走れ
「荒北君、喜んだ?」
「…まぁ、喜んだかな」
週明けの月曜の昼休み机を挟んでこの前の事を小声で話す。
14日あの後キスやらなんやら制服のままおっ始めた靖友。でもちゃっかり上下あわせてのカワイイ下着を着てきている私だった。靖友と気持ちを吐き出すかのように…してもう色々と恥ずかしい。お陰で今日この制服に包まれるとむず痒い気がした。朝練終わりに教室に向かっていたら靖友がコソッと"制服似合ってんなァ"と言われ思わず靖友の脇腹へストレートの拳を決めた今朝。
週前はおそらくミサキに心配かけただろう。
「結局のところ宣戦布告の件は
?」
「あー…私の勝ちって事にしといて」
笑いながら言う私。
「うわ、強気じゃん」
「いーの、奪われたら奪い返すだけだよ by後輩」
「言うね後輩も」
そう中々黒田君は面白い後輩だと思う。なんとなく靖友がクソエリートって言いたくなる気持ちも分からなくない。あの小生意気な感じがクセになる。
「そ、男の後輩も悪くないよミサキ?」
「…でもマネは手伝わないよ?」
「あ、バレた?」
2人で笑いあった。
…
数日後
青い澄んだ空が遠い、こんな日こそ部屋でゆっくりしていたい。なのに本日1-2年全員参加のマラソン大会だ。
男子15Km、女子10Km程歩いてでも完走しなければならないらしい。コースは箱根学園を出発してぐるっと5キロ程ののコースを二周だ、男子は三周か、所々に教師が様子見ている。はぁ、それも午前中とかお腹空くでしょ、あとこの箱根と言う土地を先生達は理解できてきるのだろうか。本日はHR無しで初っ端からグラウンド集合となっている。
朝練終わりの彼らとダラダラとグラウンドに向かう。
アンダーを着て、Tシャツ着てジャージ着て全ての寒暖に耐える気の私。部活で少し乱れた髪を再度一括りにする。
「はぁ…」
しかしどうしてもため息が出てくる。
「おめさん長距離苦手なのか?」
ジャージをビシッと着込み震える新開にため息を聞かれたようだ。
「んー…まぁ、平均か遅いくらい?確実に短距離派。ただ走るの怠い、ハードルとかあれば別」
っていうか部活動盛んな箱学では充分なはずだ。というか部活動の人達多いからそもそもこの体力勝負には敵わない。現役でもそんなに得意ではなかったしね。
「はぁ、ロードなら一瞬なのにな…」「あぁ全くだな」「めんどくせぇな、ったくよォ」
「そう言うなお前たち」
寒そうに彼らが文句を垂れてる。取り敢えず福富君は速そうだよね。
あ、そういえば靖友野球の時アホみたいに走ってたよね。体育館からよく見えたっけ、なんだか懐かしいな。
顔を歪ませてだりぃと言っている靖友を盗み見る。
…はぁ、もうこの前から本当私おかしい。14日になんか、こう...ハイになったのか、伝えたい想いがありすぎてやたら好きやら何やら言い過ぎたせいだ。あぁ、もうこんなにブサイクなのに。私だって東堂君や新開が美形やらイケメンだと思う…もう、なんで靖友…ひどいことを思っている自覚はあるが、しょうがない。ただただ好きなのだから。
細い目をして笑う靖友を盗み見てたら、靖友もこっちを見たらしく目が合った。…思わず逸らす私と靖友。なんで今更っていうかこの前がらしくなく甘すぎたのだ。
「… おめさん達また何したんだ?」
後ろからそんな私達を見ていたのか新開が不審に思ったらしい。ちょっとこの前愛し過ぎてとか言えるわけないっていうアホな状態だ。
「マジでなんでもないよ、ね!?荒北」
おそらく盗み聞きしている靖友にふった。
「っ!あぁ、んでもねェヨ」
「そうかぁ?」
グラウンドにつき彼らと分かれミサキと合流する。長袖ジャージを少し捲っている
「やる気満々じゃんミサキ」
「そりゃ長距離は得意だからね、多少点数稼げる所は取っておかないと」
私達には"一緒に走ろうね、かっこハート"みたいな事はならないらしい。そりゃ中学強豪バレー部だったもんね、走り慣れてるだろう。あと結局のところ順位出るしなぁ…。
結局は置いてかないでね〜と言い合いながら皆個人で走る事になるのが大多数だ。そう、だりぃとか言っている負けず嫌いな彼らもスタートが切られると真面目に走るのであろう。
学園長だかが聞こえにくいマイクでツラツラと挨拶をしている。私としてはどうでもいいから寒い中走らせるなとしか感想が浮かばない。
そして女子からのスタートだ。先生の合図によってダラダラとスタートする。な割には速度が速い。オイオイ、やっぱり皆やる気じゃん。私の目標は中盤だ。
走り出して10分ちょっとか…おそらく男子も今頃スタートを切ったであろう。ミサキは500メートルくらいは先に行っていそうだ。もう私なんか疲れてきているし脇腹が痛い。ダラダラと小走りしていると思う"歩いた方が速いのではないか"だ。しかし周りがまだ走っていて歩きにくいので走るのだ。路面のコンクリートの硬さが余計に足にきて、疲れてくる。
しばらく走っていてさすがに厳しくなってきた。似たような速度で走っていたクラスの友人にもう歩くから先に行ってといい1人になる。早足のような速度に落とす。あー…厳し、走れるっちゃ走れるけど後半分以上あるので温存だ。
背後から伝わる人の気配。ああ、もう男子来たのか…。軽々と私の様な女子を抜いていく体育会系な男子達。
「なまえチャンおっそ」
靖友がチラッと抜かす際に私をみて憎らしく笑いながら事実を言ってぬかしていった。…ほらみろ、なんだかんだで速いグループにいんじゃん。走り去る軽やかな後ろ姿を見つめた。
また少しすると福富君に新開、東堂君とかチャリ部が抜かしていく。やっぱりなんだかんだで体力あるんだよね、あいつら。
無事と言えば良いのかとりあえず一周した私。
もう、良いんじゃないでしょうか…先生私は疲れました、この寒さも身に染みます。言えない言葉を飲み込んで、先生の前を通過していく。私の順位はほぼ真ん中かちょっと下くらいであろう。当初の予定通りだ。
抜いたり抜かれたりを繰り返す。基本男子には抜かれるけれど。
残り2キロきったかな…あと少しだ。
「…みょうじさんみっけ」
後ろから声がかかったと思ったら横に来た人物の顔をみて、咄嗟に少し顔を歪めてしまった。
「みょうじさんって荒北君絡むと表情豊かなんだね」
息を切らしながら言ってくる人物。そう以前宣戦布告してくれたボブが可愛い#bk_name_4#さんだ。しっかりと苗字まで気にして覚えてしまっている。
「…なんかごめん」
「折角ちょっかい出してみたのに拗れてなさそうで残念ー」
残念とも思っていなそうな笑顔に少しだけほっとしてしまう。
「…いや、結構嫌だったんだけど?」
「へへ、みょうじさんには負ける気はなかったんだけど、荒北君に負けたからちゃんと身を引いてあげるね、もっといい男捕まえる〜」
悪戯に笑う彼女が少し可愛い。
「それは嬉しい限りで」
「みょうじさんマネの割には走れるんだね」
「いや、もういっぱいいっぱいだよ」
「っぽいね」
2人して息があがりながら小走りに走る。
瞬間、会話に夢中だった私の頭にポスンと柔らかく大きな手が置かれた。後ろから来たその人物がそのまま無言で私の横を駆け抜けていく。そう…靖友だ。その行為に思わず胸が高鳴ってしまった。
「…」
「…」
チラッと#bk_name_4#さんを見たらそのジト目と目が合ってしまう。
「…はぁ、やっぱカッコイイ荒北君。そしてみょうじさんだけズルいんだけど!」
「うっ、も!いーでしょ!?」
「…あーあ、何見せつけてんのかなぁ、これだから本当嫌になんだけどー!バカップルは」
これでもかという盛大にため息をつく#bk_name_4#さんだ。
「んじゃ、ちょっと追いかけさせてもらおうかなぁ。じゃぁまた」
軽く手を振って速度をあげた#bk_name_4#さんにはついてけなかった。何かしら部活やってたっけか。
うう、靖友め…何嬉しい事してくれてんだか。少し恥ずかしくなって髪を再度まとめ直した。
…
その日の部活終わりタオルを首にかけた靖友に声をかけられた。
「てめェらは…何意気投合してんのォ」
「荒北…いや、してないよ?」
おそらくはマラソン大会での#bk_name_4#さんの事だろうと予想ついた。持っている気持ちは多少似ている時もあったのかもしれない。
「そーかヨ…なまえチャン帰り少し残れ、渡したいもんあっからァ」
「え、うん」
いつもの様に苦い顔した靖友にもちろん了解した。
そして寮近くまで一緒に帰る事になった。
「ん、」
マフラーを巻いてヌクヌクしている靖友から少し可愛らしい紙袋を押し付けられるように渡される。
「え、何これ」
「ぁー…おとといのお返しィ?」
「いや、私に聞かれても困るんだけど。でもいいの?」
「あぁ」
速攻すぎるお返しだ。
早速許可をとってゴソゴソと開ける。…あ、これは。
「…ありがとう、嬉しい」
「来月はやんねェからな」
分かってるよ、というか気付いていたんだ。その紙袋に入っていたのは、ハンドクリームだ。いつも私がドラックストアで買ってる安いやつじゃなくて、ハンドクリームとして自分で買うのには尻込みする感じのちょっと効能良さそうなやつ。
毎年冬は手荒れはあったけど、部活やり始めてから今年は更にだった。確かに荒北の前でハンドクリームこの前塗ってはいたけど…。というか私の手荒れに気付かれるのもいささか恥ずかしいけれど、正直嬉しい。
…だから早いお返しとして渡してくれたんだ、本当素直じゃないな。
「フフッ」
「っんだヨ!?」
これ妹さんと買いに行ったのか、はたまた靖友が1人で行ったのか何かと想像すると面白い。
「早速使って良いの?」
「好きにしろヨ」
ぶっきら棒な言葉が返ってくる。言葉通りに好きにさせてもらって、手の甲に出して塗り込む。フワンとした控えめなフローラルの様な香りがする。
「…いい匂いー。ホラ」
手を出すと少し香りを嗅いだ靖友。
グイっ
といきなり手首を掴まれ、少し引き寄せられる。何かと思ったら耳の後ろに近づく靖友。
「ハッ なまえチャンの匂いのがイイけどな」
さすがに硬直する私。やめてよなんか恥ずかしいし、そして汗やらかいてるし臭いかもしれない。
「…変態か」
「その変態と付き合ってるモノ好きもいるけどなァ」
そう言い歩き出した靖友を追う。
「その変態も良いところあるのよ、たまには」
「…気のせいじゃねェ?」
…気のせいなんかじゃないよ、いつもありがとう。
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