外へ行こう
土曜日荒北家に迎え行ってあげる優しい彼女な私。今日はジーンズでラフな格好でやってきた荒北家。
ピンポーンとチャイムが鳴らす。するとこの前の妹さんが出てきた。
「あ、なまえちゃん」
「こんにちはー、靖友君います?」
入っていって良いですよーと案内され、荒北の部屋に行く。
ドアをコンコン、ガシャと開ける、声をかけながら。
「入るよー」
「...オイ、返事待てヨ」
だよね、私も今思った。
「ゴメン、着替え中に」
上半身裸な荒北だった。呆れながら荒北は上を着て私に近寄る。
「何?襲っていいって事ォ?」
耳元で囁く荒北。
「え、外出たい?よし、外行こう!外」
ドアノブに手をかけた私の背後からドアが開かないように覆いかぶさってきた荒北。要は後ろから抱きしめてきたということだ。
「...あと少しィ」
「はいはーい」
なんだかんだで2人だけなんてならないもんね、学校でも違うクラスだし平日はまぁ会わないしなぁ。そんな事を考えながら荒北はとりあえず満足いった様だ。
荒北家を出る私達。
「で、どこいく気なの?なまえチャン」
「んー?フフッ、着いてのお楽しみで」
荒北を引っさげ、部活やら学校の話をしながら徒歩で目的地に向かう。
寂れたある場所に連れてきた。
「目的はここかヨ?」
「やっぱり嫌だった?ごめんね」
「別にィ、良いけどヨ...むしろこんなとこで良いのお前?」
荒北の言っている意味が分からない。誘ったのは私だし、連れてきたのも私なのに、思わず首を傾げる。
「...だーからァ、...初...デートがここでェ...」
苦い顔した荒北から出た予想外の可愛い言葉に思わず笑う。荒北が私の事そんなに考えていてくれたなんて思わなかった。面白いのと嬉しいので泣き笑うことになった。
私としては海の夜が初デート気分だったから気付かなかった。
「チッ 笑うんじゃねーヨ、ボケなすがァ」
「ゴメンって、荒北はもっとそれっぽいとこが良かった?私はむしろココが良かったくらいだよ。っていう事で手取り足取り教えて下さい」
「ヘイヘイ」
私が荒北を連れてきたのは寂れた格安のバッティングセンターだ。昔何度も父さんに連れてきてもらったな、あの時よりも寂れている、人もまばらだ。
私としてはぶっちゃけ球技大会の隠れ練習をしたかっただけだ。それを口実にデートを誘った訳だけど、そうかこれ初デートになるのか。
「荒北去年はサボりだっただろうけど、今年の球技大会どうせ野球選んでるんでしょ?そして投げるんでしょ?」
「まァ...やる奴少ねェしな」
とか言いつつやっぱりやる気なんだね。思わず笑みが零れる。
「精々おめェのクラスあたったらぶっ潰してやんヨ」
「私もそっちのクラスの女子泣く程打ってやるから」
お互い様な性格に思わず笑い合う。
バットを持って屈伸運動したり簡単に準備運動をする荒北。懐かしいな...つーか、やっぱ似合うよね...思わずそんなことを思ってしまった私も適当に体を動かす。
チャリンチャリンとお金を入れるとウィーンと音を立てて動き出す機械。
「...荒北、ちょっと見本!」
「何?なまえチャンビビってんのォ?」
「...久しぶりだから、なんか無理。って事で先荒北でよろしく」
荒北の言葉通りビビったので、ネットの外に出て、代わりに荒北が入る。
見慣れた綺麗なスイングで機械によって投げ込まれたボールを端まで飛ばした。実に楽しそうな荒北だ。構えては打ち、ほとんどのボールを転がしたり遠くまで飛ばしていく。やっぱり、身についた技術はそっとのことじゃ落ちないのだろう。
そして私から誘っておいてなんだけど、こうね...楽しそうに運動しているとちょっとかっこいいんですよ私の彼氏、その一点を見つめる真剣な姿とかがやたらツボに入るんですよ。簡単に惚れ直している単純な自分が嫌だ。まぁそんなこと絶対言ってやんないけどさ。
「...荒北やっぱり凄いね」
20球程打ったのか、荒北からネットの中から出てくる。
「るっせ、褒めんな。次やんだろ?」
中へ入れとジェスチャーしてくる。
「はーい、適当に口出して」
ボックスに立つ確かこんなんだよねと自分なりに打ちやすいように構える。打ち出されたボールをタイミングよく打つ。当たっただけのボテボテの内野ゴロにもならなそうだコレは。
「プ、だっせ」
横から野次が飛んできた。
「そこ、うるさいんですけどー」
女子はこんなくらいだ、当たるだけマシなはずだ。
また投げ込まれるボールを打つ。
「つーか腰入れろ腰、ひけてんぞ。なまえチャンビビってんのォ?」
腰か、腰を意識して打つ。
「スタンス幅もう少し広くしろ」
「もっとボールを見ろヨ、真ん中で打てや」
荒北の半野次の様な指令をその都度意識して返事もせずに直していく素直な私だ。連続で数十球うっていたら、ボールも芯で捉える時も出てきて、一応それなりに転がせる様な感じにはなってきた。
「はぁはぁ、疲れた。ちょっと休憩」
「ヘイヘイ」
自販機で飲み物を買い、タオルで汗を拭いながらベンチで休む。
「ハッ これで泣かすとかよく言えたななまえチャンよォ。つーか体力落ち過ぎ」
「ぅ、うるさい。現役の運動部と比べないでよ」
そして過去野球やっていた人間と比較するな。
ベンチに荒北と1人分の距離をとって座る。タオルで汗を拭き休憩しながら、衝撃的な事に気付いた。
「...荒北、なんで気付いてくれないのさ」
「あ?」
「球速130キロなんですけど!?」
「...」
速度表示をみて、思わず黙る荒北。荒北の次でやったからそのままの球速だった。気付かない私も私だけど。
「...ぁー...わりィ」
いや、悪いのは私だけどね。
とりあえず次は、一番遅い80キロで行う事になった。そりゃそうよ学校の球技大会で130キロ出す女子投手はまず居ない。ソフトボール部もないしね。
投げ出される80キロのボールだが。
「...ヤバイ荒北、ボールが止まって見えるだけど!」
先ほど荒北に教えてもらったスイングで、どんどん遠くに飛ばす私。おお、なんだか凄く楽しくなってきた!
あっという間に20球を打ち切った。
「...ナイスバッティング」
「もしかしたら荒北のクラス泣かせること出来そうになったかも」
「の勢いだねなまえチャン、さすが体育バカ」
荒北の戯言も寛大に受け止められるくらいは楽しかった。よし、あと一日くらい父親つれて練習に来よう。
おもむろに荒北が立ち上がり、ボックスに立つ。どうやら少し悔しかったらしい。130キロの球速を選びうち出されるボールを遠くまでどんどん運んで行く。
おー凄い、カッコ良いわやっぱり。
最後っぽいボールが投げたされた瞬間に大声で声かけた。
「荒北!大好きだよっ!」
この日始めて空振りした荒北だ。
ネットをくぐって出てくる苦い顔した荒北。
「ちょっと卑怯なんじゃナァイ?」
「そう?嬉しいくせに」
「っせ」
笑いながらタオルを渡す。なんであるんだ的に驚く荒北。そりゃ内緒にして連れてきているからしっかり荒北の分もタオルを持ってきてあるさ。少し顔赤いですよ荒北くん。
帰り道
西日に向かって歩く。まだまだ暑いな昼間は。そして一応気になっていたことを聞いた。
「...まぁ誘っておいて、それもすごい今更なんだけど、肘大丈夫なの?」
「あ?このくらいアップにもなんねェヨ。んな事気にしてんのォ?」
「そりゃ一応」
自転車もあるしさ。あと古いトラウマえぐってるかなと。
「あとリーゼントの古傷えぐってるかなーって」
「それはとっとと忘れろヨ」
「...少し球技大会の野球楽しみにしていてい?」
「あぁ」
ニヤリと笑う荒北。そんな自信ありげな顔が好きです、おそらく昔から。
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