好きすぎて


「あ、あらあらきたきゅん!!」
「なぁにィ?なまえチャン?」
「ぷり、んとを、あの、出して欲しい...のですが」
「何のォ?」
「しゅ、すうがくの!」
「これかァ?」
「ぁ...それじゃ、なくてですね」
「これェ?」
「そ、それ!」

必死に身振り手振りしながら話すなまえとそれを楽しそうにニヤニヤしながら見る荒北くん。
なまえ、今日プリント集める係だしね。そしてさっき私を荒北くんとして声掛ける練習してその有様か...思わず面白くて遠くからバレない様に笑う。

もうあの必死さが可愛いのなんのって。もともと口下手なのに荒北くんの前では特にそうだ、あれで本人バレてないと思ってるのがさらに面白い。おそらく荒北くんもなまえの気持ちなんて気付いてるのに気付いていないふり、むしろ面白がっているタチの悪い男だ。素直にプリント出せばいいのにわざわざ会話を増やしているし。

冷や汗なのかなんの汗かをかいているなまえが私の所に戻ってきた。
「ど、どだった?普通だったでしょ?」
「どこが!?手は震えてるし、明後日の方向見てるし、むしろ噛みまくってんじゃん」
真剣な顔して何を言うんだなまえは。思わず酷評してしまった私。
「え!?そうだった!?」
絶望している顔まで面白い。そりゃこれ荒北くん気にいるよね。えーそうだったかなぁ、と少し癖のある髪をいじっている。


次の日も懲りずに荒北くんに話しかけるなまえ。
「あの、あ、あら荒ちゃんっ!」
「ああ!?アザラシじゃねェんだぞ!?」
荒北くんが大きい口を開いて応えてる。

色々と耐えきれなくて下向いて震える。な、何よ荒ちゃんって、そういや数年前川にアザラシいたよね。
...パニクり過ぎだってなまえ。しかも荒北くんナイスツッコミ、夫婦漫才のようなやり取りに耐える私。

「...はぁ、あんた達最高」
「ぇ、何が?」
キョトンと首を傾げてくるなまえの頭を思わず撫でる。なまえはもう明日の話しかける内容について考えてる。ホントよくやるよ全く、これだけ仲良くしていると私は思うのになまえにとってはまだまだらしい。
なまえはうーんと唸りながら、笑顔になったり、眉を下げて困ったりしてみたり、はたまた何かを想像したらしく唸りながら机に頭を当てて悶えてみたりしている...恋する女の子は面白い...いや可愛いのだ。








次の日の昼休み
例によってなまえと中庭でご飯を食べている。もちろん話の中心は、放課後荒北くんに話しかける内容についてと予行演習のためだ。

ふと近くから聞きなれた声が聞こえて思わず黙る私達。
これ、荒北くん?のそれも告白シーンだ!私が分かると同時になまえも理解したらしく、膝を抱え込み、泣きそうになっている。コソッと茂みの陰から私が覗く。お、それも中々可愛い女の子…後輩かな?やるな荒北くん、思わず聞き耳をたてる。

「俺、部活で手ェいっぱいだからァ。まぁあんがとね」
でもありきたりな言葉で断っている荒北くんだ。

告白した女の子は去っていったようだ。そんなことはなまえは気付くことなく凹んでいる。そりゃ好きな人の告白シーンとか、まぁ嬉しいもんじゃないもんね。

「はぁ…」
「…まぁ、なんて言うか、荒北くんだけじゃないからね男は...」
「ぇー…あ、荒北くんが良いんだって」
ボソボソと呟くように答えるなまえ。
「チャリ部でもさ、もっと優しそうな奴だっていんじゃん、ほら福富君とか泉田君とか…」
「っもう!!違うの!やっぱり荒北くんが良いんだって!そりゃ、そこまでかっこよくないかもだけど、むしろ目付き悪くてつい見られると固まっちゃうんだけどさ、真面目で練習してるとことか、後輩の面倒をうぜぇとか言いながら見ちゃう面倒見の良さとかもう最高!やっぱり大好きなの!!もうしょうがないじゃん!?」
顔を真っ赤にしながら熱い想いを大声で口にしてくれたなまえ。
「よく分かったよ、なまえが荒北くんを大好きだっていうことは...」
ただ知ってるなまえ?ほんの少し前までうちら荒北くんの告白シーン覗いてたんだよ?なのにすぐさまそんな熱い想いを大声で言っちゃってほら。

「なまえチャン呼んだァ?」

ほら、やっぱり荒北くん近くにいた。途中からそうかなぁって気配があったんだよね。必死ななまえは気付いてなかったんだけどさ、ごめんね言わなくて。
なまえはまさかのご本人様登場に座ったまま石像の様に固まった。そんななまえの目の前を塞ぐようにしゃがみ込む荒北くん。
「オーイ、なまえチャーン?固まってんぞォ?」
「あ、ありゃきた君!!」
思わず私が吹き出すように顔を伏せる。さっきの雄弁ななまえはどこいったのよ。
「ハァイ、ありゃきたクンだヨォ?なまえチャンさっき珍しく口数多かったじゃナァイ?」
「ぅああぁぁあ!それは、そんな、そんな事ありましたっけ!?」
「俺の事がどうとか言ってなかったァ?」
目がうろちょろと彷徨うなまえ。そんななまえの顔を自分を向かせるように両手で頬というか顔をもって固定した意地悪な荒北くんだ。
「ふへっ!?」
「おー、おもしれェ顔」
ニタニタと笑いながら、ここぞとばかりになまえを至近距離でパニックに陥らせる荒北くん。
「なまえチャン、ほら俺の目ェ見てさっきの事言ってヨ」
それもうその状態のなまえには無茶ぶりだって!私が心の中でツッこむ。

「あ、あら荒北くん!!ててて手を離して!」
「んじゃ、俺の目ェ合わせてからな」
「む!無理だよ!!」
「オラ、向けって」
「ぁ、ぁほ、本当に!」
「今俺ん事アホとか言わなかったァ?」
「い、い、いってない!言ってないですー...」
もう涙目のなまえだからもう助け舟を出そうとする私。しかしそんなこと御構いなしに荒北くんはなまえを構ってる。
「ほらァ、目ぇ合わさねェとブサイクな顔のまんまだヨォ」
「ふぁ、向く!向くからー」
「おー、早く向けって」
おずおずと真っ赤な顔しながら、目線の先が荒北君の目に定まっていくなまえ。あ、こうして大人しくその距離で目線合わせていたら物凄く恋人っぽい。しゃがんで顔固定して10センチくらいの距離で顔近づけちゃって、これからキスでもするんじゃないかって勢いだ。

真っ赤になり潤んだ目をしっかりと合わせたなまえ。そして無言で見つめ合ってる2人。すると荒北くんの顔が赤くなり、視線が泳ぎだした。おいおい散々なまえを煽っておいてそうなるのか荒北くん。なるほど、これは可愛いかもしれない...。


ただ、とりあえずそんなラブコメを私の前でおっ始めないでください。私まだ居るから!
そんなお邪魔な私は立ち去ろうと静かに腰を上げる。そんな私には2人気付かないほどに夢中に至近距離で見つめ合っている。
あーあ、ずっとしゃがんでいたから足痺れるわー...。
「おっと...」
よろけた振りして荒北くんの背中を押してやった。

「「っ!!!?」」
背後から言葉にならない2人の叫び声が聞こえた気がした。さて、2人の午後の言い訳でも考えようかな。


















(荒北と好きすぎて挙動不審なコミ障な女の子 10000hitリク モブ子視点ですいません、許してください)


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