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今日から本番だ。
前夜祭であれだけ盛り上がっていたので、寧ろ静かさを感じる。
今日は、天気予報を見たらここ一番で暑くなるとのことだ。今日はつなぎの中にTシャツでなくタンクトップにした。まぁしばらくはつなぎほ腕まくりだな。

私の出店当番は午前の予定だったが、文化部の友達に部活のと被っちゃってるから変わって欲しいと言われて、昼過ぎからの一時間半になっている。その為の帰宅部のようなもんだし、快く引き受けた。

さて午前何しようかな。最終の当番のミサキとパンフレット見ながら話す。そしてあるページで手が止まった。
「これは!?」
ミサキが笑いながらパンフレットを指差してくる。え、何々?
"シンデレラ 主演:東堂"
「よし、そこだね。これは絶対観ないと」
東堂ファンではないけど、東堂は確かに魅力はあると思う。自信過剰だかしっかり実力もある、そして本人が言うだけ確かに美形だしね。
はじまる時間まで校内の展示物とかを見ながら時間を過ごす。
箱根学園って遠いから外部の人少ないかと思いきや意外といるんだよな。チラホラ見ない顔とすれ違う。
もうそろそろ時間だから、そのへんの出店で飲み物とお好み焼きやらを買って向かう。

体育館に着くと、予想以上の人の集まりだった。東堂と入ったうちわを持っている人までいる。アイドルのような存在なのか。ミサキと驚きながら座れる場所を探して座る。

舞台の幕が上がって、ナレーション的な人が出てきて注意事項とかを説明する。これはコメディですと。

シンデレラが登場!と思ったらやたら綺麗な長髪東堂だった。観客の叫び声が体育館に響く。シンデレラの始めなのでまだ床を拭いてるのにやてら優雅だ。
色々仕事を押し付けられるシンデレラ
「お姉さんたちも、仕事をせねばならんよ!」
このシンデレラは中々中身が図太いようだ。
ドレスに変身した時も
「ハッハッハ、なんでも似合ってしまうな!」
とかシンデレラは言うし、舞踏会に行ったら
「さぁ王子、私と踊るのだ」
と王子を逆ナンしていた。もちろん東堂以外もありのままで話を進めていくが、東堂だけ異色すぎる。いや、それだけ魅力あるってことだ。


東堂のクラスの演劇も終わり、体育館を出ると外は更に暑くなっていた。
「「暑っ!」」
ミサキと声が被るほどだ。二人で目指す更衣室。
「暑くてもうだめ」
ミサキがつなぎの上を脱ぎ出す。私ももちろん脱いで腰で巻いてとめる。カーキ色なつなぎだったらやっぱり黒タンクトップでかっこいい系を目指したい。
「名前入れる場所間違ったよね、皆暑くて腰に巻いているから見えないし」
「来年はつなぎは無しだね、暑過ぎ」
ミサキはつなぎの足もまくり始めた。

それから中庭でやってるバンド演奏を覗く。
あー、もうそろそろ当番か。出店をチョコバナナにしたおかげで、簡単だし売るのもそれだけだから、当番の人数も少なくていいし、時間も短かくていい。クラス内では来年もこれで良いんじゃね?との声がもう上がっているほどだ。
やっぱりカフェっぽい処は、バタバタしてるもん。


ミサキに当番だから行くねと声をかけてから出店に向かう。昼も過ぎたから客もまばらだろう。
「お疲れー、変わるよ」
「あ、なまえありがとう、ハイこれ」
前の当番の子からバトン代わりのエプロンを引き渡される。え、ちょっと誰かが持ってきたのよ、このピンクのフリフリエプロン。あのさ、可愛いかもしれないけどもっとシンプルなのが良いんですけど。ていうか、つなぎとの相性考えて持ってこようよ、何このアンバランスな格好。

「なまえ、その顔から気持ちはよく分かるよ。あたしもこれ着て売ったから、でも女子用これが最後だから、なまえも犠牲になって」
犠牲にってマジですか。
「...時間前だけど後に来た私が悪いしね、前の人達が着たなら私も着るよ」
しぶしぶフリフリエプロンに腕を通す。これが自分の趣味だと思われたら恥ずかしいんだけど。

そんな所に最後の当番者がバタバタやってくる、そう新開が。前の当番の男子から私同様エプロンを引き渡される。新開は黒のギャルソンエプロンかよ、何それ私より遅くにきてズルいんだけど。手慣れたように巻いていく、そしてそれ様になるっていうね。はいはい凄いね新開。羨ましくて新開を見つめる。そんな私に気付いたのか私の隣で売ることに決めたらしい。
「お疲れ」
「みょうじ似合ってるなそれ」
エプロンを指差す新開
「ごめん、全然嬉しくない。むしろこれ新開が着ていいよ」
「まぁ喜んでおけよ、パワーバーくうか?」
「ハッ要らねェよ」
荒北風に答えてやった。
「靖友の真似か?中々似てるな。あ、靖友と言えばもう少しで来るとか行ってたな」
えー、この姿見られるのやなんだけど。
「とりあえずさ荒北に10本くらい買わせようよ、あいつ細過ぎ」
「いいな、それ」
新開とチョコバナナを売りながらくだらない雑談をする。

そんな中、荒北と東堂君がやって来た。
「やっとるかね!?」
前髪をクルンといじる東堂君
「なまえチャン似合ってるね、そのエプロン」
私の趣味でないの知って言ってくる荒北。
「うるさい荒北、とりあえず10本買いなよ」「買おうぜ」
「ハァ!?」
新開と話す荒北は置いといて東堂君と話す。
「あ、東堂君シンデレラ観たよ、やっぱりシンデレラが一番綺麗だったね。歓声桁違いだもん」
「そうだろう?他に適役はいないからな!そうだみょうじさんが作ったのを買ってあげようじゃないか、どれだ?」
「私のはもう無いかな、まぁ適当に選んでよ」
じゃぁそれだなと指差す東堂君と荒北。いや、荒北はもっと食べて太ってくれ。
私の手元にあるので、両手にそれぞれのチョコバナナを持ったら新開に呼ばれた。
「あ、みょうじ」
「え、何しんか ぅぐっ!?」
新開の方に向いた途端、いきなりチョコバナナを喉まで突っ込まれた。
「っ!?ん!ん〜、んー!(これとって)」
声にならない私。両手は塞がってるし、勿体無い精神なのと奥まで入れられているせいで噛み切ることが出来ない。苦しくて涙目になってくる。
爽やか笑顔で聞かれた。
「どうだ、俺のチョコバナナ美味いか?」
んなことはどーでもいいから取ってくれって。
"ピロリン"
そっちの"撮れ"じゃねぇよ!バカ新開。
「おめェ何してんだヨ!!」
荒北が真っ赤な顔で丸めたパンフレットで新開をスパーンと良い音させて叩いた。いいぞもっとやれ荒北。
それと同時に私もやっと片手で二本チョコバナナを持って、口に入ってたチョコバナナを自分で抜く。さすがに苦しくて噛み切る事出来なかった。チョコバナナと口に唾液が糸をひく。思わず手の甲で口を抑えながらむせる。
「みょうじさんはしたないぞ」
ほのかに顔の赤いジト目の東堂君に言われる。
「げほっ、え、私のせい!?てか新開何すんの!?」
改めて荒北、東堂君にチョコバナナを渡して、私も先ほど口に入れられたバナナを食べる。
「いやぁ腹へってるかと思って、美味しかっただろ?」
「まぁおいしけど、新開と一緒にしないで下さい」
「そうだみょうじ、お金」
金とんのかよ、いや払うけどさ納得いかないんだけど。
そこから少し忙しくなって携帯で撮られた事をすっかり忘れてしまった私だった。


次の当番ミサキにこのエプロンを引き継いであげた。明らかに嫌な顔になっていたミサキも犠牲になってね。

そうして文化祭1日目が終わる。





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