私の告白


(モブ子視点、苦手な方注意。読まなくても繋がります)




人の物ほど欲しくなる。そういうのってあるでしょう。

同じクラスの荒北君。最初は取っつきにくかったけど、最近はやたら丸くなってきている気がする。そんな事に気付くのも私だけなのではないだろうか。

秋からアシストとしてレースに出る荒北君をたまたま誘われて見に行った。ただひたすら純粋に、また自信満々な走りに思わず見惚れた。そこでやっと自分の気持ちに気付いてしまったのだ"荒北君が好きなんだ"って。
だからって特別何をするわけでも無い。ただ同じクラスを利用して、会話を増やしている最中なのだ。それもあってか最近は、少しは話せるようになってきたかもしれない。そんな私を応援してくれる友人に感謝する。
雑誌を開いて、服を見たり、さりげないメイク方法を研究したり、恋愛コラムを読んだりする。そしてどうしても男を落とすテクニック的なコラムがつい目に入ってしまったりした。いつの間にか乙女な自分に思わず笑う。


年末、一度あった部活の日。もちろん部活のある私も登校した。当然というか自転車競技部も来ているようだったが季節柄室内練習であろうと予想付いた。一目見れれば最高、なんてその時は思っていたのだ。

その日の部活終わり、やっぱり荒北君に会いたかったなと贅沢な事を思いながら部の友人と帰宅しようとする。

そんな私の目に映ったのは表情豊かな荒北君。とクラスは違うみょうじさんだった。2人は手をつないで正門へと歩いていた。
「ね!あれ!」
部の友人2人が荒北君とみょうじさんをコソッと指差す。
「荒北君付き合ってたんだねー」
「え、でも荒北君怖くない?あれみょうじさんだっけ?みょうじさんもよく付き合うよね」
私の気持ちを知らないこの2人は好き勝手に話している。
何にも言葉にならなくて、息すら苦しい。だって、荒北君のあんなに楽しそうで優しい顔を1年と何ヶ月も同じクラスで見てたのに知らない。
結構話せる感じになってきた思ってたのに。みょうじさんと付き合ってたんだ。
…みょうじさんって新開君と付き合ってるんじゃないの?てっきりそうだと思ってたのに…。まぁ、荒北君最近かっこいいしね、好きになる人くらいいるよね。

嫌でも目に入ってしまう荒北君はみょうじさんの手を一度離して所謂恋人繋ぎにわざわざしていた。みょうじさんはそれを少し恥ずかしそうにでも嬉しそうにしながら帰っていた。
あぁなんでその場所が私じゃないのだろうか。







新学期
荒北君と会えて嬉しいはずなのに全く嬉しくない。教室で椅子の背もたれにダルそうに寄りかかる荒北君はいつもと変わらない。
ただクラスの男子から冷やかされていた。そんな荒北君の声も聞きたくないのにわざわざ私の耳が荒北君の声を識別して聞こうとしてしまう。

「荒北ぁ、いつから付き合ってたんだよ」
「っせーな、ほっとけヨ」
「だってみょうじさんじゃん!話になるに決まってんじゃん」
「あー…夏じゃね」
「つか、どこまでいってんの!?」
「ハッ誰が言うかよ」

みょうじさん、意外とさっぱりしているし少しは人気はあったっけ…。コソコソ聞こえる話が辛くなって廊下に出た。
「…大丈夫?」
友人が心配してくれるので大丈夫だと返す。
「でもさ、ほら荒北君だってただ付き合いたかっただけでしょ!2年になって雰囲気柔らかくなってきてるし」
「そうだよね…」
「だから意外と告白したら揺れるんじゃない!?」
「…」
荒北君そんなイメージないんだけどなぁ…とは思うけど、その言葉にわずかな期待を持った。



1月も終わりそうなある日
結局告白しようと思ったが切り出せないでいる私。どうしても荒北君の顔を見ると言葉に詰まってしまうのだ。

休み時間に凛とした声がかかった。
「ごめん、荒北呼んで欲しいんだけど…」
廊下側の席の私に控え目な声がかかる。"荒北"というフレーズも含めているため直ぐに顔を上げた。
そこにいたのは珍しく眼鏡をかけているみょうじさん…。
「あ、うん!」
言われた要件を思い出して、荒北君のところに声をかけにいく。あーもう、なんで私?2人の間でなんか関わりたくないのに。

男友達と話している荒北君に話しかける。
「ね、荒北君」
「あ?#bk_name_4#どうしたァ?」
キツイ目が私を捉える。その目に釘付けになりそうだ。
廊下を指差す感じに話す私。
「あの、えーと、お客さん?」
"彼女"なんて絶対に言いたくなかった。私越しにみょうじさんを見ると荒北君の雰囲気が一気に変わる。その瞬間を間近にみると余計に胸が苦しくなる。
「お!荒北やるな、みょうじさん来てんじゃん!」
「っせ」
テレ隠しかキツイ言葉を吐きながら、机の中を探ったかと思ったら教科書を持った。ガタッと椅子を引いて、大股で廊下に向かう荒北君。そんな光景を見てられなくてそのまま私はトイレに向かった。


何の因果か本日の日直は私と荒北君。前までの私なら大喜びなのに今日は複雑だ。

日誌を書く私。荒北君が部活に行きがてら日誌を出して行ってくれるらしい。荒北君は私の手元を見ている、…そのまま私をずっとみてくれれば良いのに。そんな事を思いつつ本日の日誌をゆっくり、内容多めに書く私。

「…あ、荒北君てみょうじさんと付き合ってるんだ?」
「あー…そうだねェ」
本人から聞くと余計に胸にくる。
「っ、へー、私てっきりみょうじさんて新開君と付き合ってるのかと思ってた」
分かっているくせに酷い言葉を言う私。荒北君から一瞬イラッとした雰囲気が漂った。
「あー、あの2人仲良いかんな」
ああ、もう私が付き合ったら他の男子となんか仲良くしないのに…喉まで出かかる言葉を飲み込もうとしたが溢れ出てしまった。
「私だったら他の男子と仲良くしないよ?」
荒北君をノートから視線をあげて上目遣いで見上げる。予想外だったのか気まずそうに目を逸らされた。
「ハッ そりゃ、相手の男は嬉しいだろうねェ」
でしょ?だから私を選んで欲しいんだけど。

書き終わった日誌。その日誌に荒北君が手を伸ばすので横に避けて取れなくする。
荒北君が少し驚きながら私をみる。そんな顔ですら一人占めしたい。
「…私、荒北君の事が好きだよ」
考えていたイメージ通りに言えたかもしれない。
「…気持ちは嬉しーけど、応えられねぇからァ」
予想されてはいた言葉を即座に返されてズシンと体が重くなる。

「じゃ、じゃぁせめてキスして…欲しい」
「あ!?」
瞬間真っ赤になった荒北君だ。
「…諦めるから」
声が擦れていく。そんな私にため息をついた荒北君だった。
「はぁ…」















あの大胆な日から数日。考えてみればもう少しでバレンタイン。あの日から諦めるわけない私になっていた。なのでもちろん手作り、でも14日の土曜は渡せないので13日だ。

その日廊下を歩いていたみょうじさんを連れ出した。この人にも話したい事聞きたい事がある。

みょうじさんに荒北君にチョコレートを渡して良いかと聞いたら、一呼吸置いて"いいよ"と返ってきた。そのいいよが私にとっては荒北君を譲ってくれる様に感じてしまった。…そうだよね、この人別れたって次簡単に見つかりそうだし。
ああ本当に奪いたい、私だったらもっと荒北君幸せに出来るのに。

「ね、みょうじさん、荒北君私にとっても優しいんですよ。この前、キスして欲しいって言っちゃいました」
こんな事言ったら完璧にライバルになるだろう。顔を歪ませるみょうじに思わず笑ってしまう。この飄々とさっぱりしているみょうじさんだって、きっと荒北君に不安なところだってあるんだ。その表情を崩せたことが嬉しかった。




クラスに戻って、早速荒北君に話しかける。そして放課後屋上に来てもらった。

「さっみ」
「ごめんね」
肩をすくませる荒北君に謝る。
「あの、これ受け取って欲しくて」
チョコレートの入った袋を手渡す為に手を伸ばす。
「悪りぃけど、受け取れねぇからァ」
「…みょうじさんには許可とったよ」
そう、許可とったのだ私は。みょうじさんの名前を出したら一瞬怯む荒北君。それを強みに荒北君に迫る。
荒北君の制服を掴んで少し上目遣いで見上げる。長い下まつげがよく見える。
「あの私だったら、他の男子と仲良くなんかしないよ、荒北君の嫌なことなんてしないし分かってあげられる、言うこと聞くよ?」
みょうじさんはなんだか大人しそうに見えてクセありそうなイメージだ。
「みょうじさん、あんまり言うこと聞かないでしょ?辛くない?だ、だからみょうじさんじゃなく私にしてほしい」

言った瞬間荒北君の顔が歪んだ。
「…おめぇ、何か勘違いしてねぇか?」
「ぇ、」
やけに低い声に体が強張る。
「俺は、別になまえに言うこと聞いて欲しいんじゃねぇ。つーかまず、俺に従おうとすんのがそもそもの間違い、考え違い甚だしーんだヨ。寧ろ我儘くれぇが良いんだヨ」
冷たい手で荒北君に伸ばしている私の手を払われる。その行き場のない手が自分に戻ってくる。

「おめぇ、あいつの事辛くねェ?っつったよな。辛いとか辛くねぇとかそう言う次元じゃねーんだヨ、俺となまえの関係はァ。つーかななまえが何言おうと何しようと俺ァなまえ以外に考えた事ねぇの」
「…っでも」
「悪りぃが、おめぇの事はただのクラスの女だからァ」
キツい目線。これ程までに冷たい荒北君を見たことがなかった。何も言い出せなくてその場に凍りついた。

「…ハッ こんなんで固まってたらなまえチャンに敵うわけねぇからァ」
手で追い払うように振る素振りをする笑顔の荒北君。痛いところを突かれた気がした。
…私はどこかで思い上がっていたのだろうか、何かが崩れる感覚が身体を巡る。

「じゃぁな、それは別のヤツにやんな」
また明日なと言い残して屋上から去って行った。
…完璧に荒北君の思いに完敗した。予想外に荒北君がみょうじさんの事を想いすぎていた事実。行き場のない想いと袋を抱えたまましゃがみこんだ。


あの日、告白した…キスして欲しいと思わずいった日。
"んなのは本気に好きな奴にしな"と優しく言い放った荒北君に完全に落ちたのに。

分かったよ諦める…諦めるからせめてみょうじさんが困っているようにと願ってしまう嫌な女だ。



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