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パラソルについたら案の定心配されていた。
「なまえ達どこ行ってたの?って怪我したの?」
「ナンパについて行こうとしてたからなァ」
荒北!私が応える前に余計な事を言いやがった!一斉に皆から怒られる。
「おめさんそんなことしちゃダメだ」「あぁ、するべきじゃないな」
「だからひっかかってないですから!あ、申し訳ないけどやっぱり多少痛いし歩きにくいから今日私先帰るね」
しょうがないよねと皆同意してくれた。
荷物をまとめる。その荷物を荒北が持った?え?
「はぁ、俺も先帰るわ」
え、そうなの?ポカンとして荒北を見つめる私と荒北以外。
皆の視線を受け苦い顔した荒北に二の腕を引かれながら私は皆に"あ、じゃまた!ゴメンね"と言いながら連れてかれた。
更衣室前に連れて来られた。
「...1人で着替えられんのォ?」
ニヤッと言い放つ荒北。
「っ!大丈夫ですっ!」
荒北から荷物を受け取り、慌てて更衣室に入る。シャワーを浴びながら水着を脱いで体の砂を落とす。そして着て来たワンピースに着替える。
着替えて出たら、荒北も着替えて終わって待っていた。...意外とカッコ良くてなんか嫌。
「...カワイイの着てんのな」
マキシワンピースの事か。そりゃいつも荒北と会うときは部屋着に近いもんだったしね。だからこんな格好みられるのは予想外だ。
「う、良いでしょ別に」
「ぁー、似合ってんヨ」
そう言い放ち荒北はたどたどしい足どりの私の手を握ってゆっくり歩き出した、なんなのこの甘い荒北。どうか顔が赤いのも夕日のせいでよろしくお願いします。
いつもと違う口数の少ない荒北に反抗する気にもなれなかった。そして電車の中も荒北に手を握られたままだった。さすがに恥ずかしくなって離してもらおうとする。
「あ、荒北、て、手を」
もはや文章にならない私。手の汗も気になるし一回離してほしい。
「...ホイホイとナンパについて行こうとするなまえチャンだからなァ、今日はこのままねェ」
私を横目に見つめてくる荒北。だからついて行こうとしてないって、いや、してたことになるのか私。それから1度手を繋ぎ直して、恋人繋ぎにされた。あまりの衝撃で無言のまま電車を過ごす。繋いだ手が心臓になったかのようにドキドキする。
...はぁ、もういいよいい加減認めるよ、私荒北の事好きになってるよ。バカ。
汗は気になるけど正直この繋いだ手が心地良いのも知っている。他の誰でもなくて荒北が良い。
そう思ってしまうと、あの時やその時疑問に思った自分の感情が、そこからくるものなのかなと納得出来る。というか前から好きだったのか荒北のこと。ダメだ、鈍過ぎだ私。
...今更ながら荒北は、私の事どう思ってるんだろうか...繋いだ手を見つめる。嫌われては無いはずだ、好かれて居るはずだが、兄妹と思われていそうな気がしてきた。差し詰め抜けてる妹のような扱いなのかもしれない。
あれ、そう言えば荒北彼女は?クラスTシャツの"やすくん"の、え、何自分の気持ちに気付いた瞬間に敗北決定なのか私。ちょっと泣けるんだけど。
私だけ赤くなったり青くなったり悶々としている間に最寄り駅に着いた。その時にはもう辺りは夜になっていた。そりゃ足を切った時夕方近くだったしね。
そう思った時にグーっと荒北のお腹がなる。
「...どっかでご飯食べる?」
「肉」
一文字かよ。肉ねぇ...。
「焼肉?牛丼?定食系?」
「牛丼だなァ」
最後の最後で勝手にデート気分だ。そんなご飯が牛丼だけど、私らしくて満足だ。有名チェーン店に手を繋いだまま入る。席に座り手を離された。久しぶりに手が空になり冷えていく手がさみしい。
それぞれ注文して、食べる私達。食べ終わって店から出たら当たり前のように手を繋がれて歩き出す。その事が悲しいけどただただ嬉しい。
帰り甘いものが飲みたくてコンビニによる。私はカフェオレ、荒北は例によっていつものやつを買って近く公園に寄る。夜な事もあるせいか人は居なかった。適当なベンチで飲む。しょっぱいものの後は甘いものだよね、やっぱり。そのへんは、荒北への気持ちに気付いても気付かなくても変わらない。
荒北の彼女っていつもこんな感じなのかな。羨ましい、ただ今日だけは貸して欲しい。
「...荒北彼女いんのにゴメンね」
とりあえず謝るしかない。
「はぁ?いねェよ」
「え、クラスTシャツに"やすくん"って書いてあったじゃん」
「あれは誰でもあーやってアダ名っぽくして書いてあるだけだけどォ?」
何いってんのコイツ的な目で見てくる荒北。
「そう...」
「...気になったのォ?なまえチャン」
あ、そうなの?あからさまにホッとしてしまった。そのせいかニヤッと意地悪な顔で聞いてくる荒北。
「き、気になった!」
思わず素直に応える私。にビックリする荒北と私。通常の私だったら"自意識過剰もいい加減にしてくれる?"くらい言っている。荒北の顔が真っ赤だ。
「っ!本当っ、バッカじゃねェの!」
「うるさい!だって彼女がいたら色々申し訳ないと思ったんだもんー」
反論しながら安心したことと恥ずかしさとで、思わず涙が出る。慌てて顔を隠そうとしたがそれに気付いた荒北が私の顔に手をあて、あろうことか伝う涙を舐め始めた。
「あ、荒北ぁ!!?ん、ちょっと」
パニック状態の私。涙を舐め終わったら最後耳をペロッと舐められた。
「ゃっ」
「ん、しょっぱいねなまえチャン、あと顔真っ赤ァ。暗くても分かるね」
そりゃ、そうなるから!顔を手で覆い隠すようにして下を向く。
「な、何すんの荒北ぁ?」
「なまえチャンが俺の事気になるとか言うから?ついってやつゥ?」
ニヤつきながら聞いてくる荒北。そりゃ、気になるのは当たってるよ当たってるけど。何か悔しくなった。
荒北の服をギュッと掴む。その手を上からそっと掴まれた。
「...ハァ、もうダメだ俺。...好きだヨなまえチャン」
荒北に抱き締められる。
「新開の野郎じゃなくて俺にしろヨ」
なぜここに新開出てくる?
「え、新開とは何にもないけど?」
抱き締めたまま固まる荒北。
「あのクソ野郎ォォ」
ギュウっと力任せに抱き締められた。く、苦しい、嬉しいけどさ!
さっき気付いた思いだけど、私も伝えなければ。荒北を見つめる、心臓が壊れそうだ。
「あ、荒北。私も言いたいことが...あって」
抱き締められているのを緩められる。
「なァに?なまえチャン」
意地悪い顔しているが目は柔らかく、その目に見つめられる。心臓がバクバクして、全身の血液が沸き立ちそうだ。
「...愛やら恋やらよく分からないけど、荒北にはずっと側で居て欲しい。だ、だからずっと側にいて?」
荒北の目を見ながら言い切った。
一瞬ポカンとした荒北だったけど、どうやら嬉しかったようだ。
「ハッ上等じゃねェの」
顔を持ち上げられ荒北の薄い唇にキスされた。ちょ、速攻過ぎないだろうか。
「あっめェ」
「...そりゃカフェオレ飲んだからね、そして私初めてだったのに」
「ブッ、マジで?嬉しいわ」
もう一度キスされる。角度を変えて何度もされた。
途中で"俺もだからァ"って声が聞こえた。それ聞いて少し嬉しい自分自身がなんだか気持ち悪い。
触れるだけのキスを繰り返していたら途端、長い舌が口を割って入ってきた。驚きで舌を押し出そうとするが絡め取られた。口内を自由に動き回る荒北の舌、歯をなぞり、少し苦しい様な気がして再度押し出そうとするとまた舌を絡め取られる。ん、酸欠になりそう、頭がぼーっとしてくる。
あ、荒北だって初めてだって言ってなかった?こんな、こんなに初めて同士するものなの?朦朧とする頭で考える。
「ん、んーあら、きたぁ」
予想外の展開に息も上がり、荒北に呼びかける。目があった荒北は見たことない色っぽい表情をしていた。
「コッチは散々我慢させられてんだヨ。わりィけど腹ペコ過ぎて、全っ然足りねェの」
再度顔を上げされて、キスされる。口を割って舌を入れられ、余すことなく口の中を探られる。荒北の服を掴んですがりつくように身を任せる。
「ん、ハァ...ぁ、もぅ、や」
荒北の胸をたたく。私の反抗も些細なもんらしく辞めてはくれない。
口を離したと思ったらマキシワンピの肩紐をズラされて鎖骨にキスされる。ピリッとした痛みとくすぐったさで変な感覚だ。何カ所も同じようにキスされる。身をよじるががっしり身体を固定されていて逃げられない。
「ぃたっ。ん、ぁ、あらきたってば」
それじゃぁとばかりに今度は口を塞がれる。また舌でこじ開けて口内をなぞる。え、これいつまでするの?このまま頭溶けていきそうな気がしてくる。
遠くから通行人の話し声が聞こえてきた。荒北にも聞こえたのかやっと離してくれる。チッと舌打ち付きだ。
口と口が糸をひく。恥ずかしくて手の甲で口を抑える。
「てめぇキスくらいでエロ過ぎんだヨ、喘ぐなボケなす」
「な!?知らないし!荒北がそうさせてるんだけど!?」
お互い甘い悪態をつく。
「ハッ、言ってくれんじゃねェの」
荒北はそっと脇腹、腰辺りを撫で始めた。
「ちょ、ちょっと」
「前夜祭の時新開にされてんだから俺にも触らせろヨ」
見てたの?あのやり取り。
「新開ごときに腰抜かしやがって」
う、見てたのか。
「ゃ、ちょっと」
撫で回す荒北の手が気持ちいい。
「...あいつは何回か殴っといた方が良かったなァ」
「...続きはまた今度ねェ」
どうにか私を開放してくれる荒北。今度って何よ。
「喰わせてね、なまえチャン」
耳元で言われる甘い誘惑。あのね、そんな簡単に食べられたくないんですけど。
「まぁ...お手を柔らかにお願いします...」
小声で言ったつもりだったが、荒北にはしっかり聞こえた様だ。
「〜っ!本当悪い女だわなまえチャン」
公園から帰ろうとする。
私の気持ちも伝え足りないので今度は私から手を繋いだ。
荒北は驚いたようだけど握り返してくれた。
「好きだよ荒北」
その少し驚いている顔だって。
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