初詣


お正月、どこか静かなような騒がしいようなもんだ。そんな中届いたメールによって靖友達と初詣となった。それを前もって親に言ったら、晴れ着があると言うことで用意された。

「...お母さん、別に良いよ?普段着で」
「こういう時しか着ないんだから、良いじゃない、振袖じゃないから目立たないって」
なんとも楽しそうな母だ。
「ぇー...」
「...荒北くんだって見たいんじゃない?」
「...」


着ることとなった私を半笑いながら見てくる母。ちょっと、ちょろくないから私。
掛けられている着物を見つめる。この柄レトロちっくで可愛いかも。
「これストールとかもありだっけー?」
家の奥から、小物出してくれている母の大丈夫ーって声が聞こえる。ならまぁ寒くはないか。
…少しは喜んでくれると良いな...ってダメだ、自分のキャラじゃない。思った瞬間に無性に恥ずかしくなってしまった。靖友、そう褒める事なんてまずしないしなぁ。

ほどほどに化粧をして、ネットを見ながら髪をそれっぽくアップにアレンジし母が出してきた着物用の和風っぽい髪飾りをつける。そして母に着物を着付けてもらう。着物って言うのはぐるぐると巻きつけられる気がしていつも以上に身が引き締まる。

「良いじゃない!大人っぽい!」
「...おお」
いや、本当に着てよかったかも。鏡の前でチェックする。...いつもと違う感じがなんだか楽しいぞこれは。
「っうん、ありがとう」



荷物を準備してたらピンポンとチャイムがなった。おそらく痺れを切らした靖友だろう。
...早速笑顔で母が出迎えていた、おいおかん。

「...ありがと、迎え来てくれて」
着物用なバッグを持って、玄関に行くと靖友が少し目を開いて驚いてくれた。母がそれ見てニマニマしている...辞めてくれ、もうすっごく恥ずかしいんですけど。
「...えと、じゃいってきます」
笑い声を挟むようないってらっしゃいによって外に出る。

靖友もあったかそうな服につつまれている。体脂肪少ないもんなぁ、冬なんて見てるだけで寒くなる。
「...あけましておめでとう?」
「おう、...歩きにくくねェ?」
「まぁ、いつもよりは多少」
無言でいつもより歩幅を合わせてくれる靖友だ、なんだそんな事も出来たのか。思わず少し吹き出す。
「...あんだヨ!?」
「いや、ありがとう」
「っせ」
この優しさだけで着て良かった気がする。


今日行くところは比較的大きな神社なので人で溢れている。これ待ち合わせで会うこと出来るのだろうか、あの自由人達と。

まぁなんと言えば良いのか、そんな心配もする必要なく、やつらは人混みの中でもすぐに見つかった。
そりゃ金髪の福富君に、どこかチャラい新開に、着物の東堂君だったら目立つに決まっているだろう。

あけましておめでとうと言いながら合流する。
「みょうじそれすげぇ似合ってる、綺麗だな」
「あぁ、似合ってるぞ!俺に引けをとらないな!」
福富君も頷いてくれている。こいつらがすっと褒め言葉出るのか普通じゃないよね。とりあえずこいつらは言い慣れすぎなのだ。
「ありがと。東堂君はさすがだよね、着物スゴイ似合ってる。かっこいいね」
「そうだろう!?やはり年始はこうでないとな!」
ビシッと指を指してくる東堂君。
「うっざ」
荒北が声を挟む。
「うざくはないな!」
しかし中身はいつも通りだった。

騒がしくなりながら境内に向かうが人が多くて順番待ちだ。福富君に靖友はベッタリだ、まぁいつもの事だけど。
そんな中、人混みの中新開が話しかけてきた。
「それにしてもよく似合ってるな。靖友には感想聞いたか?」
出店で買ったらしいたこ焼きを美味しそうに食べながら聞いてくる。おそらく着物の事だろう。
「ん?あぁ荒北驚いてたよ。新開もカッコ良いよその服」
靖友が言うわけない。でもそれを言ったらこいつのことだ、なんかしら気を遣ってくれてしまうので感想を聞いた雰囲気を醸し出す感じで返答した。



お賽銭を投げ入れて、参拝する。
願う事はありきたりな事と...部活の事だ。靖友達が今年後悔なく走り抜けるように。神頼みとかこの実力ある人達に向かっては要らないと思うが願わずにはいられないのだ。


意外と着物は暖かい、グルグルとまかれているせいだろうか。しかし暖かいがさすがに慣れない草履と石畳みで足痛くなってきた。配られた甘酒を飲みながら休憩とばかりに東堂君に話しかける。
「東堂君、よくこーいう着物着るの?」
「年始は着るな、あとは冠婚葬祭だな」
そりゃそんな感じになるか、やっぱり。
「これ自分で着れるの?」
「あぁ、慣れれば簡単なのだ」
いやー難しいでしょと着物トークで盛り上がる。


「あのー...」
どこからか知らない声がかかる。東堂君と振り向くと知らないカメラを持った人。
「お似合いだったので撮らせていただいても良いでしょうか?」
名刺を渡される東堂君。さすがですね、自分で言うほどの美形は違う。

そしてその人は私にも名刺を渡してきた。
「…え?」
どこかの雑誌の人らしい。ってなんで私まで。
「お二人で撮らせていただきたいのですが…」
思わず東堂君と顔を見合わせる。
...そりゃなかなか年始とはいえ着物の男性は居ないしね。私も振袖じゃないし確かに雰囲気は合うのだろう。
ただ背後から新開と福富君の漏れ出す笑い声と靖友の苛立つ雰囲気を感じる。

「あ、私はやめておきますので」
ぶっちゃけ東堂君と2ショットで撮られた写真がどこかに載ったら、東堂ファンに抹殺されそうだ。
雑誌の人は東堂君だけ撮って去って行った。


バカ三人が騒いでいる中、珍しく福富君がコソッと話しかけてきた。「…みょうじも撮ってもらえば良かったんじゃないのか?」
「嫌、後が怖いって。女の情念は怖いんだって」
「相手が荒北だったらどうしたんだ?」
「...それは」
思わず言葉に詰まる。
「...福富君意外と言うね」
「荒北のフォローもたまにはしないとな」
そう言い騒がしい3人の中に戻っていった。
靖友とだったらまぁ...うん撮られても良かったかもしれない。


3人と分かれて靖友との帰り道。
「甘酒美味しかったね。つーか新開食べ過ぎ」
「おめェも充分食い過ぎだからァ!新開に付き合って食うんじゃねーヨ、デブんぞ」
やだ、見ていたのか。
「えー...」
出店っていうのはどうしても美味しそうで食べたくなるのだ。


「なまえ...足いてェんだろ?」
「大丈夫だよ」
そう言ったのに帰りがけに近くのカフェに寄ってくれた靖友。はぁ...やっと座れた、一息つく私。
「ったく、なんでてめェはいつも言わねェの?」
「...まぁまぁ」
「"まぁまぁ"じゃねぇからァ!」
呆れ顔な靖友だ。本当よく私を見てくれているというかなんというか。


可愛らしいカフェに寄ってくれた。何て言えばいいのか...こういう所が好きなんだよね。こんな可愛いらしいカフェも靖友は入りたくないだろうに、休憩なら公園でいいのに全く。
そう思えば私も靖友をあまり褒めないからなぁ、結局のところ似たもの同士になるのか。
「靖友...足痛いの気付いてくれてありがと。さすがです」
「...ヘイヘイ」


カフェを出て、ここぞとばかり手を繋ぐ私。たまには靖友に素直にならないとなぁ、どこかで離れてしまっても困る。
「歩きにくいので手を繋いでください」
「しゃーねーな」
ギュッと握られた手があたたかい。

「...私東堂君じゃなくて靖友だったら撮られても良かったよ?」
福富君に気付かされた下心を吐き出す。
「ハッ 俺は嫌だね」
「フフ、そりゃそうだよね」
荒北靖友とはそういう男だ。


年末年始の話や年明けの部活についてを話しながら帰宅する。いつも通り私の家まで送ってくれる靖友。
「じゃ、また...」
今度は学校かな。それか学校始まる前に2人で出掛けられたら良いんだけど。

いきなり腕を引っ張られる、と思った瞬間にうなじを手でなぞられる。
「っ!?」
冷たい手にビクッとする私。靖友は苦い顔して耳元で囁いたと思ったら、口角を片方あげたしたり顔して去っていった。
"それすげェ似合ってる。色っぺーヨ、ごちそうさまァ"

首を押さえたまま立ちすくんだ私だった。



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