忘れ物
その日みょうじ家は家族全員で寝坊をした。慌てて用意して出掛けた家族全員。おかげで朝ごはんは気持ち食べた様なもんだし、コンタクトすら入れる暇もなく眼鏡で登校することになった。
そのバタバタと出てきたせいもあって日本史と数学の教科書を忘れる失態をした。
「新開、悪いんだけど...」
2限前から菓子パンを食べてる隣の新開に声をかける。
「どうした?みょうじ、腹減ったか?」
「あ、ありがとう」
ちぎったパンをいただいた私。朝満足に食べれなかったしね...あ、これ美味しい、今度買おう。ってそうじゃない。
「っじゃなくて、あの...悪いんだけど午後一の日本史の時さ、教科書一緒に見せてほしい」
「なんだ、そんな事か。全部の教科見せられるぞ、俺置きっ放しだから忘れないしな」
「...」
かっこよく言ってもそれかっこよくないから!しかし今日は助かるので素直にありがとうと言うちゃっかりしている私。
「にしても珍しいな眼鏡か?初めてじゃないか?」
「そー、家族全員での寝坊なんだよね。もうこの有様なんだよね」
靖友にもメールをする。
昼前の数学の教科書を貸して欲しいとメールをしたらすぐに"了解"と返ってきた。よし、これで次の休み時間に借りいって昼新開経由で返せばいいか。
休み時間に靖友クラスに出向く。何となく他のクラスって声かけにくい…がそんなこと言っていられない。
「ごめん、荒北呼んで欲しいんだけど...」
ドア付近にいた話しかけやすそうなボブの女の子に声をかける。
快く返事してくれてすっと立って男友達だかと喋ってる靖友の所へ行ってくれた。
靖友相手に声をかけてくれている先ほどの子に少しモヤっとする。...いや、私が呼んでって言ったのになぁ。
はぁ...いいな、やっぱり同じクラスが良かったな...そんならしくない事を思いながら他のクラスというアウェイな入り口に佇む。
靖友が話を聞いたらしくチラッと私を見た。そして話していた男子が私を指差してに荒北を冷やかしたのだろう、荒北がおそらく"っせ"と言ったっぽい。
漁った机の中から教科書もってドカドカと歩いてきてくれ、そのまま廊下に出てくれた靖友。
「…忘れんの珍しィね、なまえチャン。しかも眼鏡ェ?」
手渡される教科書を貸してもらう。
「ありがと、そりゃこういう時もあるって」
新開と同様に家族全員で寝坊したのよとまた付け足した。
そして先ほどの冷やかされてた荒北を思い出して思わず笑顔になる。
「なーに、笑っちゃってんのォ?」
「っ、そっちだって笑ってるじゃん」
何となく靖友も同じ気持ちな気がした。部活以外では中々話さないので、冷やかされたりなんなり妙に照れ臭いけど悪くはない。そんな事を思っていたら予鈴が鳴る。
「あ、じゃまた昼に返すね。新開経由でごめんね」
「おー」
…
「靖友のか?」
帰ってきた席に座ると隣の新開が話しかけてきた。
「そ、落書きして返すの」
笑いながら言ったら目を輝かせた新開が乗ってきた。数学の時間にコソッと2人で靖友の教科書にそれぞれ靖友の似顔絵を描いて笑う。目ぇ細っ!もちろん吹き出しには"'福チャーン"と付け加えておいた。
「...おめさんやっぱ靖友大好きだな」
私が授業終わりにコソッと小さいポストイットに感謝の言葉という名のラブレターを書いているのがバレたのであろう。そりゃ借りてただ落書きだけして返したら単なる嫌がらせであろう。
「見ないでよえっち」
「ははっ、それ他の時に聴きたいぜ」
教科書はいつもお昼を共にする新開に託した。
...
昼後の日本史の時間
新開と机をくっつける私。そして綺麗な教科書を開いてくれる新開だ。
「...綺麗だね」
「あぁおめさんの為に綺麗にしておいたんだ」
キリッとした顔で言う新開に、呆れながらそれはどうもと返す。
「そうだ、靖友は今日日直だから遅れるらしいぞ」
「そう、分かった」
そんな適当な会話を小声でしながら綺麗な教科書を見て授業を受ける。暫くすると新開が寄りかかってくる。耳元では規則正しい寝息...寝んなボケなす、思わず脳内に靖友が乗り移った。あぁもう起きてよ。
「新開...起きなー…」
そっと話しかけるが起きない。脇腹アタックでも良いんだけど、目立たれて机をくっつけてる私に飛び火するのは御免こうむりたい。
「しんかーい?」
少し肩を揺らしてみるが起きない。
「...はーやと?」
「...おめさん、それはズルいな」
小声で呟いた新開が私の肩から机に移動して突っ伏して寝始めた。…起きてたのかよ、ちょっと適当に言っただけなのに、こっちが恥ずかしくなるじゃん。暖かい室内でそのまま寝させてしまった私だった。
...
「寝すぎ、新開」
「いやぁ、おめさんの隣は気楽なんだ」
「私のせいにしないでよ」
廊下をうだうだと言いながら部活に向かう。
そして更衣室で気付く。あ、しまったジャージも忘れた。天気悪くて乾きにくかったから朝入れようとして忘れたんだ...この寒いのにどうしよう。
まぁ、とりあえずヒートテッ○のアンダー着てるし、ジャージの下に着こもうとしていたタートルネックのセーターはあるし、もうそれで働くしかないか...動いてればなんとかなるか。
部活が始まってから今日はなぜか後輩がよそよそしい。のに何故か目線を感じる。
「黒田くん...私今日なんかした?」
話しかけたらギョッとする黒田くんの腕をガシッと捕まえた。すると目線を外された。
「ぇーと...みょうじさん眼鏡似合うっスね」
「え、ありがと?」
はぐらかされたのには気付いた。なんだっていうのよ全く。やはり眼鏡か!?もしや私と気付かれてないとか!?
「おめさん…ジャージも忘れたのか?」
一人考え込んでいたらパワーバーかじり虫の新開がきた。
「そー、災難続き。動いてればなんとかなるかなと思って」
するとその場でしゃがみこんだ新開。
「...アンディ、フランク」
新開がそう呟いたので、訳わかっていない泉田君を呼んであげた有能なマネの私だ。
ガラッとサイクルジャージに箱学ジャージを着こんだ靖友が練習に加わってきた。
「荒北遅かったな」
「あーまぁな…、時間食った」
福富君と話しているところに軽く声かける。
「お疲れ、荒北。昼教科書ありがとね」
靖友の背後から私も月並みの言葉をかける。と振り返る靖友。
「お前ら落書きしすぎだか...!...って、ジャージ着ろおめェはァ!!」
途端大きい声で私を気遣ってくれる靖友。
「え、あの、ジャージも忘れたからさ。多少寒いけど慣れれば平気だよ?」
「てめぇのことじゃねーからァ!」
靖友が直ぐさま箱学ジャージを脱いで私に羽織らせてくる。荒北は黒いアンダーは着ているがやはり寒そうだ。
「え、荒北寒いでしょ?私本当大丈夫だよ?結構あったかくなってきたし」
「...前閉めろボケなす」
いつもよりプレッシャーがある靖友なので、逆らわずにジャージのジッパーを上げてしっかり着込む。なんとなく靖友の匂いがする気がして恥ずかしい。…なんていうかずっと靖友に包まれている感じがする。
それは暖かくて良いが大きい靖友ジャージは動きずらいし仕事しにくい、家様眼鏡は多少合ってないからズレる。靖友ジャージの捲っても捲ってもずり落ちる袖に苛つく。
「はぁ...これ脱いで良いかな、動きにくい」
「おめさん、それはやめといてやれ」
なぜか新開に止められた。
...
部活終わりに新開に引き止められた。
「何かあった?」
「ああ、ちょっとな」
そう言い勝手に私の眼鏡をとった。
「よし、これの耳かけるところ片方咥えてくれないか?」
「やだ」
新開の手から眼鏡を奪う…いや、返してもらう。
「えー、頼むから、なぁみょうじってば」
私のダボつく靖友ジャージの裾を掴む新開。こうなるとなんとも面倒くさい男新開だ。
はぁ、この疲れてるのに、無言で眼鏡を言われた通りに数ミリ口に咥える程度に応えた。
「...こんなんで良いの?」
「おお!それだ、すげぇ癒される!」
喜ぶ新開に呆れる私。
「...新開さん、色々と要素詰め込みすぎで駄目です」
近くにいた真顔の黒田くんが突っ込んだ。
「何してんのォ?」
間延びした声が背後から聞こえた。
「あぁ、荒北」
もちろん振り返ったら寒そうな靖友だった。
「今みょうじで遊んでいたところだ」「で、俺が止めてたところです」
「え、やっぱり遊ばれてたの?」
「あぁ!?つーか、なまえチャンも相手すんなヨ」
「そーは言われてもね…あ、荒北これ返すね」
靖友が風邪ひいてもマネとしては困るので貸してもらっていたジャージを脱ごうとジッパーを下げる。…下げた瞬間、靖友によってまたジッパーを上げさせられた。
「最後まで着てていーからァ!!」
何故か怒る靖友だ。
「っ荒北体脂肪ないし、よく風邪引くじゃん。だから返そうとしてんるんだけど?」
思わず応戦したが、着てろの一点張りだ。そんな私達を新開と黒田くんが笑っている。
「みょうじ俺はもう脱いでも良いと思うぞ」
「俺もそう思います」
「てめェらはさっさと帰れヨ」
うだうだ言う3人を尻目に考える私。
…そうだ。新開に借りれば良いんじゃないか?膝掛けいつも奪われてるし、体脂肪あるだろう靖友よりは。
「よし、新開。そう言うなら私にジャージを恵んで下さい」
「お!いいぞ「なまえチャァン!?それ余計ダメだからァ!」
(頂きネタ:彼ジャー+新、黒にちょっかい出される)
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