危機一髪
3月も終わりそうなある日。午前のみだった部活帰りに靖友が実家に帰るという事で一緒に帰ってきた。
そして家寄れという靖友の一言で荒北家にお邪魔した。
「なまえチャン、バイトしてんだってェ?」
え、何故その情報を知っているんですか靖友さん。
出してもらったお茶を持つ手が少し緊張する。バイトの事はミサキにしか言ってないからミサキか?ミサキ伝いに新開か?ミサキめ…。いや、でも内容は誰も知らない筈だ。冷や汗をかきそうだが、もちろん知らんぷりをすることにした。
「そう、従姉妹の姉さんに誘われて数回のチラシ配りだよ。あと一回行けば終わるかな、ごめん言うほどでもなかったかなと思って」
うん、嘘は言っていないぞ。そしてしっかりとバイトしている事を言わなかった言い訳もさりげなくした。靖友はその為か、そのまま"ヘェ"の一言で終わらせてくれた。
「なまえチャンほら」
靖友の方を向いたら手元にはお菓子。
「あ、それ私が食べたいって言ってた限定のやつ!」
「そ、見つけたから買っといてやった」
靖友がパッケージを開けていく。
「このイチゴのやつ見つからなかったんだよね。やっぱ春はイチゴだよね〜」
「っつってたねェ、おら食え」
…暗にあーんしてやると言っている靖友だ。突き出されるクッキーに口を開けてかぶりつく。
「でけェ口」
「っう、うるさい」
ブサイクな顔でからかう靖友にいつものように返す私。そんな私にキスをする靖友。
「ん、」
「あめぇ」
「…イチゴ味ですね」
多くなっていくスキンシップ。抱きしめられるように擽られて、首元やら顔にキスをされ、いつの間にやらベットの上だった。
「や、靖友くすぐったい」
「ハッ 脇腹弱すぎィ」
ニッと笑う靖友の脇腹を突く、するとビクッとする靖友。そりゃそんなに強い人はいないから!
ふと私に被さっている靖友がピタッと止まった。と思った瞬間に掛け布団をバサッと私にかけてきた。
「!?」
一瞬にして布団の中に閉じ込められてしまい、その視界が奪われた暗闇に少し焦る私。
その時ガシャっという音と共に部屋の戸が開いた事に気付く。
「靖兄、母さんが夕飯何にする?って…」
…この声妹ちゃん!!さっきまで人いなかった筈…え、ちょっ、それでも何か挨拶しないと!
そんな心情が咄嗟に働き布団の中から無理やり黒ヒゲ危機一髪かという勢いで飛び出した私。
…その後思えば、この登場はいかがなものかと思うがその一瞬では頭が回らなかったのだ。
「っ!こ、こんにちは」
予想外の登場をした私に目を丸くしてビックリする黒髪ストレートな妹ちゃん。と私を見て頭を抱える靖友。
「「「…」」」
「…靖兄、なまえちゃんと付き合ってたの?」
満を持して口を開いたのは妹ちゃんだった。
何となーく、イチャついてたベットの上から降りる私。ヤバイぞ、大人しく隠れていれば良かった、すごい気まずい。
「そォ、てめェ出てけ」
「ちょ、それは可哀想でしょ!…あ、このお菓子食べる?」
「あ、じゃもらいます。その前に用事が…」
直ぐさま部屋を後にした妹ちゃん。
「おめェは…」
ギロッと私を睨む靖友。
「な、なんか焦ったの!ごめんてば」
「はぁ、もう知らねェヨ…」
その時階段を軽快に登ってくる音が聞こえたと思いきやノックと同時にドアが開いた。
「なまえちゃん!久しぶりねぇ」
靖友母さんが居た。本当数年ぶりかもしれない。思わずその場に立つ私、大丈夫だよね制服…シワになってないよね!?
「あ、お久しぶりです」
頭を下げる私だ。
「すっごく綺麗になっててビックリ!…ねぇ靖友?」
おお、なんだが無言の圧力が最後の"靖友"に込められている気がする。
「っ…、付き合ってっからァ」
「みたいよねぇ、知らなかったわぁ。あ、なまえちゃん下でお茶にしましょ、美味しいケーキあるのぉ」
この誘いを断れる人がいたら見てみたい。もちろんお言葉に甘えてと言いながらついていく。オイっという靖友を無視しながら。
…
「ねぇねぇ、いつからです!?時々来てたのは知ってたんだけど!夏の靖兄の風邪の時は!?部屋で看病してたの!?」
もう一人の妹さんはまだ帰ってない様だ。そんな中、お母様がお茶の用意だかをしている最中だ。手伝おうとしたのだが、妹ちゃんの質問によって叶わなかった。妹ちゃん爛々とした目をしながらの直球の質問にたじろぐ私。あの色々とヤバかった風邪の日の事か、あれを今思い出すと恥ずかしくなるっていうか…。
「あ?俺の風邪ェ?」
というか靖友知らないんだって!!妹ちゃんにノート渡しただけってなってるし!それを今更思い出すと凄く恥ずかしすぎる。
「あ、あの、あの時は違くて…」
歳下にしどろもどろで答える私。
「意味わかんねェんだけどォ!?」
「靖兄は黙っててよ!!むしろ邪魔!部屋戻っていーからぁ!」
「あぁ!?」
…風邪の日の事は、しつこい靖友に後日吐かさされた私であった。
「へー、あの後なんだ!っていうかなまえちゃん顔真っ赤!ちょー可愛いですー!!」
妹ちゃんが抱きついてくる。なんというか明るい靖友の女版だ。やはり同じ空気があるのか非常に心地よいので私も抱きしめ返す。
「うう、妹ちゃんあったかい…柔らかい…」
「何してんのてめぇらはァ」
「うっさい!靖兄黙って」
ソファに踏ん反り返る靖友に妹さんは辛辣だ。
あぁ、女の子やっぱり柔らかくて気持ち良い。
「なまえちゃんなんで靖兄?なまえちゃんだったらもっと良い人いません?」
ビシッと実の兄に向かって辛辣な妹ちゃんだ。
「…えと、そのや、靖友くんは、その、まぁ優しいし、よくよく人を見てるから面倒見いいというか、気を遣ってくれたりしてくれるのでやっぱり好きというか…多少意地悪?される時もあるけど、うん…許せるというか」
ご家族に聞かれたものだから、変な事は言えなくて下向いて素直に言っていたけど…なんかこれ凄く小っ恥ずかしい。
そう思い顔を上げたら妹ちゃんとお茶を持ってきたお母様がニヤニヤしていた。そして靖友は、何やら頭を両手で抱え込んでいる。
「…靖兄、感謝しなよ」
「だからてめぇは黙れヨ」
「あ、なまえちゃん!靖兄のちっちゃい時の写真みたいでしょ!?」
「っ!見たい!!」
必死に止めさせようとする靖友を振り切って妹ちゃんとアルバムを開いて、小声で気持ち悪い悲鳴を上げた私であった。
そんな中靖友お母様が覗いてくる。
「靖友小さい時、名前言えなくて"やしゅとも"言ってたのよぉ」
「!?」
さらに何とも言えない声が出た。
(頂きネタ:部屋でいちゃいちゃ→家族に付き合っているのバレ、家族公認に…妹ちゃんも再登場)
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