新開のフォロー
靖友とみょうじが喧嘩した。
あれからそれぞれの仕事は完璧にするけど、全くと言うほど話さない。もともと口数が多くはない、まぁある意味多い2人だが、かれこれ2週間近くにもなる。
みょうじだって子供じなないから、無視する訳でもなくタオルを渡したり飲み物を渡したりはする。靖友も靖友でそれで一言返すだけで本当に余計な会話をしない。
なんというか同じ空間に居ても周りが気を遣うレベル。でもそれすら察知すること出来るみょうじだから、靖友が同じ空間にいる時は周りが気を遣わないように自然に席を外して居なくなる。
あの時、物音が凄かった部室に行くと1年が座り込むみょうじを心配していた。そして俺たちの存在に気付き張り詰める空気。それで寿一が訳を聞き出していると、おとなしく聞いていた靖友から怒りのオーラがどんどん強くなっていった。そりゃ、そうだろう、話の流れが大体読めたからな。
後輩に詰め寄る荒北を笑顔でなだめるみょうじ。そんな姿すら苛立ったんだろう、"関係ねェ"で突き放す靖友に思わず言い過ぎだと咎める。って靖友俺まで睨むなよ。
みょうじはさすがに傷付いたのか少し泣きそうだがここで泣くやつじゃない。キッと靖友睨み付けて反論した"関係ない"と、まぁこれも確かに正論になるのか。そしてそのまま飛び出していった、追おうと廊下を見たが今更全力疾走していったであろうみょうじに追いつける気がしなかった。
残された俺らの視線は自然と靖友に突き刺さる。多少やってしまった感があるのだろう靖友にも、あいつも舌打ちしながら部屋から出て行った。
とりあえず、みょうじは俺が連れ戻してくると言い探しに行く。
そんなみょうじは探し場所第一候補で見つかった。
俯きうさ吉を抱っこするみょうじに声をかけるといつも通りの返答で安心する。
...やっぱりみょうじは小柄だ、男の中に割って入って殴られて喧嘩を止めるとは思わない。大人しい見た目の上、予想つきにくい事をするから靖友もハラハラするのだろう。
血がついている口の端を指摘してやるとガードはしてたんだけど...と男前な言い訳が返ってくる。通常なら舐めてやろうかぐらい言うが今日は火に油を注ぎそうなので大人しくしていた俺。
やはりみょうじは靖友に言われた関係ないに傷付いていた。俺が靖友の事も分かるけどなと言うとわけ分からず少しムッとする表情が少し可愛い。まぁこれだがら靖友が離さないんだろう。
靖友があぁ言ったことは分かる、自分のこと省みないで無鉄砲に突っ込んで殴られた彼女を見て苛立たない男なんていないからな。心配からきた言葉なのだが、言葉のチョイスが荒かっただけだろう。
ここでそう靖友のフォローをしなかった俺は多少意地が悪いかもしれない。
「どーにかしないとならんな、しかし新開なぜ連れ戻しに言った時にみょうじに荒北のフォローをせんのだ!?」
言えばみょうじなら理解するだろう!と続けて騒いでいる尽八。
「それじゃ俺がつまらないだろ」
手が空いて暇になっても行くところがないみょうじは、必然的に俺の側に寄ってくるからな。多少美味しい所はいただきたい。
新開に行かせるべきではなかった!と続けて喋っている尽八だ。
「...しかし、この雰囲気は多少マズイな」
お、寿一にまでそう言わせるとはさすがだな2人とも。
「そうかぁ?なるようになるんじゃないか?」
「ってなっていないじゃないか!後輩にまで気を遣わせてるじゃないか」
ほっておいてもあの2人の事だ仲直りするはずだ。ここまでくると単なる意地の張り合いのような物だしな。
とりあえず尽八と寿一が仲直りさせたがっているので協力することになった。そんな事しなくてもそのうち仲直りするっていうのに。
次の日尽八が早速某有名テーマパークチケットを手に入れてきた、しかも俺たちの分まで。旅館の関係で手に入れたそうだ、でこれに行かせるということか。
「...俺がみょうじ誘って行ってもいいかこれ」
「何のために用意したか分からないじゃないか!とにかく新開はみょうじを誘うのだ!」
ビシッと指を指して指示してくる尽八。尽八と寿一が靖友を誘うようだ。しょうがないから、誘うことにする。予定は今週末の部活休みの土曜、みょうじは感づきやすいからこの仕事は一苦労だった。とりあえず怪訝そうな顔をするみょうじを誘い出す事に成功した。
土曜
みょうじと早めに待ち合わせる俺。午後の現地集合だから早めにいって勝手に連れ回す魂胆だ。この大役をもらったんだからこのくらい許容範囲だろう。
12月に入ってめっきり寒くなった、本来ならば部屋から出たくないのだが今日はひょっこり出てきている俺。そんなところにふらっと現れたみょうじ。
「新開、おはよ。待たせた?」
「...おぉ そんなに待ってないぞ...」
なんというか一言で言えば物凄く可愛い。え、なんだ?俺と出掛けるのにそんな格好してくれるのか?俺は女の子の服装とか色々分からないがとりあえずミニスカにタイツは好きだ。ほぼその通りに感想を言ったら、呆れた表情でこれはキュロットだと返ってきた。
なかなか制服のスカートもそこまで短くしないから余計にこの足が眩しい。キュロットだろうがどうでもいいから連れて帰って良いだろうか。
まぁそうも言ってられずに電車に乗り目的地を目指す事にする。
「で、どこ行く気?」
相変わらず冷ややかなみょうじだ。
「まぁ着いてくれば分かるさ」
「...ねぇ新開?」
手摺につかまりながら、含みのあるような笑顔で俺の顔を覗き込むように呼びかけられて思わずドキッとする。
「行ったら荒北もいない?」
しまったお見通しか。
「ははっどこで気が付くんだみょうじは」
「女の勘ってやつですね、差し詰め東堂君って辺りでしょ?」
「さすがだな」
「ごめんね当てちゃって、気付かないで引っかかろうとはしたんだけど。そして新開達にはいつも気を遣わせててごめんね」
少し悲しそうな雰囲気のみょうじに少し悪い事をしたなと感じる。
「...このままではいけないのも分かっているし、ちゃんと謝る、仲直りするよ」
さすがというか、色々考えてはいるのかみょうじも。
「無理矢理すまなかったな」
思わず触れたくなってしまい、みょうじの頭に手を置くぐらいで留める。
「いや、寧ろ巻き込んでてゴメンね」
こんな微妙な話をしているので、周りから俺たちが喧嘩しているのではないかという好奇な視線を感じる。やめてほしい、俺だったらもう少し上手くやる。
そして某有名テーマパークに着く。さすがに驚くみょうじ。
「...本当どうしたのこのチケット!?」
「尽八からだ、旅館の関係で手に入れたそうだ」
本当にいいのかなぁとなんだかんだで少し嬉しそうなみょうじを見ると来て良かった気がする。これも全部靖友の為というのも多少面白くないところもあるが、約束の時間まで好きにデートを楽しむ事にした。
「で、その時間は何時?」
クスクス笑いながら聞いてくるみょうじ。もう、計画も崩れているようなもんだから素直に白状する。
「13時だ、折角だしこのチケット楽しもうぜ」
今10時だしな、せめて3時間くらい連れ回しても文句はないだろう。
「また早く来たね。じゃなんか乗ろうか?」
素直に付き合ってくれるみょうじはやっぱり良い奴だった。
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