お勉強


「なんで、こーなってんの?」

私が荒北に思わず声をあげる。そう私の手元には荒北のテストの成績表だ。
「っせ」
「..."っせ"じゃなくないです?」
いつも通り、いやご機嫌斜めな荒北だ。

事の発端は、少し前の喧嘩にだった。荒北の言い訳としてはテスト前後にうだうだしていたので、身にはいらなかったとの事だ。でいくつか追試になっている。はっ、こじつけもいいところだ。

「...少し勉強一緒にする?今度の日曜とか部活休みだよね」
「...おう」
それでも優しい私は、手伝うのだ。なんしろ彼氏なので、留年とかされたらさみしい。

そして珍しく私から提案する。
「や、靖友の寮の部屋行ってみたいから、寮がいいな」
するとちょっと嫌そうな荒北だ。私としては、なんていうか実家だと高確率で...いたす、ので、追試を優先して欲しいので寮にしようとする。私のそんな気持ちを知ってか知らずか、寮でとなった。




日曜の男子寮

うん...実に入りにくいぞ。いや、私が来たいって言ってたんだけどさ!入り口に佇む私。よし。
いざ行かんとばかりに入り口あける。見知らぬ空気の玄関に気まずさがある、入館手続きとって荒北の部屋を寮母さんに教えてもらう。
そして休日の男子寮の廊下を歩く、女子寮とも食堂は一緒だよね、同じ建物っぽいのに雰囲気がちがう。っつーかチラチラ見られる感じが嫌なんですけどー、なんか話しかけてこようよ!

「おお!みょうじどうしたんだ?」
見知った顔にホッとする。新開がスエットの格好で廊下を歩いていた。
「荒北の追試勉強の手伝い〜」
「そうか、いいな俺も混ざりたい」
「ん?良いけど追試引っかかってんの?」
「ああ、5つだ!」
「...」
ウインクしながらバキュンじゃないっ!こんなところをウロチョロしてないで勉強しろよ。
「...分かった。新開も荒北の部屋行くよ」
バカが増えた。


荒北の部屋の前に立つ私。ノックをしようとしたら新開が私の後ろから手を伸ばして戸を開けた。
少し目を開いてビックリする荒北。そりゃそうだよノックなしだもん。

「あ、お邪魔します」
「なまえチャーン!?後ろになんかいんだけどォ!!?」
"シムラ後ろー"的な荒北の言葉に愛想笑いする私だ。
「......なんでてめェがいんの?つかなまえチャンも電話しろヨ!着いたらァ!」
「あぁ、なまえが俺も一緒が良い〜って言うからな!俺もよろしく」
「んな事は言ってません!」
「ここまでエスコートしてやったじゃないか」
呑気に答える新開に思わず突っ込む。そしてかくかくしかじかと新開がいる訳を話す。

それにしても寮のせいか狭い部屋だ。冬のためかコタツになっている、寒い今日には最高だ。コタツ置いた時点で部屋大部分しめてる狭さだけど。
それでも小綺麗にしてるもんなんだな、実家と一緒で...キョロキョロ見渡す。
「おめさん、こんなに部屋綺麗じゃなかったろ?」
「黙ってくんナァイ!?つか、パワーバーポロポロ落ちてんだけどォ!?」
思わず笑う私。せせこま片付ける荒北を想像するとなんだか面白い。


とりあえずコタツに入って勉強を始めようとする。
「!?」
しゃがんだ瞬間脇に手が入れられていきなり体が軽くなる。
「みょうじはここな」
新開の足の間に入れられる。
「いや、やめておく」「ダメに決まってんだろボケなす」
「ぇーたまには良いじゃないか」
可愛く頬を膨らます新開だ。

とりあえず間に座る私。まず人をダメにするコタツで勉強の時点でどうかと思うけど、場所ないもんなぁ。
それぞれ勉強道具を開かせて勉強し始める2人。

....本当勉強とこいつら似合わないな。ガチの体育会系な2人は難しい顔してシャーペンを回してみたりしながら手を進めて行く。
私は私で、持ってきた読みかけの小説を進める。そう私は監視員だ。

「みょうじ、ここ教えてくれ」
新開に出された問題をみる。って基本じゃないかこれ。
「...新開授業起きなよ。今度、寝てたら後ろから蹴るからね」
「え、ちゅーでもして優しく起こしてくれたら起きるぞ」
言った瞬間に荒北が無言で引っ叩く。
ルーズリーフに書き込みながら最初から解説する。一応は真剣に聞いてくれる新開だ。黙ってると本当イケメンなのに、多少残念だ。


腕をチョイチョイつつかれる。や、いや荒北に。
「ん」
教科書を指さされるので、同じように教える。荒北側に寄り、頬杖をつきながら聞く気があるのかないのか分からない荒北に教えているとコタツの中で私の太ももを這う手。

...ちょ、やめてくれ新開だっているんだから!新開は何も気付かずに教科書ペラペラしながら進めている。
コタツの中で平然と太ももを撫で回す荒北の手をシャーペンをもたない左手で抑えるように上から押さえつける。しかし押さえつけたその手を掴まれて指を絡められる。...何て言えばいいのか、新開だってうちらが付き合っている事知っているから恥ずかしくないはずなのに。このコソコソといちゃついている感が凄い恥ずかしい。
「それからァ?」
「っ!」
って、手に意識がいっていた!ハッとして説明していたルーズリーフから顔を上げると荒北が片方の口角を上げた意地悪そうな顔をしている。少し睨むがなんの効果も得られてないようだ。
続きの説明を行うが、非常に気が散る。触られる太ももが熱くなってきた気がする。荒北を睨みながら手の甲をつねり、解説を終わらせた。



そんなこんなで2人の勉強を監視して2時間、お客がやって来た。
ノックがされたかと思ったら戸が開いた。
「やっとるかね!?」
大声で入ってきた東堂君と見守るように立っている福富君だ。

「...ごらんの状況です」
やる気のなくなっているこたつに項垂れてる2人を手で指し示す。
「情けないな!全く、前々から勉強しておけば良かったもの!」
自信満々に言い放つ東堂君に、"っせ"と言い放つ荒北。
「東堂君は追試引っかかってないでしょ?」
「あぁ、1つだ!」
お前もか!結局福富君以外結局は追試組らしい。

狭い部屋で大きな野郎共がギャーギャー騒ぎ出す。やめなさち、スペースが狭いんだから!そんな3人をほっといて福富君に話しかける。
「そういえば福富君、例の物もってきたよ」
「そうか、ありがとう」
渡した物、そう地方の親戚から大量に送られて来たりんごだ。その為この時期はやたらりんごが手に入るのでりんご好きな福富君への手土産だ。どこぞのお母さん達のやり取りだと言われるかもしれないな。


「なにそれ?福チャン!?つか、なんでそんなに荷物多いかと思ったらそれかァ?」
「そ、追試がない福富主将への労いの手土産〜。りんごとりんご入りのパウンドケーキ」
今日の午前に焼いてきたのだ。予想外に人数増えたけど、足りるだろう。
「俺にはないのか?」
新開筆頭にアホ3人が食いつき、コタツを囲んでりんごタイムになった。そして荒北の隣に座る私。


どこからか調達した2本の包丁とお皿。すぐさま福富君が包丁を持ち華麗に剥き始める。

あと1本の包丁を...え、何これ私が剥くのか?荒北、新開に剥きなよと包丁を出して言ったら剥いてくれと言われたので渋々剥きはじめる。

少しすると荒北と新開がそっぽ向いて肩を揺らして震え出した。震える理由は大体想像ついてる。
「...なによ..」
手を止めてジトッと2人を睨む。

「なまえチャン、下手すぎィ!」「おめさん下手だな!」
「悪い!?」
2人が爆笑し始める。そりゃ私にだって苦手なものはある。
「おめさん料理は出来るのにそれは出来ないのか?」
「技術が全く違う!!技術が!」
「つか、それ食うとこ少なくねェ!?」
「はっはっは、確かにみょうじも苦手なものがあるのだな!」
東堂君と福富君まで私の手元の惨劇を見て朗らかに笑う。

あーもう!だから、剥きたくないって言ったのに!こんなとこ見せたくなかったよ本当。...好きな人の前では出来るところをみせていたい乙女心だ。こんなのはピーラーで剥ければそれで良いんだって!!
つーかさぁ
「...っそんなに、笑わなくたっていいじゃん...」
酷くない?なんだか余計に惨めになるじゃん...。手元が溢れそうな涙で曇ってくる。

「!あれだ、フクが全部剥くから!な!フク!?」「ぁ!あぁ俺が全部剥く!」「!みょうじ!おめさんの場合はギャップ萌えになるからそれでいいんだ!それが正解だからな!」「そうだ!女の子は多少出来ないとこがあるのが可愛いぞ!」「そう、さっきすげぇ可愛かったからー...!」
俯く私に言い繕うかのように皆が一斉にしゃべりだす。そして新開が私の手から不格好なりんごと包丁を奪っていく。

「!っ悪かったからァ!っだからなまえチャン泣くなってェェェ...」
荒北が私の頭をガシガシとあやす様にして無理矢理下を向かせる。
「泣いてない...どうせ下手だよ、だから嫌だったのに...」
ブツブツと文句が私の口から出てくる。

「そうだ、なぜお前達がやらんのだ!?」
「あ、おめさんのこのパウンドケーキ美味いぜ。最高だ」
「ぁ!てめェ何先食ってんだァ!?」
「このりんご美味しいぞみょうじ」
頭上から自由な4人の声が聞こえる。

「ほーらみょうじ、ウサ吉だ」
新開がうさぎりんごにして目の前に持ってくる。なんだよ、新開だって剥けるんじゃん!しかも上手いし!
「ほら、みょうじにこのウサ吉食べて欲しいって〜」
目の前を跳ねるようにウサ吉を動かす笑み満載の新開。子供の泣き方する私に子供のあやし方をしてくる新開。私は仏頂ズラのままパクッと新開の手からウサ吉を食べた。
「...美味しい」
「ハハッ、そりゃ良かったな」
ウサ吉じゃないウサ吉を食べた。




荒北がコタツの机に肘をついて私の顔を覗いてきた。そして少し呆れたような笑顔で聞いてくる。あぁ靖友さん、涙を端にためるほど笑ったんですか。
「なまえチャン泣き止んだァ?」
呆れながら笑う靖友が大人にみえた。
「...だから泣いてない、...家にあるりんご全部剥いて練習してやる...」
「やめてやれ」





- 53 -

*前次#