけ好きになれるっていうなら良いじゃないか」
見るに堪えないこちらがいるだけでな。ただもうあの日常がないというのもう物寂しいような気もする。












(10000hitリク ベタ惚れ荒北と天然系彼女 本当に、これで勘弁して下さい...)


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