チョコっと
すっきりしない頭のまま迎えた14日の土曜日。鞄の隣には一応作ったラッピングしたチョコ入りのパウンドケーキ。靖友今日実家かな寮かな、出来れば2人きりがいいな。そして、色々と聞きたいこともある。そう私だって女々しいのだ。
教室の部活は午前から、いつも通りに学園に向かう。いつもと違うのは手には大荷物ということだ。
「おはよーございます」
「ああ、みょうじか…どうしたその荷物は」
不思議そうに福富君君が聞いてきた。
「フク!今日を知らないとか言わないだろうな!」
「そうだよ、福富君!今日は女子から男子にりんごを送る日なんだよ」
するとフワッと期待するような顔になった福富君だ。
「…おめさん、寿一で遊ぶなよ…」
「え、やだちゃんと福富君にはりんごを剥いてきたんだよ」
「おめさんがか!?」
とても驚く失礼な新開だ。
「…多少はまともになったから!」
なんしろ片っ端から剥いてやったのだ。家族にはせめて1日1個にしろと言われてしまっている。それなりには上手くはなったはずだ。
「なーにしてんのォ?」
靖友が眠そうに欠伸をしながらやってきた。なんとなく顔が見れない。
「みょうじが寿一にってりんごを剥いてきたってさ」
「ハッ フクチャン、無理すんなヨ」
「失礼過ぎるでしょ、あんた達」
靖友の憎まれ口で少し気分が安らいだ。
いつも通り彼等が練習している間を洗濯したり、道具片付けたり、ドリンク作ったり、掃除したり、タイム測ったり何なりとコソコソ働く。今日は流石というか、休日なのに東堂君や新開にチョコを渡そうとして学園までくるツワモノまでいる。いーじゃん昨日か月曜で…と思うのは私の女子力が低いせいなのか。
「はぁ…」
「また深いため息っすね」
振り返ったらタオルをもらいにきたっぽい汗だくの黒田君がいた。
「まぁ…、色々とあってね」
そう言いタオルを渡した。
「…何かあったんすか?…って聞いてもみょうじさんは言う気ない人ですよね」
「…意外と言うよね、黒田君も」
後輩のくせによく人の事見てんじゃん。そして本当よく言うよね後輩の割に。
「ああ、すいません。塔一郎と違ってそういう気遣いなくて」
悪気もなさそうなそうに言う黒田君。
「フフ、黒田君らしいよね。……ぁー、…まぁ簡単に言うと奪っていいかっていう宣戦布告されたって感じ?」
「…ざっくりと何言ってんスか」
「ため息だってつきたくなるでしょ?」
「まぁ、そっすね。…じゃ奪われたら奪い返しましょう」
サラリと言う黒田君の意外な言葉にポカンとする。思わず黒田君を見つめるが視線を逸らされた。
…そっか、そう言う考えもあるよね。単純な私は納得した。
「なかなか黒田君って悪だね。何ていうか肉食系男子ってやつ?」
「半笑いじゃないっすか。ま、多少元気ださせたっつーことで、みょうじさん後でチョコ下さいね」
生意気に笑いながら外へ歩いて行った。さすがといえば良いのか、ツワモノ揃いの部活らしい。
タオルを渡す時に小声で聞く私。
「…荒北、今日実家なら一緒に帰ろう?」
「りょーかい」
やはりいつも通りに普通だ。そうでなくちゃ困るのだが。
部活終わりに大袋からチョコを配る私。
「ハッピーバレンタイン〜」
ばら撒くようにチョコを手渡す。
「おめさん…色気もへったくれもねぇな」
「確かにチョコだなみょうじ」
「ハッなまえチャンらしいねェ」
「みょうじ、りんごはどこだ?」
各所から不満の声等があがる。全くこいつらは。
「…あのね、君達は簡単に手作り手作りって言うけど、アレ時間に材料費にスペースと手間が半端ないんです。しかもこの人数に毎日学校に部活!出来るわけないでしょう!」
私の身振り手振りの熱い演説によって不満の声がなくなった。
後輩がありがとうございます!と言ってチョコを受け取ってくれる。そう、それで良いんだよ。
「…でも、手作りが良かったっす」
少し照れがある黒田君がタオルで口元を隠しながら私にボソッと言う。…ぁー、もうやっぱり後輩は可愛い。でもそんな事言うと黒田君は怒るだろうから言わないでおく。
手元の小分けのチョコレートの封を切る。
「…はい、あーん」
笑いながらチョコを突き出す私。
「っい、いやっす」
「え、先輩のチョコが食べれない?」
「…こーいう時だけ先輩を使わないで下さいよみょうじさん」
パクッと私の手から食べてくれた黒田君だった。そう、先ほど少し元気を出させてくれたお返しだ。
「おいし?」
「…甘いっスね」
…
「荒北帰りませんかー…?」
先程までの元気はどこいったのか、控えめに誘う私。ヤバイ、なんだかドキドキしてくる。
「ヘイヘイ」
中身がなさそうな薄い鞄を引っさげてズカズカ歩いてくる。
そして、人1人分の距離とって自宅へと帰宅路を歩き出す。…うー、手を繋ぎたい…この前はこの前だ。
「なまえチャァン?そーんなに見つめられると照れんだけどォ?」
「っ!違っ」
靖友がニヤニヤと私を見るので思わず目を逸らす。
「ったく、てめぇは…」
靖友が私の手を攫って引っ張る様にして歩き出す。一気に手が暖かくなる。靖友の顔は見えないけど
「耳赤いね」
「…さみぃかんな」
「ですよね…」
本当冬が寒くて本当に良かった。
部活の事を話しながら最寄駅までつく。いつもと変わらない様子の靖友にホッとする。
あと10分も歩けば家だ。
「…あのね、荒…靖友。実は皆には作ってないけど、作ってきたから後で貰って欲しい」
主語がないけど伝わるだろうってダメだ、言ったは良いが恥ずかしい。思わずマフラーを直す様に口元を隠した。ああ、繋いだ手が熱がこもる感じがする。
「…マジで?」
「そー…マジ、い、嫌だったら別にいい」
あー…もう、我ながら可愛くない。でもあの子を考えると渡さずにはいられない。お願い、こんな私だけど離れないでほしい。
「んなわけねーだろ」
横にいるせいで靖友の顔は見えないけど、声が優しくて胸に響く。
「…だから、嫌いになんないで」
声を振り絞るように出す私。
「は?ならねーけど、なまえチャン今日どーしたってぇの?」
「…靖友チョコもらった?昨日とか」
「あ?貰ってねぇヨ」
「…ウソだ、同じクラスの子から告白されてんじゃん、チョコだって」
手を繋ぎながら、ブツブツと攻め立てる可愛くない私。
「んで、てめぇが知ってんのォ?」
「…ぇー、と女の勘?」
「ハッそんなに鋭くねぇだろ」
「いやそれなりに鋭いから!ていうか、だ、だって最近前より靖友とっつきやすくなったし、荒北のくせに告白なんかされてるし、お、同じクラスの女の子にとっても優しいらしいしさ…てっきり貰ったのかと…」
「…なまえ、おめぇ妬いてんのォ?」
「…」
そうか、これ単なるやきもちになるのか?…そう思うと凄く恥ずかしい気がしてきた。
「違いますぅー…」
「んじゃこっち見ろヨ」
立ち止まる靖友に止まらざるおえない。そして手を繋いだまま靖友の胸元を見る私。
「なまえチャァン?いつもの威勢の良さはどこいったのォ?」
何でそんなに意地悪するのさ。
「…靖友のバカ」
「ハッ そんなバカな奴が好きらしくて妬くやつもいるらしいなァ」
私の頭を空いている手で髪をすくように撫でられる。荒い言葉なくせに…靖友のくせになんともその手がやたら丁寧で胸が痛くなる。
「靖友…好き」
「…っ、ほんとおめェは…」
そのまま荒北家に連れて行かれた。
部屋に入れられ抱きしめられるようにキスされる。…なんだかこれも久しぶりかもしれない。
「ん、」
「なまえさっきの言ってくれねぇのォ?」
「っ…好き、」
今度は私から腕を首に絡めて口を合わせる。どうか伝わってほしい、このいっぱいいっぱいな気持ち。
「…俺おめぇしか考えたことねぇヨ、ボケなす」
苦々しい顔の靖友におでこ同士をコツンと当てられる。
「…私もだよ…」
「…」
「…」
「と、!とりあえず作ってきたの食べない!?」
「っ!食うわ、腹減ってるからァ!っ、茶ーもってきてヤンよ」
らしくない雰囲気を壊すかのように慌てて話す私達。バタンと戸が閉められてトントントンと小刻みに階段を降りる音が遠くなる。
…ヤバイ、心臓止まるかと思った。思わず胸元を抑える。
鞄を降ろして、コタツの電源を入れていつも通り適当に座る。もう見慣れた光景となってしまった殺伐とした部屋だ。
靖友がお茶をもって戻ってきた。
「…ごめん勝手にコタツあっためた」
「おー」
靖友は適当に着替えてコタツに入る。なんつーかもう脱ぐ事に躊躇がなさすぎる。そりゃ、今更いちいち渋られても微妙だけど。
もってきたラッピングしたパウンドケーキを出す私。どこで渡すか分からなかったからしっかりと切れている。それをコタツの上でズズッと靖友に押し付ける。
「あ、あげます」
「…あんがとね」
「ん」
なんとなくいつもより丁寧に開けてくれる靖友が嬉しくて思わず笑ってしまう。
そんなパウンドケーキの一切れを私が取り出す。あーもう、本当らしくない。
「…あーん」
靖友に突き出すパウンドケーキ。
「っ、なまえチャン…本当今日どーしたァ?」
そう言いながらなんだかんだで食べてくれる靖友。
「美味しい?」
「あぁ」
「なまえ…」
靖友に引き寄せられてまたキスをされる。私の作ったパウンドケーキの味がする。甘さ控えめに作ったはずなのに
「甘い」
「…おめぇどこまで知ってんのォ?」
「…さぁ何のことでしょうか」
「よく分からねぇけど、断ったからな」
「そりゃそうでしょ」
じゃなきゃこんな雰囲気になっていないけど、その言葉にホッとする。なのにこの返答の自分に呆れる。
「本当、可愛くねぇな」
「っさい、分かってる!」
そんな可愛くない私とコタツ入りながらゴロンと横になる靖友。
「オラ、言わねェとくすぐる」
「っ!ってもうくすぐってんじゃん」
ニヤニヤしながら硬い手で脇腹をくすぐられてすぐさま抗議する。
「っはぁ…もぅ、いーじゃん、妬いたの!」
「珍しいじゃねーのォ」
したり顔の靖友に思わず追加で言う私。
「当たり前でしょ!だって、だって人の彼氏がキスして欲しいとか言われてるんだよ!?」
「ブッ、おま、マジで何言ってんの!?」
靖友が少し顔を赤くして焦る姿から言われたというのは本当なんだろう。
「…した?」
「わけねーだろ」
思わずホッとする嫌な私。
「ハッ、そーゆー事ォ…」
「だ、だって魔がさすかもしれないじゃん」
「それなまえチャンの経験談?」
「違っ、だって可愛い子だったし…」
「おめぇの方が可愛いとでも言やぁ良いか?」
「知らないっ!」
ニヤニヤと意地悪な靖友に思わず顔を背ける。あーもう!結局そう言って欲しいんだ私。本当いや。
「アレだな、妬かれんのも悪くねぇな」
「…」
顔は見えないけど大体想像つく。横になる靖友の上に上半身をのしかかるようにする私。
「重ぇよ」
「…キスして欲しい」
嫉妬心溢れる私の気持ちだ。
「ハッ 上等」
のしかかる私に顔を上げるようにしてキスをしてくれた。
「なまえチャン色々分かってねぇな、もっと分からせてやろうか?」
「…」
頷いた私だった。
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