荒北の手
1月になりさらに冷え込む。極め付けに箱根ときたもんだ、余計にヒリヒリとした寒さを感じる。
部活も室内練習多いけど、寒ぃもんは寒ぃ。
なまえチャンも着込み過ぎじゃねぇ?っつーくらいジャージの下にハイネックのセーターとかを着込んでいる。なぜ分かるか、そりゃぁどうしても目に入るだろ。
空き時間に部室で2人きり、それぞれやる仕事をしている。なまえチャンは、備え付けの机で部誌を書き込んでる。手がかじかむのであろう、両手を息で温めるような仕草をしている。...ああ、その仕草嫌いじゃねぇわ。
そしてさらに手荒れが気になったのか、ジャージのポケットに入っていたハンドクリームを取り出した。
押し出そうとするが終わりかけなのか出てこないらしい。
痺れを切らして、ハンドクリームの容器をブンブン振って出口に寄せている。おーおー、必死だなァ。
バフッ
っと言う空気を含んだ音ともにハンドクリームがなまえチャンの手をめがけ飛び出した。なまえチャンの手の上に大量のハンドクリームが乗っている。
「靖友、手」
用件のみだなおめぇは。考えは分かってるから手を出して、余分なハンドクリームをもらってやる事にした。
予想通りに俺の手に出てしまったハンドクリームを塗りたくるなまえチャン。
「あ、そうだ...この前ハンドクリームのサンプルもらった時にハンドマッサージしてもらったの。折角だから見よう見まねでだけど、してあげる」
名案だというばかりに笑顔で言ってくる。
「ヘイヘイ」
こっちも不都合もねぇから了承することにした。こっちに座れと言われて机を挟んだ椅子に腰掛ける。
俺の手にハンドクリームを満遍なく塗りたくり、揉んでいく。あたたかい手が気持ち良い。
「気持ち良いー?」
「まぁ、それなりィ」
次に両手で俺の指の股となまえチャンの指の股を合わせるようにして手を開かせられる。そして、手のひらを親指でギュッギュッと強めに擦ってくる。
「あ、それ、良いかもしんねぇ」
「ん、でしょ?」
「こうは?どう?」
俺の指を一本一本、指を絡ませ引っ張る様に扱いていく。...なんかエロいが気持ちは良い。
「それも気持ち良いわ」
「そう、....これは?ど?」
「それはいてェ」
「でも、慣れると悪くないでしょ?」
「まぁな」
ふと部室の戸の外に人気を感じた。なんで入ってこねぇんだ?
...もしかしてこの会話か?妖しいようにとろうと思えばとれるのか。そう思うとムクムクと出てくる悪戯心。
そんな俺の心知らずに、丹念にハンドマッサージしてくれてるなまえチャン。
「ね、気持ち良い?」
上目遣いに言われてドキッとする。こいつ分かってやってんじゃねェだろうな?
「そりゃな、...つかどんだけ出したんだよ、俺の手すっげぇヌルヌルすんだけどォ!?」
サービスしてヤンよ。間抜けどもめ。戸の向こうでざわつく感じが俺には伝わってくる。
目の前では少しムッとして俺を見つめてくるなまえチャン。
「うっ、だって...。でもそれで気持ち良いでしょ?...喜んでるじゃない」
良い返答だなァなまえチャァン。
「まぁな、今度俺が弄ってヤンよ」
なまえチャンの手を取り、見よう見まねでハンドマッサージをしてやる。
ちっせぇ手だな。でも所々に豆があったりして意外としっかりしている、新体操のせいもあるのか?そして赤くヒビ割れている所もある。色々と寒い中やたら文書整理やら洗濯やらと動いてくれてんもんな。そう思うと余計にこのボロボロの手が愛しく思える。
なまえチャンの手を開いて、先ほどしてもらったように手のひらを親指でマッサージしてやる。確かにヌルヌルと滑るな。
「ん、...気持ち良い、それ」
呟くように声を洩らした。なんつーか、やっぱりおめぇエロいわ。その声が誰も居ない室内に響く、そして俺の身体にも響く。
バンッ!!
激しい音ともに戸が開いた。
「お前たち!部室で破廉恥な事はよさないか!!!」
顔の赤い東堂筆頭に10人ほどがそこにいた。あー、すっげぇおもしれェ顔が並んでいる。
「はぁ?」
即座に反応してやる俺。
「...?」
目の前のなまえチャンの頭の上にクエスチョンマークが見える。そりゃそうだろうよ。訳分かってねェもんな。
「「「「「「「........」」」」」」」
「ほら、開けても平気だろ?」
無言で気まずそうに佇む野郎共。ちなみに最後の一言は新開だ。
ハッ、いー顔だなてめェら。すっげぇ間抜け顔で笑える。俺は机に伏せて笑いを堪えるのに必死だ。
「えー...と?東堂君もしてあげようか?ハンドマッサージ」
呑気になまえチャンが東堂に声をかける。
「...あぁ、そうだな」
顔の赤い東堂からぎこちなく部室に入ってくる。
「それでも靖友、趣味がわりぃわ」
軽く俺を睨む新開だ。
「ハッ何の事だかわかんねェ。趣味はいー方だと思うけどな」
つーか聞き耳たてるほうがわりぃからァ。上機嫌の俺だ。
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