黒田と首すじ
なんだかんだて働くみょうじさん。最初は微妙かと思ったけど、人当たりは良いし、気さく、気が付くし、まぁ......嫌いじゃない。
この前、俺たち後輩の1人がみょうじさんを"姉さん!"と呼んだ、所謂先生に"お母さん"と言ってしまう感じに間違えたのだが普通に"何、どうしたの?"と普通に返答するみょうじさんに多少萌えたのは新しい。そこからか、時々みょうじさんを姉さんって呼ぶ後輩が多数居る。確かにこんな姉さんなら居ても良いかもしれないと最近思い始めてしまった。
この前は文字通りぶっ倒れるまでマネ業やっていたみょうじさんだ。あの時の荒北さんの慌てようっていったらなかった。
あれから一週間元気になったみょうじさんは、今日もせせこましく働いていた。そして部屋の隅っこで部誌を書いているみょうじさんをチラ見する。...なんで今2人きりなんだろうか。
何か調べたくなったのか椅子から腰を上げて、本棚へ向かうみょうじさん。1番上の段なのか背伸びしたみょうじさんだが全然届かない。160はないよなこの人。そして諦め踏み台を探している。...あぁもう、言ってくれれば取るのに、本当この人は。
大体この人はこの仕事は私の!って感じにちょいちょい手の空いてる後輩が手伝おうとするのに絶対に手伝わせてくれない。笑顔でじゃ手伝うくらいなら練習してと言われた事がある。その笑顔のプレッシャーに近寄れなかった。
そんな誰にも頼らずに影で働くみょうじさんだからこそ少しくらい手伝ってあげたいと思う輩が多数いるのに...それには気付かないらしい。
「...これですか?」
見るに見兼ねて、みょうじさんが低い土台で背伸びしている後ろから手を伸ばして目的のものらしい資料を取ってあげることにした。そんな俺に少し驚くみょうじさん。
「...そう、ゴメン黒田くん。それともう一冊、隣の...」
目下にみょうじさんの白い首すじから背中までのラインがどうしても目に入る。髪をサイドで1つでまとめているから不可抗力だ。しょうがない。
...ヤバイ、いい匂いがする。って荒北さんじゃねぇんだから!ほのかに甘い独特な匂いが鼻をかすめる。ってダメだこれ!
ふと、みょうじさんの首すじから肩にかけての辺りに赤いところがあった。思わず少し覗き込む、蚊にでも食われたのか?
本を取り渡しながら思わず聞いてしまった。
「首の裏?肩のへん赤いですけど何か刺されました?」
「え?」
見えないけど振り返る感じに見ようとするみょうじさん。
「ここです...」
って、これって!しまった聞いていけない痕だ。みょうじさんの顔が少し泣きそうに赤くなる、それがやけに扇情的だった。
「そう!蚊!蚊に食われた!ゴメンありがと!教えてくれて!」
怒涛に喋ったみょうじさんがバタバタと部屋を出て行った。...隠しにいったなあれは。そしてどんだけ嘘下手なんだよ、だれが信じるっつーのその嘘。なんだ、これも徹するってことか?
「はぁ...」
なんとなくしゃがみ込む俺。
なんつーか...慕っていた姉さんの女の部分見せ付けられたような複雑な気分なんだけど。
つーか、やっぱり彼氏居たのか、噂で居るとか聞いていたけどさ。...アレつけた人酷くねぇ?あの位置につけるとか...本人が気付かない位置でいて俺が気付くって。...しまった、俺が覗き込んだからか...まんまと術中に嵌ってる。
気付いちゃいけねぇんだあの痕、すげぇ牽制された気がする。
今更になって指摘したことを後悔した。
やっぱり、彼氏は新開さんだろうか?やたら仲良いしな。
部活終わりに荒北さんに呼び止められる。
「なんですか?荒北さん」
そしてガシッと肩を組まれる。が...少し痛いんですけど。
「マネの事変な目で見んなボケなす」
いつもより重低音の声が降ってくる。
「...見てません!」
畜生、この人かよ!意地悪く笑う荒北さんがいた。
「あっそォ」
「...はぁ、趣味悪いです」
「ハッ てめェ引っかかっただろうが、あれはゴキブリホイホイだからァ」
俺はゴキブリかよ。鼻歌交じりに上機嫌で戻っていく荒北さんを見送る。そんな荒北さんにもタオルを他の部員と変わらず渡しているみょうじさん。そりゃ気づかないわ平等に接しすぎ。
するとポンと肩に手を置かれた。
「どうしたホイホイされたのか?」
笑う新開さんが後ろにいた。
「いえ、不可抗力です」
「逃げられなくなるうちにやめとけよ」
分かってますから指摘しないで下さい。...つかこの人もホイホイされてんじゃないのか、知っているし。
「ホイホイされてんのは新開さんじゃないんすか?」
「あぁ俺はとっくに捕まってるから自由なんだ」
なんだこの人手遅れかよ。
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