ジューンブライド
「巻ちゃんがな〜…」
もう東堂君の巻ちゃん話は聞き飽きているどうもみょうじなまえです。
この自信有り気な東堂君は先日のヒルクライムで総北の巻島さんとインハイの決着の約束をしてきたらしい。それを今熱く語っていたところだ…元気そうでなによりだ。
「東堂君が勝つんでしょ?」
「さすが、よく分かってるなみょうじは!」
「まぁね」
「ああ、荒北のアホにでも煎じて飲ませてやりたいくらいだ」
ムッとする東堂君が私をピシッと指を指す。ああ、さっき靖友とくだらないことで言い争ってたからなぁ。確か本日のカチューシャが趣味悪っとか言われてたっけ。
まぁ、この東堂君は全てひっくるめて東堂君だし。それ分かってるくせにつっかかるという騒がしい日常をよく見かける。
そしてこの箱学の自転車競技部では先日インハイメンバーが決められたところだ。
という事は確実にインハイへのカウントダウンが始まっている。初心者な私が見るだけでも集中力が違うし、さすが王者と呼ばれるだけの迫力はあって時々ドキッとすらする。
しかしながら練習が終わった後にはしゃいだりしてる姿はただの男子高校生なのにね。その良い落差は嫌いではない。
インハイメンバーが決まって、色々申し込み要項なりなんなりの事務的仕事の為、私と副部長の東堂君は部室の一角で机を挟んで口と手を動かしていた。
「…6月か」
「そうだね…6月」
ふと東堂君が窓の外を見ながら呟いた。
窓の外は走りに行って戻ってきたらしい靖友含む他の部員…そうだよね、練習出たかったよね。そう思った瞬間、蒸している風が隙間から入ってきて、机の上のプリントを飛ばそうとするので慌てて押さえた。
「ジューンブライドだな」
私が乱れたプリントを揃えていたら、東堂君が声をもらした。
「あー…えーと、6月に結婚した花嫁は幸せになれるとかだっけ」
「ああ、そうだ」
俺の従兄弟が今週末に結婚するんだ的な話をしてくれる東堂君に相槌をうつ。
「…でも日本の6月は梅雨だし、蒸し暑いし、ちょっとアレだよね」
「む、みょうじはロマンがないな」
「ぅ、それは、悪かったね」
服や化粧なりは多少は気にするけど、そういう女子力は少ない私。結婚だって紙による事務手続きじゃんと思うのは少し冷ややかなのかもしれない。でも紫陽花に囲まれた花嫁さんとかは綺麗かもしれないな。
「…ああ、そうかみょうじと荒北はもう結婚できるんだな!」
「ブハッ!」
衝撃的な東堂君の言葉に思わず吹き出す事となった。
「汚いではないか!俺に唾が飛んだぞ!!!」
「そりゃ…!と、突然東堂君がぶっ飛んだ事言うからでしょ!?」
「法律上ではそうであろう。何もぶっ飛んではいないな!」
いやいやぶっ飛んでるから!と追撃をしながらムッとする東堂君を見つめる。
「…えー、と昔は確かに結婚が早かったんだよね、確か」
「ああ、そう言われているな」
今は中々この歳では極僅かだよね…周りじゃいないしなぁ。
…誕生日が早い荒北はもう18歳だもんね。ふとこの間の誕生日を思い出す。そうか…結婚出来てしまうのか…いや、その今なんてしないけどさ。って"今"って何よ私…。っ!!もう、そんな事考えさせないでよアホ東堂!っつーかそんな事言われるとなんだか…
「っ凄いむず痒い…!いや、ないから!!東堂君のせいだよコレ!!」
「いきなり何のことだ!?意味が分からないぞ!!」
ガタッと思わず立ち上がって両手を触り抑えた私。
「はぁ…廊下までうっせェんだけど、てめェら」
そんな騒がしい私達の間を割く様に少し間延びした声が挟まった。
ギッ…と音をたてながら開いたドアに首にかけたタオルで汗を拭いている靖友。様子を見にきたのかダルそうに佇んで居た。
瞬間、今話していた"ジューンブライド"が頭に浮かんでしまったのはしょうがない事だろう。…本当そんな事考えた事なんてないのに!!あーもう!靖友タイミング悪いのよ。顔に熱が集中してくる気がして顔を逸らす結果となった。
「それがな荒北、ジューン「いや、東堂君と熱くインハイメンバーについて話していただけだから!!!」
東堂君の足を少し蹴って促して"これ以上喋るな"と言う意思表示をする。
「む、なんだみょうじ照れているのか?中々可愛いじゃないか、まぁ俺には敵わないがな!!」
ふふんっとドヤ顔で言う東堂君に色々突っ込みたいが、ここで突っ込んだら負けだろう。
「…本当おめェら何の話だヨ」
呆れている靖友が気になるらしくなんだかんだで食らいついてくる。
「聞かない方が良い、東堂君の話はロクなことがないよ」
「それは酷すぎはしないかみょうじ!?」
私は靖友にしっかり注意したのに、私が席を外した後、聞いてしまったらしい靖友だ。
その靖友が真っ赤になっていたと憎らしい顔した東堂君から聞かされた。そりゃそうなるでしょうが、アホ東堂。
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