荒北の年末
追試とクリスマスも終わり、学校が休みに入る。部活も冬なので屋内な上に非常に少ねェ。こういう時に多少嬉しいのは、なまえチャンの家が近いということだ。休みは
実家から数少ない部活に行くことにした。
必然的になまえチャンと一緒に。寒い寒い言ってコートに手袋マフラーにタイツにと着ぶくれしそうな勢いで着込むなまえチャンだ。
そして微妙な距離をとって歩くなまえチャン。
「....んで、そんな距離なんだヨ!?」
焦れったくてしかたがねェ。
「いや、なんと言うか...初めてじゃない?一緒に登校するの」
確かにそうなるのか、小学校低学年以来か?...意識すると何か湧き立つ気持ちがさらにむずかゆくさせる。
「...っ、アホ言ってねェでさっさと歩けボケなす」
背中を軽く突き飛ばす。
「ったい!もう!さっさと歩いてる!」
「おっせ」
「あんたが早すぎなの!」
ギャーギャーやっているうちにいつも通りになってきたなまえチャン。
「なまえチャン、りんご剥けるようになったァ?」
途端むすっとするなまえチャンだ。
「本当忘れてくれない!?あれから少しはまともになったから!」
その勢いある返答に思わず笑う。こいつのことだ、おそらく本当に剥いて練習したのだろうと想像ついた。
先日発覚したなまえチャンの苦手なもの。
この間の勉強会の休憩の事だ。りんごを剥くとかめんどくせェからなんも考えねェで剥いてと言ったらやたら渋るなまえチャンだったが、りんごを剥き出してそりゃ渋るよなと実感した。
繋がらない厚いりんごの皮に手元の惨劇に俺と新開は直視出来なかった。もうなんつーか必死に剥こうする姿がいじらし過ぎてやべェのなんのって、言えば良いっつーのに我慢するからなこいつ。大体なんでも器用にこなすっつーのにそこは駄目とか、確かにギャップはすげェあった。あまりにいじらし過ぎて笑うしかなかったのだが、本人にとってはすげェ嫌だったらしい。なまえチャンが泣き出しそうにするから、必死にご機嫌をとった俺たちだ。
「つーか、おめェ大体なんでも出来んだから別にあれくれェ良いだろ」
「...靖友に幻滅されたくないし」
ボソッと呟くなまえチャン。...幻滅なんかするかよ、んな事で。大体何しても幻滅なんてしないっつーの、何こいつんな事心配してたのか!?
「しねーし、だったら俺が全部剥くっからァ」
りんごの皮剥き宣言をした俺だ。
そして最近は、2人きりの時は名前で呼んでくれる時が増えてきた。それにらしくなくテンション上がる。
そんな適当な話をしながら、学校へ近づくと箱学の部活動の輩が多くなってくる。につれて離れる俺らの距離。
「...だから遠くねェ!?」
やはり焦れったい距離に突っ込む俺。
「な、なんか恥ずかしいの!」
なんかすっげェ嫌がられてる気がすんだけどォ!?つか、この微妙すぎる距離の方が目立つからァ!
チラチラそんな俺たちを見てくる視線がうぜェ。いちいち見んなボケなす。
「チッ、先行く」
まとわりつく視線もうぜェし、わけ分からないなまえチャンを置いて早足で部活に行く。ハッ引き止めもしねェし。
「...で、今度は何したのだ!?」
ローラーが終わったかと思ったら、変な事を言ってくる東堂。
「っせ。マジで何もしてねェヨ」
今回は、してねェはずだ。むしろこっちが傷つくくれェだ。
「大体おめさんだろ何かやらかすのは」
てめェはパワーバーでも食ってろ。
そして、俺やらかしてねェから!どんだけ俺信用ねェんだヨ!
つか、言えるか。一緒に登校したら嫌がられたとか。
後々におそらくなまえチャンから何となく訳を聞いただろう奴らが俺を励ましにきた、顔はニヤつきながら。マジでうぜェ、ほっとけヨ。
部活が終わる。さてどーするか…帰るとこはぼぼ一緒、また誘えば良いのか?マジでわからねェ。
「おめさんみょうじ捕まえとかなくていいのか?」
ったく、いちいちお節介すぎんだヨ。
まだなまえチャンは後片付けをしているはずだ。しょうがねェから探す事にした俺。
だが見当たらない…ったくトレーニングルームにも部室にも居ねェ、本当にあいつどこ行ったんだ?...洗濯か?あまり行かない洗濯室に向かう。
校舎の曲がり角で聞き慣れた声がしてきた。が思わず固まる俺。
って告白されてんじゃねェヨ!
なんで好き好んでいつもこんな所に遭遇しなきゃなんねーんだ!?そしてまたなんで隠れたんだ俺は。
でけェ洗濯カゴを抱えたまま立ちすくむなまえチャン。聞いちゃいけねェ感じがするが動かねェ足。
"お気持ちは嬉しいんですけど、ごめんなさい"
"っ、荒北より大切にするから!"
"いや、でもすいません"
チッ…相手誰だよ、舐め腐りやがってとりあえず死ね。
それから同じ様な押し問答をしているのを隠れて聞く俺。すげェ情けなくねェかこれ。
"...色々と荒北を引き合いに出すの辞めてくれませんか?私は何が何でも荒北が好きで荒北しか駄目なので、お気持ちには応えられません。じゃ、失礼します"
なまえチャンはおそらく洗濯室へ行った。バサっと切ってった、つーかすげェ嬉しい。...俺しか駄目とか...っ、朝の事なんか一気に忘れさる勢いだ。突然の甘さに耐えられなくてその場にしゃがみ込む。
「で、荒北はどうするのだ?」「どうすんだ?」
「!?」
予想外の声で振り返ったらアホ2人が俺同様しゃがんでニヤニヤ見ていた。
「俺たちが居たのにも気付かないくらい真剣に覗いてたな」「あぁ、覗きはいけないぞ荒北!」
「ってめェらも覗いてんじゃねェか!」
「いやぁ、さっきみょうじが呼び出されてたの見えたから折角誘えと言ってやったじゃないか」
「それよりも荒北!さっきなぜ出て行かん!?」
「そうだな、俺だったら出てくぜ?」
「...」
少し痛いところを突かれて思わず黙り込む。
「...みょうじはかっこいいな尽八〜」
「そうだな!スパッと荒北のフォローまでしたからな」
「ちょっと恥ずかしがられたくらいで拗ねてみょうじ置きざりにするやつとはちょっと違うよな」
「出ていって俺の女に手を出すなくらい聞いてみたかったのだろうみょうじも。あのしつこい奴はその方が楽だろうに」
「そうだな。みょうじも多少は悪いけど、どこかの誰かも気が短けぇよな〜」
芝居かかった様な野郎どもがブツブツ言ってくる。
「だー!っせーな!もう分かってっからァ!!」
どうせ俺がわりィんだろ!
なまえチャンの着替えを待つ。出てきた暖かそうななまえチャンが俺を見て驚く。
「帰んだろォ?」
「うん...一緒に帰る。朝はごめんね」
「...いーってェ」
謝りながら素直についてきてくれるなまえチャン。まぁなまえチャンが恥ずかしいっつーなら満足行く様に距離とりゃいいか。こいつ目立つことやら好きじゃねェしな。そんな事を考えつつ正門まで歩き出す。
「...靖友手!」
「は?」
いきなり何か言い出したなまえチャンだ。
「手!」
素直に手を出す俺。それを手を重ねて繋ぐなまえチャン。
「!?」
「...だ、駄目だった?朝靖友が距離が遠いっていったから、これで文句ないよね?」
なまえチャンがこちらを控えめに覗き込みながら言い放つ。つーかここまだ学園の敷地内だからァ!生徒多数いっからァ!繋がれる手が汗ばむほど緊張する。
「...あぁ」
朝よりも突き刺さる視線がいてェんだけどォ!?
おそらく俺達が付き合ってるのなんか少ししか知らねェから余計に驚くような好奇に満ちた視線が突き刺さる。
「ヒュウ、おめさんたち仲直りしたのか?」
「うんうん、良かったな荒北!」
さっきの奴らがまだいて話しかけてきやがった。
「そう、荒北が手を繋ぎたかったらしくて拗ねてたらしいから繋いであげたとこ」
「っちげェ!!」
平然と何言ってくれんのこいつ!?
言った瞬間奴らが爆笑し始めた。
「そうか!良かったな靖友!手ぇ繋げて!」
ヒーヒー言いながら肩をバシバシ叩いてくる新開。
「...っせーヨ」
「ほら、荒北帰るよ!じゃ2人とも良いお年を」
なまえチャンが俺の手を引っ張る。あいつらがまだ半笑で手を振っている。おい、どーしてくれんのォ!?なんか、変な勘違いしてんだけどォ!?
手を繋いだまま箱学生がいる帰り道を帰る。
「...なまえチャン何言ってくれてんのォ?」
「こーいう事じゃないの?朝の感じが良いならそうするけど?あと言っておくけど私だって少し恥ずかしい」
「…両極端過ぎんだろボケなす」
半笑い顔のなまえチャンを咎める。
「...牽制」
そして突然意味あり気な顔をするなまえチャン。
「あ?何に対してのだヨ?」
「んー...靖友くんを守ってあげないとなーって」
なまえチャンの目の端には、先ほど告白してきた男がいた。
...バカか、なんで俺が守られねェといけねェんだヨ。
簡単に繋がれた手を、いつかの海の夜の様に指を絡める様な繋ぎ方にした。
すると少し照れるなまえチャン。...なんでここで照れるんだヨ、意味分からねェが...多少、可愛い。嫉妬に満ちたいくつかの視線にもいささか気分良くなってきた。
「離さねェからァ」
「望むところー」
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