光る
6月の終わりの部活、本日も厳しい練習を終えた彼ら。インハイまであと1ヶ月くらいだしね。私もほぼそこでこのマネ業を終えると思うとこの短い期間だけど感慨深いものがあるのだ。走る彼らをずっと見てきて情がうつらないわけがない。
なのに部活が終わるとこの有様。
「ユキ!そっちにいたか!?」
「いや、さっきこっちで…、真波ぃ!!」
「え〜…俺よく見てなかったですー」
「よく手分けして探すぞ!」
「新開まで…あんた達風邪引くよ」
部活終わりに数人の目立つ顔が見当たらないので探しに来た。トレーニングハウスの裏手の小川というかほぼ雑木林に居た彼ら…というか新開と真波君しかいない。サイクルジャージにタオルをかけた奴らがはしゃいでいた。
「みょうじさ〜ん俺付き合うの疲れました」
ニコニコとピョンとアホ毛を揺らせながら真波君が私に寄ってくる。
「ヨシヨシ、本当アホな先輩達でゴメンねー…で、新開なんなのよ。後輩引き連れて」
「ああ、さっき蛍がいたんだ。だから捕まえようとしてるんだ」
「はぁ…どこの小学生よ」
「いやぁ最近じゃ珍しいぞ?」
いや、分かるけどさ。なんともさすが箱根学園というのか蛍が生息しているらしい。でもまだ時間は遅くても日の長い夕暮れ時だ。薄暗いから蛍の光は僅かであろう。
「…いたの?」
「んー…それがさっき光ったんだが…」
…久しぶりに見たいと思うのはなんでだろうか。ここ数年見てないなぁ
田舎の親戚の所に行って以来かな。
「…私も探す」「えーみょうじさん戻りましょうよー」
「さすがおめさんは子供の心を忘れていないなみょうじ」
「黙ってよ」
草むらの中に入っていく。私は長ズボンジャージだけどこいつらは蚊にやられているのであろう…御愁傷様。せいぜい私の囮となってくれ。
「居た?黒田君」
「いないっスね、もう…ってみょうじさんまで何してるんスか!?」
背後からの登場の私にビックリしたらしい黒田君。
「私も久しぶりに見たいの」
「…じゃ、捜索活動続けます…」
「よろしく頼みます」
それから5分ほど捜索活動は続いた。
「新開さーーーーん!!!!やりました!2匹捕まえてきました!!」
雑木林から泉田君が両手を合わせて出てきた。
「よくやった泉田!」
「おー、やっと居たのか」
「私も見る見る!!」
わらわらと良い歳した人達が集まる中泉田君が両手を開く。
「「「おお!」」」
しっかりとお尻が光っている蛍が居た。
「凄い久しぶりに見た」
「みょうじさんにそう言ってもらえるなら捕まえてきた甲斐ありますね」
穏やかな笑顔の泉田君はとても良い後輩だ。
「本当ゴメンね、新開含めて」
短い期間しか見ない蛍はどこか一抹の寂しさを覚える。
「…光るのは求愛行動だったか?オスがメスに光で飛んでくとか」
「新開また無駄な事知ってるね」
「ん、ああ、どこかの小説であった気が…」
適当だなぁもう、でも確かに求愛行動だったかもしれない。敵への威嚇だっけ?蛍を囲んで、適当な話をする私達。
「…あ、みょうじさんもう1匹きましたよ蛍」
真波君がコソッと指差す先は…遠くからダルそうに歩いてくる制服に着替えた靖友だ。
「みょうじ探しに来たんだろうな、おめさんが黙って参加するから」
「え、私のせい?」
しれっとしている新開。
「俺にも光ってる様に見えますね」
「ちょ、黒田君!荒北まだ禿げてないから!っていうかあんた達人間を虫で例えないの!!」
「どんなツッコミですかそれ、…そしてあんた虫どころかこの前ゴキで例えてましたからね!?」
「オラ、さっさっと戻れヨおめぇら。シャワー浴びろシャワー!鍵当番困ってんぞ」
「おお靖友」
そう言う靖友によって蛍に寄ってたかって群がっていた私達は解散する。もちろん蛍も光りながら空に逃げていった。
「…なまえチャン帰んぞ」
ボソッと呟き、私のジャージの裾を僅かに引っ張る靖友。
「ほら求愛行動ですね」
私にコソッと耳打ちしてくる楽しそうな真波君。
「…そのアホ毛抜いてあげようか真波」
逃げていった真波君であった。
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