年上彼女
一学年上の旧マネージャーみょうじなまえさんが好きで、追い出しファンライドが終わった時に思い切って告白した。少し照れながら気持ちに応えてくれた時には小躍りしたいくらいだった。
しかし付き合ったものは良いが、こちらは部活だし向こうは受験生だしで出かける事がまずなかった。
それでも暇を見つけて部活に顔を出してくれるなまえさん。
「すいません、手伝ってもらって」
「ん?いいの、いいの。たまには息抜きだよ」
なまえさんの朗らかな笑顔に癒される。
「...あとたまには彼氏さんの近くに居たいしね?」
「っ!」
俺だけに聞こえる声量で少し恥ずかしそうに言うなまえさんに思わず飛びつきたい気持ちだったが、ぐっと堪えて嬉しいですと一言に留めていた。
ある年末、見るに見かねてかなまえさんから声がかかった。
「黒田くん、初詣行かない?もう誰かと予定入ってる?」
「いえ!全然です!」
即答した俺を控えめに笑うなまえさんだった。
初詣の時には、雪が薄っすら積もった。それを口実にして手を繋ぐことに成功した。そんな俺の計画もこの人は知らないのか、黒田くんは優しいねと言ってくる。
「黒田くんの願いは何?」
賽銭の時にそう言われて戸惑った。そりゃインハイの雪辱を晴らすだけだ。でもあんたとも一緒にいたい。でも後ろの願いなんて口に出しても女々しいだけだし、困らせるだけだと気付いていた。
「インハイでの王者奪還ですね」
「...そうだよね〜」
「なまえさんは受験って感じっすか?」
「うん、そんな感じ」
なんとか志望校受かりそうなんだけどね、油断ならないからと続けて話している。この後も帰って勉強だそうだ。来年はと思うとゾッとする。
「黒田くん、こっち」
少し服を引っ張るなまえさんに着いて行く。境内の死角に入る。
「受験頑張るので、前もって...んー、...なんて言えば良いんだろう」
言葉を濁すなまえさんに訳がわからない俺だ。
「えー、と...ちゅーしたいです」
さすがに訳がわかった。真っ赤になりそう言うなまえさんに引き寄せられるように初めてキスをする。
「なまえさん、あんたズルいっす」
まぁ俺がしなかったんだけど、こう言われると余計に情けない気がした。
怒涛に過ぎる受験。なまえさんも見事に志望校に合格したらしい。
3月の初めに、なまえさんが俺の部屋に来た。なんつーか、そう言う事だ。恐る恐るの俺の頭を撫でる優しい手が気持ちよかった。大切にしてきた気持ちが受け入れてもらったかのようだった。まさかのなまえさんが初めてで驚いていたら、私だって部活ばかりだったしそんな暇なんてなかったでしょ?と少し呆れた声で返ってきた。
「っ、本当に大切にしますから」
「ん...そう言ってくれると嬉しい」
半泣きのなまえさんが物凄く愛しかった。
3月も半ばに卒業式。卒業式終わり、胸元に卒業生につける花をつけながら荒北さんとかとワイワイ話している。そりゃ3年だったし、仲良かったしな。そんななまえさんを離れたところから見る俺。
「ユキ良いのか?いかなくて」
塔一郎が声をかけてくるが思わず首を横に振った。あすこに行ったらもしかして学年差を余計に感じてしまう。そう思うと足が動かなかった。
それからバタバタと慌ただしくなる後半。俺もレースやらなんだが多くなり、でもそんな時にはなまえさんが差し入れをもって顔を出してくれていた。
あっという間に4月となり、俺たちは最高学年となる。もちろんなまえさんは学校にはいない。大学には自宅から通っているらしい。
なんと言うか、今まで同じ学校なだけ良かったのかもしれない。忘れ去られたように上の学年の人が居ない感覚がなんとなく寂しかった。されど一年、でも長過ぎる一年だ。大人になってしまえば何の違いもないのだろう、ただ...今はこたえる。
高校3年、新しい1年が加わり部活が慌ただしくインハイに向けて活動が激化する。まぁ鬼のような部長だからな。
そんな中でも電話なり、メールなりでなまえさんと連絡を取っていた。
"どう?1年生、可愛い?"
"可愛くないっすよ、生意気なだけで"
"ふふ、黒田くんがそう言うんだ"
電話の向こうでクスクスと笑う声がする。
"...色々忘れてくれません?"
やだと返ってくる声が可愛い。
"ぁ、また部活差し入れもって行くね"
"ありがとうございます"
そう数回顔を出して、なんだか懐かしく感じるもんだねと言いながら色々と持ってきてくれた。そして人目のつかないとこに引きずり込んで、抱きしめながら口を奪った。
「黒田くん、こういう事しなそうなのに」
と照れるなまえさんだった。
インハイも終わり、俺もそろそろ受験生となる。なまえさん達もこうだったのか。なんともやるせない感じ、すぐにでもロードに乗って走り出したい気分だ。
電話では、なまえさんの口から聞きなれない単語が増えていく。サークル、レポート、休講...でもこれは俺が気にしているだけなのであろう。単語の意味なんて大体分かるのになぜこんなに遠く感じてしまうのだろう。
早く過ぎ去って欲しい1年。ただその過ぎ行く時間がなまえさんを知らないなまえさんを増やしていく。
逢うたびに大人っぽく感じるのは、私服のせいか、はたまた俺が高校生だからか。考えても分からないが、簡単に触れられなかった。
電話をしていると勉強の話になった。
"黒田くん、どうかしたの?色々キツイ?"
"...っそっすね、色々と"
何かを見透かされていそうな声で思わず言葉に詰まってしまった。
"...そっか、"
なまえさんが何か言葉を続けそうだったが、それ以上この話題はしなかった。
ハハッ "色々"ってなんだったんだろうな、なまえさんも俺も。
なまえさん気付いてねぇんだろうな。あんたに電話越しにそんな話題されたって不安になるだけなんだよ。そう言えたら楽なのにな。画面が暗くなった携帯を持ちながらなぜか笑う俺。あーあ、笑いしか出てこねぇや。
徐々に減っていくやり取り。それに気付くのは俺だけなのだろうか。でも電話はいつもと変わらないはずなのに気持ちが入ってない気がしてしまう。
"...なまえさん、好きっす"
"...私もだよ?"
言葉だけじゃ足りないのに、なぜ簡単に会えないのだろう。
"黒田くんが1年遅く生まれたのがいけない"
女々しい俺にクスクスと笑う声がする。そんななまえさんを想像したら泣きたくなった。
"なまえさんが早く生まれすぎです..."
そして連絡を取らない4ヶ月。
あぁ、これが自然消滅というものなのか?3年の卒業と同時に色々と気付く想い。
これであんたと一緒で俺も大学生になりますね。そんな一言を心の中で呟く。
なまえさんの事なんか早く忘れてしまいたい。どんなに想ったって今更すぎるんだ。もっと早くさよならと言えたらこんなに辛くならなかったのだろうか。
そんな今ただあんたに会いたいです。
(数年後くっつくとおいしい。 黒田と年上彼女・拗れる話10000hitリク)
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