ほろ苦い
ある日の昼休みの時間。いつも通りミサキとご飯を食べていた。
「なまえは、今週土曜どーすんの?」
「え…部活だけど…」
お箸をもったまま目を輝かせるミサキからの問いかけに当たり前の事を答える。
「分かってんの!?なまえバレンタインだよ?」
ああ、そう言えば14日か。教室に貼られたカレンダーを眺める。
「特に考えてないけど、部活行き途中にでもコンビニで…」
「ってそれ荒北くんかわいそすぎでしょ!」
「…何ていうかさぁ、恥ずかしいじゃん?今更っていうかさぁ…」
そう、これだけ顔見知りから始まって友人付き合い含めて10年以上と長くなると、どうもこういうイベント事は気恥ずかしいのだ。12月も何となくすぎたクリスマスだったしなぁ…。
「そんな冷たいなまえちゃんを煽ってあげようか?」
「…いや、別に良いから」
何かわけ知り顔のミサキの煽りを断ったが少し気になってしまう。
「えー聞いてよ」
「ミサキが話したいだけじゃん!」
「アハハ、まぁね…あのね先週の終わりに荒北くん告白されてたんだってよ!」
「…あっそ」
ミサキの発言に一瞬言葉を飲んでしまった。
靖友からはそんな事聞いてない、まぁそりゃ言う必要もないもんね。私だって言わないしな。でも、私が居るのに告白とか…、伝えたい気持ちは分からなくないけど少し凹む。私だったら奪えるとでも思われていたら嫌…な気がする。
「どーすんの?なまえちゃん?」
「っ…渡す…よ?」
「いーじゃん、"私がプレゼント"で」
「ないから!!」
他人事だと思って適当な事言うミサキに突っ込む。それやる人見てみたいんだよねと続けて話しているミサキ。
でも、これから何を作ろうかなぁ。ヤバい全く思いつかない。
…
「ねぇ、東堂君。女の子の事は東堂君に聞けっていうけど、男の事を東堂君に聞いても良いの?」
ソーっと休憩の東堂君に近寄り話す私。
「まどろっこしいな、みょうじらしくないぞ」
ふふんと前髪を弄る東堂君。でもしっかりと話は聞いてくれるようだ。
「あの、さ、バレンタインなんだけど」
「おお、ついに俺の魅力に気付いたのだな!みょうじも!」
「違います!っいや魅力はあるよ!ある!…あの荒北って甘いの好きだっけ?」
機嫌を損ねないように慌ててフォローする。
「む、好きなんじゃないのか?荒北のことは知らん」
「やっぱりあげたほうが良いよね?」
「当たり前だろう!男は皆そうさ!だからこの俺ももらってやっても構わないぞ」
「分かった…東堂君はあんだけ貰ってるから、塩辛いポテトチップスにでもしてあげる。それかトイレットペーパー」
「ちっがーう!!やはりバレンタインはチョコに決まってるだろう!」
ムッとする東堂君にハイハイと応える。何ていうか参考になったようなならないようなで終わってしまった。
えー、やっぱり手作り?面倒…でもなぁ…そんなことを思いながら帰り道に携帯でレシピを探している私。
それよりも告白した子って誰なんだろ…。断ってくれたんだよね?モヤモヤとしたものが胸に沸き上がる。
結局は、大食いな腹が満たされるだろうチョコレート入りのパウンドケーキにした私。だ、だってホットケーキミックスでちょいちょいとだ。あ、愛はあるから!
部員にはお徳用チョコレートだ。これを豆撒きの様に配ってやるよ。格差があり過ぎるがしょうがないだろう。でないと靖友拗ねるし…とかなんとか思いながら一度練習がてらタネを混ぜて焼いた私。これで可愛くラッピングで良いのではないだろうか。
…
13日の金曜日
なんて響きが悪いのか。そう思ってしまうと都合の悪いことが起きるものなのだ。
昼休みトイレから教室への道のりを寒々と1人で移動していた。
「みょうじさんっ」
聞き慣れない声に振り向く私。声の主はこの前靖友に教科書借りる時に声をかけたボブが似合う可愛い女のコだった。
…何か嫌な予感がする。
「ぇ、はい!な、何かした?」
けれどそんなことを出さずに答えようとしたが無理だった。
「あの、ちょっと話が…」
「…うん」
言いずらそうにするその子に着いて行く。連れてこられたのは中庭だった。誰とでも話せる"寒い"ネタをポツリポツリと話しながらここまでやってきた私達。
「…」
「…」
「…あのみょうじさん、荒北君と付き合ってるよね」
「…うん」
予想していた内容なのに胸が締め付けられる。
「みょうじさんには悪いと思ったんだけど、告白したの」
「っ…」
その少し私を睨みつけるような顔と寒い風が酷く体に突き刺さる。
「…で、今日聞きたいのは明日は会えないから今日チョコレート渡して良い?ってこと、なの」
「…」
声が遠い。何を言っているのだろうこの子、そんな事言われたって私はどうしようもない。だめだって断ってしまえ!そう思うのに凍った様に口が開かない。
なんしろ女の子の気持ちだけでも伝えたい、受け入れて欲しいそんな思いだって知っているからだ。
…靖友断ってくれるよね?せめて渋ってくれる?
「…良いよ」
私が言ったそばから、その子がフワッと愛らしく笑うのでその反動なのか後悔が襲ってくる。本当文字通りの言葉だ"後悔"って言葉は。
「…ね、みょうじさん。荒北君私に優しいんですよ。なんでこの前、キスして欲しいって言っちゃいました」
その子は意味ありげに笑いながら衝撃的な言葉を吐いた。その言葉に頭がグワンと殴られたかの様な気がするほどだ。
そんな私を御構いなしに彼女は嬉しそうに"ありがとうみょうじさん"と言いながら軽やかに去っていく背中を見送った。
何それ…、2人に何があったの?崩れるかのように呆然とその場でしゃがみこんで雑草を見つめる私。
え、信じてるよ?靖友の事は…そんなことしてないよね?
先ほどの言葉に揺らされる自分が憎らしい。
あの子は…もう靖友に渡すのだろうかチョコレート。同じクラスだもんね、そうやってずっと靖友を見てきたのだろうか…。
あぁ、こんなどす黒い気持ちが私にあるんだな。それでもまだ恋愛については小ざっぱりしているつもりだったのになぁ。そんな思いも寒い冬空に消えていった。
中庭からクラスへの帰り道靖友のクラスの前を通った。つい癖で目線が教室の中にいってしまう。すると教室の中で笑顔のあの子と靖友が会話しているのが目に入ってしまった。
あぁ…これだから、愛やら恋やらというものは面倒くさいものなのだ。ただの自分の気持ち一つさえコントロール出来ない。グッと手を握りしめて教室へ急いだ。
教室に入って、何も言わずにミサキに抱きつく。そんな私に抱きつかれたままの優しいミサキだった。
「…で、どうしたのよ?なまえ」
「…んー、簡単に言えば宣戦布告された?」
「はい!?」
「で、…さすがに凹んでる最中」
ミサキはそれ以上聞いてこなかった。
…
放課後の部活はいつも通りの靖友だ。…遅れてきたけど。
チョコレートもらったのだろうか、あの子の事はどう思ってるのか。…そして私の事はどう思ってるのか。考えるのも嫌なのにそればかりを考える。
「おめさんそんなに靖友見つめてたら靖友溶けちまうぞ」
パワーバーをかじっている新開が珍しく呆れた風に言ってきた。
「…っ別にそんなんじゃない」
「みょうじ今日おかしいぜ?とくに昼から」
「っ、色々事情があるのよ、女の世界には。巻き込まれたくないでしょ?」
「…それはこえーな」
本当どんだけ男に生まれたかったかしれないよ。今日なんて特に。
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