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ついに金曜、前夜祭だ。

午前は授業で、午後から文化祭準備だ。午後から皆で追い込みで準備をする。屋台も無事に出来、設置する。そしてその場で売り方、店当番について皆で確認する。2日通して同じ当番表、都合悪かったらいい歳だから個々に変更しろとのことだ。
販売するチョコバナナは普通のチョコレートとかピンクチョコやホワイトチョコでコーティングして、パラパラとデコレーションすれば作れる。価格も文化祭値段で適正だろう。

設置してから特に準備もすることなかった。文化部の人達は各部署に準備に行く、本当お疲れ様です。私やミサキ残るクラスの人暇なら前夜祭のダンスの確認をしようという話があがり、通しで踊ってみる。うん、良いんじゃないですか。今日が本番か、なんだか緊張してきた、ちょっとあの人誘って練習見てもらおうかな。

外に出掛ける新開が目に入った。新開はあれからまだ少し落ち込んでる気がするけど、多少元気にはなったのかなと思う。



練習を見てもらった後、ミサキと合流した。
「なまえ何してたの?」
「ん、練習付き合ってもらってた。詳しくはホームページで」
CMの様に言ったら、何それと言われながら誤魔化せたようだ。

窓の外を覗いていたら自転車競技部が練習していた。こんな日も隙間で練習か...インターハイが近いもんなぁ。あ、荒北も東堂君もフクチャンもいる。新開は...やっぱり居ないか。
東堂君のクラスは男女逆転劇やるんだっけ。この前の委員会で
「俺に似合わないものはないからな!」
と豪語していた。とりあえず私も
「確かに似合いそうだよねお姫様役とか(高飛車な)」
と褒め称えておいた。東堂君はパァと笑顔になって、みょうじさんは俺の魅力が分かるのだな!と話が長くなり始めてしまった。隣で佐藤君がいや女役が似合っても微妙だろと笑っていた。
佐藤君とはあれから変わらずだ、やっぱり噂は噂でしかないんだろう。

荒北のクラスもベタにかき氷だそうだ、新開から聞いた。まぁ、もう暑いし最適だろう。私は買わないけどね、だって氷じゃん!水のようなもんにお金出せないし。チョコバナナ派な私としては負けたくはない。



段々にブレスレットをして、クラスTシャツを着る人が増えてくる。それを見ながらミサキとそろそろ着替える?と声をかけて、他のクラスの進み具合を横目に着替えに行く。
私達はクラスつなぎしか作って無いので適当にノースリーブやらTシャツを中にきて、カーキ色のつなぎを着る。皆で言ったのはつなぎ作ったは良いけど、暑いとの不満だ。
皆半袖に捲ったり、腰で留めたり、自由だ。私ももちろん上は脱いで腰で結んでとめる。ここまで暑いとは予想してなかった。夕方だけど暑い、明日からは昼間はノースリーブだなぁ胸元をパタパタ仰ぎながら思う。

着替え終わって歩いていたら、前方に黒いクラスTシャツを着て座ってる荒北発見。裸眼視力2.0を誇る私の目があるものを捉えたので私はミサキに断りを入れて先に教室へ行かせた。
あるネタを引っさげニヤニヤしながら近づいて行く。荒北にソーっと近づき持っていたタオルでサッと目隠ししながら私なりに1番可愛い声で声をかけた。
「やーすーくんっ!」
「ぁあ!?」
驚いた荒北にタオルを奪われた。振り向いた荒北は意外と顔が赤かった。誰だと思ったんだ?
「...チッ お前何してんのォ?」
「えー、ほら背中に"やすくん"って書いてあるから呼んであげようかと思って」
「うわ、マジうぜェ」
とか言いながらタオルを返してくれる。
「荒北サボり?」
「あー...休憩だ休憩」
あ、サボりか。
「そういえばチャリ部何すんの?」
「ロード固定して乗らせてみんだヨ」
あぁ、所謂体験コーナーですか。普通には乗れないもんなのかと聞いたら、そんなパッと乗れねェヨと言われた。へぇそうな感じなのか、少し興味出てきたのでとりあえず荒北の当番時間を聞いといた。やっぱり顔見知り居た方が声かけやすいしね。

「みょうじチャン今日は寮泊まりィ?」
「そー、もう友達のところに荷物置いてきてあるの」
「あっそう、はしゃぎ過ぎんなよ、うっせェから」
「わ、わかってるよ!」
少し痛いところをつかれた。夜は絶対は騒ぐよ皆。


荒北と分かれ教室へ戻る。
荒北のクラスのクラスTシャツには"やすくん"って書いてあった。他に荒北っぽい呼び名が無かったので荒北の事だろう。何あいつ"やすくん"って呼ばれてんの?ガラじゃなくないか?
なんでか少し胸がモヤモヤするが、まぁいい、時間が経ってるので教室へ急ぐ。

教室に帰ったらつなぎを着た新開がいた。
「やっぱり新開つなぎ似合うねー」
皆が言っているようなありきたりな感想を言う。
「そうかぁ?みょうじ達だって似合ってるだろ」
逞しく覗く腕とブレスレットが素敵です、Tシャツとつなぎをがこんなにカッコ良く着こなせる10代はなかなかいないって。パワーバー食べてる姿もその姿なら様になるね。そう新開がいつでもどこでも制服だろうと食べてるからおかしいんだって。水泳で持ち込んでたらどうしようかと思ったもん。

前夜祭が始まるとのアナウンスが流れる。生徒がゾロゾロと体育館に集まる。体育館は分厚いカーテンを閉め暗くなっていて、ステージだけがスポットライトで明るく照らし出されている。周りの期待感の高さと熱気にやられそうだ。

あ、ちゃんとサボらずに荒北もいた。端っこでクラスの男子と喋っている様だ。コソッと荒北に近づき、私達のクラスダンスちゃんと見ておいてねと言っておいた。

生徒会長が挨拶して生徒の歓声と拍手で前夜祭が始まった。いつもと違う雰囲気にのまれテンションが上がる。話術の上手い先輩方がテンポのよく、前夜祭の進行をしていく。

ダンスの順番が近づき、次の番になった時、皆で暗いステージ袖で集まる。
前のクラスのダンスを横目に見ながら皆笑顔だがやや緊張しているようだ。やっべぇ緊張してきた!とかいう男子に皆つられて笑う。

胸を抑える私。私もおそらくは皆と少し違う意味で緊張している。ドクンと心臓が高鳴る。

私の隣に明らかに緊張していない男がいた。コソッと話しかけた。
「新開は緊張しないんだ?」
「まぁレースに比べりゃどうってことないさ」
腕を組みながらそう言う。そりゃそうだよね。
「みょうじだってしていないだろ?」
「成績表返ってくるよりは余裕だからね」
「ハハ、おめさんらしいな」
どうやら前のクラスが終わるようだ。凄い拍手と歓声だ、どうやらバレー部の人が終わりがけにボールを打ち込んだみたいで盛り上がっている、もう何でもありなステージだからね。私達ももうそろそろ出陣だ。今まで話していた新開に声をかける。
「じゃぁ、最初は女子で盛り上げてくるよ」
「あぁ、悩殺してこい」
ちょっと、そんなダンスじゃないんですが。新開の突き出された拳に対して私も拳を突き出して応える。それぞれのブレスレットが揺れる。
「りょーかい!」
笑いながらステージの真ん中へ出て行く。

曲が木霊する、そしていくつもの照明が重なり熱い、汗が滲み出る。そしていつもとは違う学校の体育館にテンションを 勝手に上げさせられてる感じがする。
女子でのラインダンスも無事終わり、男子が入り全員で踊る。

最後スペースを空けて、新体操部の内山君が走り込んでロンダートバク転バク宙予定だ。ロンダードは側転みたいなものだ。

ただ皆が知らないのは私も走り込んでロンダードバク転予定な事だ。この事を知っているのは練習に付き合ってくれた内山君とダンスを取りまとめていたリーダーだけだ。そう私、元新体操部のお出ましだ。

全員でのダンスも終わり、サッと広がるスペース。合図とともに内山君とアイコンタクトをして、走り込んでロンダードからのバク転をする。横目でミサキが驚いているのも気付いた。観客もまさか女子もやるとは思わなかったのか、ステージ下の観客から驚きと歓声が響いてきた。

バク転を成功させた後、すぐに荒北を探してドヤ顔しておいた。荒北は目を丸くしたと思ったら片方の口角をあげながら不敵に笑いやがった。そしてステージを振り返るとさすがにクラスの皆もめちゃくちゃ驚いていた、なんかゴメンね。

曲も終わって内山君とハイタッチをした。と同時に皆にもみくちゃにされながらステージ袖にはけて行く。
「なまえ!あんなこと出来たの!?何でだまってんのよ!」
ミサキに締め上げられた。
「ほら、ちょっと驚かせたくて!」
「おめさん本当予想外だな」
笑いながら頭を手でがしゃがしゃしてくる新開
「ちょ、やめて、黙ってて悪かったって」
何人にも同じ事を言う羽目になった。これも全部荒北のせいだ。


私としては、この前荒北に聞かれた"なぜ部活をやらないのか"と言われて、色々考えた。その末にこのステージが答えを表した形だ。後悔が少しもないわけじゃない、ただ今はこのステージで満足だ、笑顔で締めくくれればいい。荒北には生半可な言葉では伝わらないと思った末に考えついたのはコレだった。

この前フクチャンと分かれたあと、新体操部の内山君に時間外にロンダードバク転を見てもらって許可を得た。マネージャーへの勧誘にもなったけどそこは丁重にお断りした。それでも今日も昼間練習に付き合ってくれて、お墨付きを頂いていた。そのおかげで自信をもって臨むことが出来たのだ。あぁ無事成功して良かった。


色々な緊張が解けたせいで疲れが襲ってきた。体育館の喧騒の中、間のバンド演奏になったので休憩にと静かに体育館の外に出た。





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