黒田の体育祭


本日は体育祭だ。毎年この時期に行われるほぼ新入生の為の触れ合いを兼ねたイベントだ。
大縄、障害物競走、リレー等…盛り沢山だ。

「あ、黒田君に泉田君発見」
みょうじさんが、いつもつるんでいる友達さんと俺達に声をかけてくる。そして、塔一郎が対応してくれている。
「へぇ、君がなまえのお気に入りの黒田君か、初めまして」
お友達さんの言葉に咳き込んだ俺。みょうじさん何…を言ってるんだ?
「ん?そう、まぁお気に入りー」
まぁ…とか微妙なんスけど。
体育祭の為か長めの髪を両サイドでまとめているみょうじさんは少し幼い。

「…こんなとこで何してんスか?みょうじさん」
「障害物の借り物は見所だからね、ここなのよ」
ニヤニヤしながら言うみょうじさん…趣味悪いっす。借り物障害付近に陣取るみょうじさん達。

アナウンスが入り、障害物競走が始まる。
「うちのクラスは新開出るんだよーー」
へぇ…。確か荒北さんも出るとか言ってなかったっけ?まぁそのうちわかるだろう。荒北さんと言えばまだ"みょうじさん接触禁止令"が発令中だ、約3週間か…。本当あの人何しでかしたのだろうか。もう部内でその禁止令は知れ渡ってしまっているので皆静かに動向を見守り最中だ、新開さんとかは例外にも程があるけれど。あの人は、やたらめったらひっつき過ぎだ。隣にいる時はやたら近いし、荒北さんがいる場合は見せ付ける様に触れているし性格が捻くれてる。みょうじさんももう諦めているらしくビクともしない…それもどうなのだろうか。

荒北さん…最近はみょうじさんの近くいってモタモタしていて多少気持ち悪い。話しかけた割には微妙な距離過ぎてみょうじさんが意地悪く笑ってたりするレベルだしな。


1年から始まる障害物競走は、笑いどころを含めて着々と進んでいく。

3年になった途端歓声が違う。そりゃ東堂さんが出るというのだからな。なんとも派手な人だ。
「東堂君スプーンにピンポン玉乗せて走るの得意なんだよ、ブレないの!あと新開パン食いはめっちゃ早いのよ、荒北は網抜けるのゴキブリみたいに早いよ」
みょうじさんが楽しそうに俺に話しかけてくる。
「…ああ、想像つきます」
が、仮にも彼氏に向かってゴキブリで例えるのはどうなのだろうか。まぁいいかこの人が楽しそうなら。


えー…と次は新開さんと荒北さん含む5人か、トラックの端で1列に並んでいる。新開さんは相変わらずバキュンポーズだかをしているし、荒北さんはやる気なさそうだし。
「みょうじさんは誰応援です?」
「なぁに?黒田君またその質問?今回は新開だよ、同じクラスだしね!」
二ヒヒと笑うみょうじさんだった。"今回は"ね…この前の答えはやっぱり荒北さんという事だろうな…俺だと言って曖昧にされたけど。無意識に惚気られた気がして荒北さんが最下位になることを望んでやった。

スタート合図のピストルが鳴る。走り出す5人が最初の関門網くぐりに突入する。あ、確かに荒北さん早いな…。パン食い障害は新開さんにとっては本当ご褒美なんじゃないだろうか。隣の塔一郎が歓声を上げていて、つーかうるさい。

走ってきて皆借り物ボックスに手を入れる。荒北さんと新開さんも同様だ。他の人達はそれぞれ探しに行く。
札を見た荒北さんと新開さんが辺りを見回す。と俺たちの方向に視線が固まった。

ダッシュで走ってくる2人が俺の前、いやみょうじさんの前に来た。
「へ?」
ポカンとするみょうじさんだ。
「よしみょうじこの借り物はおめさんじゃないとダメだから来い」「いや、俺と来い。このお題はてめぇだからァ!」
俺たちの目の前で言い争いが始まった。
「…靖友、そのお題は他の人でも可能だろ」「てめェこそなんでそのお題でなまえ!?頭沸いてんじゃナァイ?つーか、ダメに決まってんだろ!」
「いや、このお題なら俺は絶対にみょうじが良いんだ」
ゴタゴタと目の前がうるさい。隣のみょうじさんがさすがに困ってきている。…はぁ、本当この先輩達は面倒くさい。

「…はぁ、荒北さん接触禁止令発令中っスよ」
2人の会話に口をそっと挟んでみた。そうしたら荒北さんがギロッと俺を睨む。すると新開さんがニッと笑う。
「ああ、そうだったな。っつー事で俺の勝ちだな。みょうじ立て走ろう、これで1位だ」
「え、ああ、うん!」
そうなら…とほんの少しだけ残念そうに立ち上がるみょうじさん。とそれを見送る苦々しい荒北さん。

もちろんトップでゴールしたのはみょうじさんの手を引いた新開さんだった。
「お題はなんですか?」
新開さんにマイクを向ける生徒。
「ああ、"彼女"です」
「はっ!?」
驚くみょうじさんの声もマイク越しに聞こえた。そして会場に響く驚愕の悲鳴。
「付き合ってる人居ないので、友人の彼女連れて来ました」
ドヤ顔で言い放った新開さん。会場がなんだそれなら的な安心感に包まれた。

…つーか、あの人こじつけも良いところだろ…なんのお題でも理由つけてみょうじさん連れ出す気だったんだろう。そりゃ荒北さんが阻止する気満々だろうな。
荒北さんのお題はマネージャーだったようだ。どこかの部の男マネ連れて走っていた。



体育祭終わりにみょうじさんの手を引く荒北さんを見かけた。
のちの部活の様子だと例の禁止令は廃止されたらしい…少しだけ残念だ。


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