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文化祭が終わってほぼ一週間経ちそうな金曜、私達のクラスは打ち上げ会となっている。
文化祭終わってからの勉強は力が入らない。一気に現実に戻された気分で力が入らないのは私だけじゃないらしい。ミサキもボーッとしているし、ほかの皆も静かだ。もう少しで一学期期末なんだけど、焦りが生まれない。
そんな中の打ち上げ会だ。この年代にとっては騒げるなら何でも良いもんだからね。打ち上げ会場は、焼き肉とカラオケの一騎打ちでカラオケとなっている。学校帰りに駅から近いカラオケに行く。
もちろん飲むものはソフトドリンクだ。
リーダーの乾杯の挨拶で、グラスを合わせる。いつも通りミサキと隣同士で座って文化祭の事を話す。騒がしいこの部屋の中でひっそりとブレスレットの事について話す。ミサキは先輩と交換した様だった。あぁミサキ大人っぽいから先輩にも人気あるよね。私も聞かれたので、少し端折って話しておいた。
「どうしてもさ完璧に何も無かったかの様に元に戻れないじゃん、なぁんか怖くてね」
「まぁ、それが付き合うって事でしょ、それ怖がってちゃ話になんないでしょ」
「そりゃ分かってるけどさぁ」
どうしても付き合うなんだって自分自身に当てはめる事が出来ないんだよね。想像つかないというか。
グダグダとソフトドリンクで酔ったように話す私。これが雰囲気に酔うってことなんだな。
それから他の人達が入ってきて私のバク転の事になった。皆が凄かったよーと誉めてくれるので、つい調子に乗って来年もやることになった。ヤバいぞ、身体維持しなければならない。
はー、ソフトドリンク大量に飲むのでトイレが近くなるよね。だいぶ喋ってしまった。騒がしい部屋から抜けて廊下に貼ってあるマップを確認してトイレに向かう。一番端っこかよ。ふらふら歩いて行ってトイレで用を足し、手を洗って髪を整えてから廊下に出る。
ドリンクバーの所が近くなったとき、ナンパのやり取りが聞こえてきた。あー前通って行くのやだな。誘ってる方は酒入ってる様だ、明らかテンションが高いし押しが強い。断わる方は押しが弱いというか、酒入ってる人相手には劣勢すぎる。ふと断わる方の声に聞き覚えがあった。
...えー、どうしようかな、...しょうがないから助けてやるか。
スルッと背後から近寄って所謂恋人繋ぎをしながら、腕に体を寄せる。
「「!?」」
私以外の二人はさすがに驚いたようだ。
「隼人、待った?早く行こうよ。
...すいません、この人私のなんで。って言うことで、いこっ隼人」
適当な事を言いながら新開の服に縋り掴んでいる女性の手を解かせる。相手にニコッと笑ってポカンとしている間にそのまま手を引いて連れて行く。笑顔で解決が素晴らしい。
「クッ、ほんとみょうじ最っ高っ!かっこいいなおめさんは」
「なぁにが最高よ」
離れた所でパッと手を解く私と笑う新開。
「いやぁ、助かったぞ」
「よく言うよね、もっとはっきり断れるくせに」
「中々酒入ってるのを断るの面倒なんだぞ」
その気持ちは分かるけど、何言い出したりするか分からないしね。でもさすがだよね新開、大学生のお姉様にナンパされてるんだもん。もしかしたら連れてかれた方が良かったのか。
「なーにしてんのお二人さん」
トイレに行くためか外に出てきた友人に話しかけられた。
「ん、ナンパされてた新開を助けてあげたとこ〜」
そう伝えたら大笑いされた。
「普通逆でしょー」
確かに、そっちのが絵になったよね。そう言えば良かったな。
騒がしい部屋に入ってるもとの席に座って話に加わる。もう、皆来年の文化祭についてあーだこーだ言っている、気が早いって。
リーダーの"じゃ、この辺で一旦お開きで!"の一言でお開きになった。でも、ボチボチ帰る人は居るけどまだ残って居る人が大勢だ。
「なまえ、私まだ残るけどどーする?」
電車もあるしねぇ、まだ居たい気持ちもなくはないけど
「そーッと退出します。お疲れ」
「一人で大丈夫?もう少ししたら帰る人多くなるんじゃない?」
「大丈夫だよ」
心配してくれるミサキに答えながら、荷物をコソッとまとめる。
ドア付近の友人にゴメン帰るねって言いながら外にでる。涼しく空気が足元から入って来る。部屋の温度熱気で暑すぎ、廊下涼しいわ。
カラオケを出ようとしたら、声をかけられた。
「そこまで一緒に帰らないか?」
私の制服のスカートを掴んでくるいい男。
「フフ、ナンパですか?」
さっきのナンパ女性の真似をする新開に思わず笑う私。
「まぁそんなとこだな。...
みょうじいい太ももしてるな」
「セクハラです。それは」
パワーバーを食べはじめた新開も帰るようだ。人一人分の距離をとって歩き出す。
「うっ、よくそんなに食べれるね。新開は残らなくていいの?」
思わずこっちが胸焼けしそうなんだけど。
「あぁ明日部活顔出そうと思ってな、朝早いしな」
「...!そだね」
私の歩幅に自然に合わせている新開はさすがだと思う。荒北は早すぎ、コンビニ行くときだって合わすなんて器用な事出来ないというかしないしね。思わずフフッと思い出し笑いをする。
「そういえばみょうじもブレスレット交換したんだな」
皆好きだね、このイベント話。当たり前っちゃ当たり前か。私も聞くのは面白いと思うし。
「心優しい人がいたので交換してもらいました」
「ハハッ おめさんはよく口が回るな、何人か断ってたくせによく言うぜ」
「...そう、知ってて聞いてくる新開も大概意地悪だよね」
さらっと話したくないところをつくのが上手いよね。佐藤君とのことはそっとしておいてほしいのが正直な気持ちだ。
「そいつと交換した理由はなんだ?」
新開は私の横髪に腕を伸ばして髪を一束すくう。少しくすぐったくて少し首をすくめる。
「...特にないよ、ただ...伝えられたその気持ちに何か応えたくなったのは確かだよ」
「付き合ってるのか?」
「いや、断ったよ。...〜っていうかこの話はもういいじゃん!新開だって、後夜祭で先輩に言い寄られて鼻の下のばして交換してたじゃん」
近くだからチラ見してたぞ。所謂ボンキュッボンな先輩がくっ付いていたのが。
「...おぉ、見てたのか。そりゃぁ交換する相手居なくなれば、適当に交換するだろ」
あ、新開でも叶わないことがあるのか。
「え、新開でも断られるんだ?ぁーまぁドンマイ」
「つれねぇなみょうじは」
だって他に言い様ないからね。
そんなつれない私を駅まで送ってくれるいい男な新開。そう思うと確かに私は酷いやつかもしれない。
「ここで大丈夫か?」
優しい新開に思わず笑う。
「新開は優しいなぁ。わざわざありがとう」
「そりゃ当たり前だろう。おめさんだからな」
「言うねぇ新開。じゃまたね、おやすみ」
「あぁまたな」
手を振っていい男新開を見送る。
電車に乗って最寄り駅で降りる。改札を出て歩き出す。
振ったくせに佐藤君を考えるなんで酷い女だと私も思う。ただ、やっぱり友達として今まで通りいければよかった。ミサキにさっき言った通りのことを何度も考える。マジでこれから私付き合うこと出来るのか、可愛げないのは分かってるし、大雑把な人間だし、私が男だったら自分なんかゴメンだ。あ、自分で言ってて情けなくなってきた ...こう、うじうじ考えてる今も自分自身が面倒な人間だと思う。
暗い路地に入り、街灯も一気に少なくなる。
「オイ、テメェ止まれヨ」
え、やだ、口悪い人に声掛けられた。怖くなって、早足で進む。タッタッタッと走ってくる音がする。え、何!?
ガシッと音がするくらい二の腕を捕まえられ、引き寄せられる。
「俺だからァ!」
「っ!?荒北ぁ?」
あんたはどこのチンピラだよって、少し前までチンピラな感じだったか。
「な、何してるのこんな夜中に、散歩?」
「別にィ、どっかのボケなすのお迎えっつーやつゥ?なまえチャン」
二の腕を捕まえられたまま歩き出す。
「へぇ、そんなボケなすが居るんですか」
「そ、俺の目の前にねェ」
無愛想な顔で言いながら、私のほっぺたを引っ張る荒北。
「いひゃいんてしゅけどー」
「ハッ 何言ってんかわかんねェヨ、ボケなすが」
ほっぺたは離してくれた。
「...ゴメン、真面目になんでここに居るの?」
「ぁー...新開が心配なんだと、メールきた」
「さすが新開だね」
「やけに最近仲良いじゃねェの?」
「まぁ最近仲良くなったしね。酷いセクハラされる時はあるけど新開は話しやすいし、いい奴だし好きだよ」
「そーかヨ」
あれ、いくつか疑問に思った事がある。なんでこいつここに居る?
「あれ、明日部活は?」
「あ?午後からだヨ」
荒北の実家に帰るペースが不明だ。新開は明日朝自主練習か?なんだかよくわからないや。
二の腕を引っ張られながらの帰り道。
「来週末の土曜一緒に勉強する?午後とか」
まぁこうやって気遣われて居るせいか、くすぐったいが少し嬉しくて心が広くなったようだ。気まぐれに発言する。
「...するかァ」
微妙な顔されたけど、する気らしい。うちにくる?と聞いたら嫌がられた。え、そんな汚くないって私の部屋。
時刻は日付け変わりそうな時間だ。正直、いつもこんなに遅くないから、今日この夜道は少し心細かった。荒北がいて良かった。
家の前まで連れてきてもらって二の腕から手を離される。ずっと掴まれてたせいでやけに熱をもっている感じがする。
「ありがとうね」
「ヘイヘイ」
ぶっきら棒に去って行く荒北を見送った。
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