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潮の匂いが濃くなり、波が足を撫でていく。
荒北...荒北...居た、あそこか。海の中に仰向けで浮かんでいる荒北を見つける。
波を足に受けながら、バシャバシャと海に入っていく。
う、少し深そうだ、つかまっていた浮き輪に体を通し足で漕いで近づく。
「荒北ー、機嫌直しなって、いじけるないでよ荒北ぁ」
大きめの声で呼びかける。
「いじけてねェヨ!ガキか俺はァ!?」
荒北が体制を起こして私の方を向く...向かなかった。
「新開は、いつもあんなんでしょ。慣れてんでしょ?」
「ハッ 新開と雰囲気似てんよねなまえチャン」
「え、ちょっとエロ新開と一緒にしないでくれる?」
私の浮き輪に手をかけて休んでいる荒北、荒北も浮き輪使えば良かったのに。そして、やっぱり目がいかんせん合わない。
「...とりあえずこっち向かない?」
荒北の頬を引っ張る。ムニっとした感触が気持ちいい。
「いってェな!ボケなすがァ」
やっとこっち向いた荒北だが気まずそうだ。浮かんでいるせいで目線がほぼ一緒でなんだか新鮮だ。
「〜っ!」
無言の荒北。本当に何かしたのか私。
「...本当なんかしてたらゴメンね」
少し切なくなってきた。おい新開、フォローがフォロー出来ないんだけどどうしてくれんのよ。心の中で新開を責める。
「......てる」
ん?
「...ぁーくそ、箱学カラーの水着すげェ似合ってんヨ!カワイイヨ!」
だーから、青って言えよお前ら!
顔を真っ赤にして珍しく私を褒める発言したと思ったら、私の浮き輪に顔を伏せる。が、耳まで真っ赤だ。
「...ぁ、ありがと」
一応礼を言う私。この微妙な口ベタな荒北から新開のような発言が出ると思わなかった。あー暑い、暑過ぎ今日は、私も荒北もどうかしたようだ。
いつも通り"荒北もそういう事言えるんだ"とかからかっておけたらよかったのかもしれない。ただこんな荒北の顔見てしまい、上手い返答できなく話が途切れてしまった。
荒北に手を伸ばす。
ビクッ!とした荒北。原因は荒北の赤い耳を触ったせいだ。
「プッ」
その反応に思わず笑う私。
「てめェ」
「いやもう、荒北もカワイイよ。だから顔あげなって」
「るっせーヨ」
そんな私達に声がかかる。
「どうかしたのか?荒北」
「福チャン」「フクチャン!」
荒北と声が被ってしまった。
あ、そうだ今浜辺で一緒に居させてもらって居ること言わなきゃ。フクチャンに事情を説明する。フクチャンはずっと泳いでいた様だ、フクチャンも良い筋肉してるな。
「つーか、なんでなまえチャンが福チャンを"フクチャン"呼びしてんのォ?」
いや、あんたのせいだから。簡単にそれも荒北に説明する。
「...フクチャンに迷惑かけんなヨ」
「ぅ、悪かったって思ってるよ」
「構わないぞ、俺は。また頼れば良い」
フクチャン!!なんて出来た人間なんだろうか。荒北はフクチャンを取られた様で気に食わないようだ。それは確かにガキの反応だよ。
3人でパラソルに戻る。本日初登場したフクチャンに皆話しかけにいっている。
そんな中新開にパーカーを貰おうと手を出す。
「靖友の事ありがとな、やっぱり似合ってるぞその水着。着させるの惜しいな」
「ハイハイ、そりゃありがとう」
新開は手に渡さずに私にパーカーを羽織らせてくれた。目の前に新開の胸元があって近い距離に思わずドキッとする。
「ジッパーもあげてやろうか?」
「!結構です」
くそ、私までからかいやがって。
熱い日差しに、喉の渇きを思い出す。はぁ喉乾いたって飲み物無いんだった。
「ゴメン、飲み物買ってくる」
ミサキにコソッと伝えて行く。
「ん?なまえ着いて行こうか?」
「近いから大丈夫だよ。休んでて良いよ」
ミサキくるとナンパもついてくるし。
財布をパーカーのポケットに入れて海の家に向かう。海は良いけど、居るだけで疲れるんだよね、浜辺は歩きにくいし、もうその前から疲労困憊だし。ギュッギュッと音をたてながら足を進める。海の家の近くの自販機についてどれにしようか選ぶ、ったくどれもこれも高い値段しやがって。目当てのポカリスエッ○のボタンを押して手に入れる。あー暑、溶けるよ本当。ぼーっと歩いてたのと疲れとで浜辺に足を取られてバランスを崩す。
「っい!」
崩した瞬間にビーチサンダルが脱げてガラスで足の外側をスパッと切ってしまった。誰よここでビン割ったのは!片付けようよ、ちゃんとさぁ。
結構切ったな、スパッと切れた足の外側。あー、血が出てきた、ジンジンする。...海の家に消毒キットあるかな。目測50m、ケンケンで移動か。正直傷口を地面につきたくないからそれしかないか。ケンケンをし始める...が痛い、そして砂浜でバランス取りにくい。
「手ぇ貸そうか?」
新開!
っと思ったら、声は似ていたけど全く知らない人でした。
「大丈夫?怪我したの?ってなまえちゃんじゃん!」
「さっき可愛かったよー」
心配してくれる少し年上のお兄さん方。そして大会も見てたのか。
「はぁ...なので海の家にでも救急キットあるかなと...」
「おんぶしてあげようか?」
「...」
その提案は、ありがたい。ただ、これ確実にナンパでしょう?正直ナンパについて行くのもどうかと思う、がこの携帯もなし足怪我したこの状況で逃げ切れる気がしない。どうしようか。
それらをパパッと頭の中でそれらのことを考えて、出た答えは
「...海の家までお願いします」
「全然良いよーなまえちゃんならどこでも連れていくよ〜」
いや海の家までで良いですから。海の家まで良い顔して、後はさよならで行こう。つーかジャンケンしてんじゃねぇよ、早く運べよコラ。
はぁ、ナンパの兄ちゃんに頼るとか一生の不覚。兄ちゃんがしゃがんでくれた時、間延びした声が聞こえた。
「なァにしてんのォ?」
「荒北!」
べプシを持った荒北が居た。
「なんだてめェ?」
兄ちゃんが荒北をにらみつける。
「あ?」
ギロッと睨み返す荒北...さすが元ヤン。迫力が違いますね。
てめぇらどっかいけの一言で追い払ってくれた。
「あ、ありがと「てめェも何してんのォ!?バカか、あんなのに引っかかりやがって」
いきなり大声で怒る荒北が恐いのと来てくれて安心したのとで泣きそうになり俯く。そりゃ怒る理由も分かるけどさ。
「ぅ、足切ったから利用してやろうとしただけだもん、携帯持ってなかったし、だ、だから引っかかってないし」
小声で言い訳をする。
「....ハァ」
ため息をつく荒北。
「ん」
溜息をついたかと思うと私の前にしゃがんだ荒北。
「ん?」
「マヌケチャンがァ、運んでやんヨ」
さすがデスネ、色々状況を察して、おんぶをしてくれるんですね。ありがたいんだけど、アレはナンパ相手だからすっごくどうでも良かったんだけどさ。
荒北相手は、...どうでも良くないので正直恥ずかしいんだよ。え、なにこの気持ちは。
乗らないと済まされない様な空気に包まれる。え、重いよ私、荒北潰れない?
「お、お願いしまーす」
荒北の背中に身を任せ、ソッと肩に手を置く。本当手を貸してもらうだけで良かったかも、恥ずかしいんだけど。細めの見た目とは裏腹がっしりした背中だったり、しっかりとした腕だったりこの前の風邪の件を思い出しそうでダメだ。
海の家について、降ろしてもらう。
「...ご、ゴメン、重くて」
「本当にな」
う、それ胸に突き刺さるんですけど。
私は水道で足を洗ってる間に荒北は救急セットを借りてくれた様だ。
海の家の隅で処置を始める。流れで荒北がしてくれるようだ。
「...前もあったね、場所は違うけど」
「本当になまえチャン抜けてんね」
「ハイ、仰る通りです」
さすがの今回はおとなしく受け入れるよ。
救急セットを開いて、手際よく使うものを出していく。
消毒液と綿をもった荒北の前に足を出す私。
荒北は私の足をもって消毒し始める...が
「ぁ、痛っ、荒北ぁっ」
「我慢しろボケなすが」
「してるってばっ、ぁ」
スパッと切れてるから、この前みたいに転んだ時よりも鋭利に突き刺さる感じで痛い。
「これ、水に濡れても大丈夫なやつだな、良かったねなまえチャン」
荒北が絆創膏をはってくれた。
「荒北、ありがとね」
「どーいたしましてェ」
荒北は足をもったまま、足の甲にキスした。へっ!?
そして荒北はスッと立ち上がって救急セットを返しに行った。な、何だったの?
荒北が戻ってきたが、先ほどと様子は変わらない。
「歩けっか?」
「な、何とか」
ケンケンしてみて、様子をみながら足をつける。うん、痛い。浅くても長く切ったからね。
苦い顔した荒北が手を貸してくれる。優しいよね荒北本当に。
「もう今日は帰ればァ?」
「そうだね、そーするよ」
夜は花火の予定だったけど、歩きにくいし、そこまでやってられなかった。
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