補給


「やっとテスト終わったな」
「そうだね、新開私少しは教えた筈だけどどう?」
「俺も週末混ぜてくれるならもっといけたな」
「それはないでしょ」
「おめさん、もっと俺に甘くていいぞ?」
「ふふ、充分甘いつもりだけどね〜」

あぁ言えばこう言う新開と並んで、テスト終りに部活に向かう。気候も良くなってきたせいで、こいつらがやけに活発的だ。
自転車競技部では、今週はヒルクライム大会が予定されている。あぁ、あとは銅橋君が入退部を繰り返しているっていうのが最近の出来事か。6月にはインハイメンバーが決まるし、中々目白押しだ。





着替え終わって、練習場に行くと銅橋君が何度目かの入部の為に全力で頭を下げていた。

「…おめさんあーいうタイプ好きだろ?ザ、体育会系」
コソッと耳元でパワーバーをかじっている新開が話しかけてくる。
「…うん、嫌いじゃないね」
何しろ私自体ががっつりと中学部活やってきたし、こう言う熱い部活の奴らは結構好きだと思う。しかし新開に当てられるのは癪だ。

「さすがに銅橋に殴られたらおめさんきついぜ?」
「…あのね、もう忘れてよ半年くらい前のことでしょ?」
「ははっ、それだけおめさんが心配って事さ」
「そりゃどうも、気をつけるって」


清々しい気候の中、練習が始まる、本日は外周練習だ。久しぶりに天気も良いし、テストも明けたし自転車日和じゃないだろうか。そんな彼等を見送った。
あー…私もロード欲しいな。彼らがああも楽しそうに乗っていると凄く乗りたくなるのは必然だろう。
でも、すっごく高いんだよね、メンテもかかるし…、でも乗れることは出来そうだ。せいぜい大学いってバイトしてお金貯めるしかないなぁ。はぁ…とため息をつきながら、ポツンと残されたトレーニングルームの端のロードを見つめた。


「…みょうじさん!」
ボーッとそんな事を考えてたら話しかけられた、そう今日入部の銅橋君に。その威勢のいい声に一気に現実に戻される。

「え、ああ、どうしたの?」
「本当毎度スイマセンっした!!」
大きい図体で全力で頭を下げてくる。下げる頭によって風圧を受けそうだ。
「自転車乗る気なら私何も構わないよ、ほら練習していいって他の人も言ってたし…ね?」
一応銅橋君は本日入部と言うことで外周には連れて行ってもらえなかったらしい。要は室内でローラー練だ。なんとも意地悪な3年も居るからなぁ…困ったものだ。乗りたきゃ乗れば良いじゃんと思ってしまう私は適当なのだろう。
でも、銅橋君も強くなるんだろうね。体格の良さだったり、この与えられた練習をこなす真面目さだったり、今後の箱学が楽しみじゃないでしょうか。

はぁ…男に生まれたかった、私も皆と練習走りたい。本日何度目かのため息だった。








部活も終わり、ガヤガヤとはけていく部員達。そして何気なしに部活終りに靖友のローラー自主練に付き合う事となった。とは言っても私はタオル持ってストップウォッチ持っている見守りが中心だ。

「ハッ なまえチャンは馬鹿だよねェ」
先程考えていた事を靖友に言ったらこうだ。バカにしたような顔する靖友についムッとしてしまう。

「私が男だったら荒北より強いよ」
「どこの福チャンだヨ」
「…ロード欲しいんだよね、それかクロス。だから大学行ったらお金貯めるんだ」
「おー、そしたらぶっちぎってヤンよ」
「え、運んでくれないの?」
「 ハッ 甘チャンがァ」
汗ダラダラの靖友にタオルをかける。

熱気がこもる室内。そこから導き出される感想は"最近暑くなってきたよね"だ。そういえば来週からは衣替えだ、制服出さなきゃならない。

ピタッと一部張り付くTシャツが今日の暑さを物語る。本当に暑かったな今日は…私もマネ業しただけだけど汗掻いたしな。
靖友を見守りながら塩飴でも持ってくるかと思ったら、靖友がロードを降りた。

「え、今日終り?」
「ちげぇ」
いつもより早くてつい口を出してしまった。直ぐさまぶっきら棒な否定の言葉と共に汗を拭いている。

そしてフラフラと寄ってきたかと思ったらガシッと私の肩をつかむ靖友。俯くせいで顔がわからない。

「へ?」
すると何を思ったか私の首を舐めてきた。
「っ!!ちょ、や、」
首に感じるザラっとした舌の感触にゾクッとして、靖友の汗に濡れた髪を掴む。
「んっ、」
「塩分補給ゥ?」
「っ!じゃ飴でも持ってくるから!ローラー乗っててよ!」
ビシッと言い放つ私にどこか呆れた顔の靖友だ。

「…テメェは女じゃなきゃ俺が色々困んだろ」
らしくない靖友から逃げる様に飴とドリンクを取りに行った放課後だった。





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