正月休み


年始というのは意外と暇なのだ。友人を誘おうともそれぞれの家庭の年始があったりで意外と暇だ。新学期早々にある総合テストも控えているが勉強する力が入らない。
そしてもう親も仕事が始まってるので、必然的に空いた時間を彼氏に当てるのも容易だ。

靖友に連絡したら、空いているというので一応勉強道具をもって荒北家に行く。
出迎えてくれた靖友が私の荷物を見て苦い顔してゲッと言った。そりゃ教科書もってればそうなるだろう。

「この真面目チャンが」
「だってしょうがないでしょ?ミサキとの勝負だもん」
戦いには負けられないのよ。
「ハッ負けず嫌い」
「お互い様でしょ?」
まぁねェと間延びした返事をしながら部屋に入った私をベットに引き上げた靖友。
「...あの?」
「...姫はじめっつー言葉あんね」
首すじにキスしてくる靖友。
「ん、何それ」
「実践するわ」
「いや、いいや。大体想像ついた」
「あっそォ」

両手で距離の近い靖友の胸を押し返す。そんな抵抗敵わず、服を着たまま狭いベットの上で身を寄せ合って無言でいちゃつく私達。
どうせ学校始まったら中々こんな感じにはならないしな...そんな考えが頭を支配していく。靖友に乗せられているのは分かっているけどしょうがないのだ、だって...まぁ好きなので。


「っ...」
「なまえっ、...」
掠れる低い靖友の声が腰に響く。
が、響いたのは声だけじゃなかった。靖友の携帯から無機質な電子音が鳴り響く。が無視して私の身体を這う骨ばった手、その状況が何か不格好で思わず私が吹き出した。
すると靖友はチッと口を鳴らして、携帯を開くと同時に切った。
「...いいの?」
「いんだヨ」
...誰からだったんだろうか、とらなくてよかったのかなぁ。そんな心配をしていたら、服の上から胸の突起を刺激されて身体が思わず少し跳ねる。
「ハッ 余計な事考えてんじゃねェよ」
すると無機質な電子音がまた響く。先ほどと違う音。...私のだ、珍しく電話だ。
「...」
「...」

とることにした私。荒北の身体に回していた手で携帯を掴んで開く、画面表示は"新開隼人"だ。…なんとなく先ほどの荒北の携帯を鳴らした主も多少予想出来てきた。
不機嫌そうな荒北に覆い被さられながら通話ボタンを押して熱くなっていた耳に当てるとヒンヤリとして気持ちいい。

"もしもし?"
"おぉ、休み中に悪いな。今出てこられるか?"
あー...どうしよう。そんな事を頭に一瞬よぎった瞬間に靖友に携帯を奪われた。
"...いかれねぇからァ"
「っぁ...」
返事をしながら、人の胸の先端を弄るな!慌てて手で口を塞ぐ。靖友はしてやったりな顔している。
"あぁ、やっぱりおめさんも一緒か、今尽八の電話切っただろ"
携帯を奪い返す私。
"っ新開!出ていく!荒北もでしょ?"
"あぁサイクリングだ"
"行く行く!今どこ!?"
"靖友の家の前だ"
聞き耳をたてていた靖友がバッと身体を起こして窓から道を覗く。電話の向こうで笑い声が聞こえた。

ちょっと待っててと言い電話を切る。背後からドス黒いオーラを感じる、いやーそんな特殊能力持っていないんだけどなぁ。靖友さん機嫌悪そう、眉寄ってるんだけど。
「えへ...」
「えへっじゃねェよ!どーしてくれのコレ」
私の手を引っ張り靖友の股間に押し当てられる。あー...そりゃまぁ...うん。
「まぁまぁ、今から新開抜いて発散させてよ」
「その言い方嫌すぎんだけどォ!!」

速攻で乱れ始めていた服を直して、部屋でご機嫌をとるようにキスをしてから、外にでる。
見慣れた3人が待っていた。しかし私服なだけ新鮮だ。
「お、早いじゃないか!もっとかかると思っていたぞ」
東堂君それ遠まわしにやってた想像だよね。
「悪いな、近くまで来たから寄ってみたんだ」
「あぁ、これは手土産だ」
さすがというか福富君は手土産持参だ。靖友が受け取って自宅に置きに行く。

「...なんとなく話乗ったんだけど、私チャリないんだよね」
出てきて今更な事に気付いた。そして彼等もやっと気付いたんであろう。
「「「...」」」

結果私は付き合わないと言ったのだが、家からもってきたママチャリになった。しかも靖友のビアンキは抜かれて、2人乗り...それも4人が変わり替わり漕いでくれるとの事だ。もちろん違法だ。一応人通り少ない道を通ってくれるらしい。
靖友の手際よい作業により、私のママチャリが彼等仕様にサドルが上げられる...見たことないよママチャリでこんなに高いサドル。すっごく不安なんだけど、何がって私の身の危険だ。

とりあえず靖友が漕いでくれることだ。
「...チッ早く乗れよ」
新開と東堂君が耐え切れずに大笑いしている。そりゃそうだ、あの野獣がママチャリ...新開と東堂君につられて私まで吹き出した。
「ククッ...ごめ、ハハッ、本当に!...似合わなくて...」
ふるふると身体が揺れる。
「っせーよ!てめェら!」
そりゃ怒る靖友だ。

つか、これどう座ったら良いのか?立ち乗り?いや、こいつらに立ち乗りとか死を意味する。跨ぐ?いや、それでも裾広がりのキュロットだし、はしたないか...。
少し悩んだ末に横向きな女の子乗りにする。そして荒北の腰に軽く手を回す。
「っ、よろしくお願いしまーす...」
「おー...、っつーか新開、飛ばすなヨ!?」
「あぁ分かってる!」

...恥ずかしいんだけどこれ。と思ったがそれどころじゃないやっぱり私が走るよりペース速い、景色がビュンビュン流れて行く。そりゃ私服だけどこいつらのサイクリングだもん。新開が引いて、真ん中を走る靖友。

「あーくそ!進まねェ!なまえチャンおめぇ!!」
ふざけんな!あんた達がいつも何も荷物乗せないからだから!私一応平均体重はギリ切っているから!そんな気持ちを一言に込めた。
「うっさい!」

うちらの会話を聞いて後ろについている東堂君が笑う。
「みょうじ!そうしていると女の子みたいだぞ!」
「っ東堂君失礼すぎない!?」
こいつは私をなんだと思っていたんだ。思わず後ろを向いて突っ込む。がハッハッハッーと後ろから笑いが返ってくるだけだった。

目的地は海らしい、このくそ寒いのに自転車乗りはやっぱバカなのかもしれない。

でも靖友で相当風よけているんだろうなおかげで意外と寒さは平気だ、本人にとっては私をのせてるし相当大変だろう。でもこの背中が頼もしいよ、どうしても回す手に力が入る。
「...やっぱあんたかっこいいわ」
思わず呟く、なんとなく靖友が笑った気がした。


途中で新開に変わった。新開が靖友にくれぐれも無茶な走りすんなよと念を押している。まぁそうであろう愛車だもんね。

「新開...ごめんね、重いよ?」
「ん?俺たちが誘ったんだから気にするな」
カッコ良く聞こえるけど、それママチャリだからね。再度吹きそうになるところを耐えて荷台に座る。なんとなく微妙だけど同じ様に新開の腰に手を回す。
「おし、追いかけるか」
「よろしくお願いしまーす」

動き出すママチャリ、流れ行く景色...っつーか、怖えぇ!!下り超怖えぇ!アホみたいな速度で走るなって!
「っ新開速すぎ!」
「そうかぁ?あとそれは引いてる寿一に言ってくれ」
確かにそうだけど!通常よりはかなり遅いんだろうし、新開は着いて行っているだけだけどさぁ。こいつらどんだけ体力有り余ってんの、勉強もしようよ。
「みょうじ!次右コーナーだからな」
体重移動しろということか。新開の背中から道を覗く。...やっぱ速いってどう考えても2ケツの速さじゃない。命が惜しいので言う通りに必死に掴まりカーブに対して体重移動を行う。
「さすがうめぇなみょうじ!」
新開の楽しそうな声が聞こえる。そう言ってもらえると多少は嬉しい。


予想よりも早く海に着いた。
「ありがと、新開。助かった」
命があって良かった。と言うのは心の中だけにしとく。
「あぁ色々最高だったぞ」

「あ、靖友、俺のに悪さしてねぇだろうな?」
新開が靖友に絡みに行く。

「どうだ?みょうじ」
「福富君...あれでも速度かなり落としてくれてるんだよね、でもめちゃくちゃ早かったよ。すごいドキドキした」
「そうか、少しは体感してくれて良かった」
穏やかな雰囲気に癒やされる。

「…にしても東堂君!私の事をなんだと思ってたの!?」
「あぁ!ついいつも男らしくてな!仲間だと思っていたのだ」
長めの髪をファサッとしながら言い放つ東堂君。..."仲間"と言うのはズルいぞ、確かにトークが切れている。
「...登り東堂君乗せてね」
「む、俺だけ負荷かかりすぎやしないか?」


近くのコンビニで遅めの昼食を買って堤防に座りながら食べる。そして今後の部活の予定、次のレースの話している、結局自転車バカなのだこいつらは。東堂君はいつも通り電話してる電話バカだけど。

海風に吹かれて寒いが非常に心地よい。こうしてられるのも本当に後1年ちょっとか...胸がキュッと締め付けられる。なんだかんだでマネ業も悪くないしなぁ、今年全力でサポートしてやるから。彼らの背中をみて密かに意気込んだ私だ。



...



ママチャリに跨ぎ必死の形相でフラフラと進む福富君。
「これは...重い乗り物だな、重心が...」
「福チャン!福チャンはいーヨ!乗らなくてェェ!」「そうだフク!フクはいいんだ!降りてくれ!」
靖友と東堂君が必死にふらつく福チャンをママチャリから降ろそうとしている。
新開が寿一の家系はロード一家だからママチャリなんてなかったんだと口を挟んできた。そりゃそうだ最初からロード乗っていた人にはこの乗り物は未知数すぎるのだろう。

「...帰り俺漕ぐからァ」
しょぼくれる福富君をおいて靖友が発言する。
「いーよ?あたし帰り電車でも本当」
さすがに靖友だって相当疲れるだろう。が結局基本が靖友になった、申し訳ない重くて。

しかし新開が下った坂の登りは東堂君が漕いでくれた。
「東堂君!凄いわやっぱ、さすがビューティー!」
笑いながら東堂君の背中に向かって声をかける。
「スリーピングが足りない!しかしこれは辛いぞ!みょうじ立ち乗りにしてくれないか?」
ご要望に応じて一度立ち止まり立ち乗りする。そんな私達を微笑ましく3人が見てくる。
「っこう?」
東堂君の肩に手を置く
「そうだ、いくぞ。捕まっておけよ」
山神様は少し腰を上げたがブレない。2ケツのわりには速いスピードで坂を駆け上がる。
「みょうじもバランスいいのだな、わりかし楽だぞ!」
そりゃバランスには自信はある。それよりも凄いのが東堂君の脚力であろう。
降りようかと聞くが断固として降ろしてくれない東堂君だった。山神としてのプライドがあるのだろう。というか、2ケツで坂を登れるものだろうか。こいつらの常識が分からないんだけど。



坂が終わり靖友に変わる。おいそこ溜息をつくな!そんな靖友をみて笑う3人だ。
私だって悪いと思ってるさ、今日ゴロゴロしながら勉強予定だったもんね。
「...疲れたわ、さすがにィ」
「口が多い男はもてないよー」
って口では言いながら、そりゃこの速度で2ケツは疲れるよねと内心フォローする。

はぁ...もう今日くらいは、サービスしてあげようじゃないか。
靖友の細いけど逞しい背中に回す手に少し力をこめて、少し耳に口を近づけて靖友だけに伝わる声量で発する言葉。
「 靖友、疲れてるようだから帰ったら ...あげるから!」

一瞬固まった背中。...あぁ、もうこっちが照れるんだけど、顔が見れなくて本当に良かった。振り落とされないようにを口実にさらに抱きつく。
口数が減った上に少し速度が上がった。どうやら多少ヤル気を出させてしまったようだ。

「みょうじ、おめさん何言ったんだ?」
後ろを走る新開から声がかかる。
「っ秘密です!」



荒北家に帰って、早速靖友の上に乗らされたのだ。











(…2人乗りは違法です)


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