新開の七夕


「あー…暑い」
そう言いながらみょうじは机に突っ伏して、俺を見つめてくる。本日は俺とみょうじで日直業務だったのだ。期末テスト終わりの放課後はなんとも人をダメにさせる。みょうじが日誌を書いていたのだが、あまりの暑さとテスト疲れか机にダウンした…というか休憩か?机がヒンヤリして気持ち良いのか顔を張り付けている。

「…新開暑いのは得意そうだよねー」
「まぁ、寒いのよりはいいな」
そうだよねーっと俺に同意しながら、途中まで書いた日誌を無言で押し付けてくる。それを嫌を言うことなく続きを書いてやることにした。

「七夕か…そう言えば朝、東堂君が巻島君の誕生日だって騒いでた」
「よくやるよな、あいつも」
「正直誕生日とか…ただ年取るだけだけだよね」
「冷やかだな」
「新開だってそう思ってるくせに」
「まぁな」
サラッと当ててくるみょうじだ。

「…今日は、曇りだね。夜空は厳しそう」
ポツンとこぼすらしくない言葉。
「お、意外な言葉だな。そういうの興味ないだろ?」
「うん」
っめ即答か。女の子な見た目に似合わず、ロマンチックな事は興味なさそうだもんなおめさんは。
「…おめさん俺には、はっきりそういうよな」
「何が?」
「素に近いよな。部活やらクラスの中だと話合わせるのにな」
周りを見ているみょうじは、しっかりと雰囲気をみて話は合わせるのにな。俺との時は意外と辛辣だ。
「だって新開は、素を出していい相手だもの。だから楽」
「…」
遠い目と無表情で呟かれるそれは喜んで良いのか悪いのか。まぁ、俺もみょうじといる時は色恋抜かして楽だしなぁ。




「…織姫と彦星は会えるのか、うーん…会えないか」
「今日は無理じゃないか?」
「だね。ふん…よく一年に一回とかよくもつよね」
「ははっ、どうした?今日やさぐれてるな」
先ほど感じていた、今日のみょうじはどこかおかしい。
「はぁ…来年…当たり前だけど離れるよね」
「まぁ、だろうな」
ピンときた話の内容とどこか遠い目をするみょうじ。

そんな机に突っ伏した頭を梳くように手で撫でてやる。黒い長めの髪がツルツルと手触りが良い。
「気持ち良いー…」
「そりゃ光栄だな」

「…おめさん、靖友に相談する気ないな?」
「よくご存知で。…私には私の道があるし、荒北も荒北の道はしっかり自分自身で決めたいと思ってる筈だよ」
また、そう自己完結しているな。まぁそのしっかりしている所が靖友が好きであろう所と逆にハラハラさせる所だろうな。
「なのに不貞腐れるとか、おめさんもなかなか可愛いところあるじゃないか」
「…うるさいな」

「新開決めた?ってだいたいインハイ前に決めはしないか」
「そうだな、インハイ後だな」
「ふふ、新開が大学生とか…」
大学か…おそらくはチャリ乗るし、またみょうじとも分かれるだろう。
「うーん、おめさんと離れるの辛いな」
「お互い様」
伏し目がちに呟くみょうじ。
「おめさん、俺の事そう思ってたのか?」
「…うん、まぁ」
「素直だな」
意外と素直な言葉にビックリする。調子にのんなとか言われると思ったんだけどな。


俺が日誌書くのを見ていたと思ったら、途中から視線が来ていないことに気付いた。
「…新開もおっぱい大きい子好きそー」
「…」
なんの話だ。ここでの切り返しは、揉ませてくれor貧乳も好きだ…か?いや、どっちの言葉にしろ俺の印象がそこまでよろしくないのは確かな気がする。
「…彦星もそうだろうね」
「いや、あいつは貧乳派だぜ?」
「バカでしょ新開」
「おめさんが振った話題だろ、片付けろよ」
そう呆れた様に言うなよ、悲しいだろう。

何を思ったかみょうじは自分の胸を両手で軽く触った。
…おい、靖友。おめさんの彼女は無闇に人を誘ってくるんだがどうしたら良いのか教えてくれ。
「…足りないのか」
フニフニと指が少し胸に埋まる…俺の目に届く範囲で、そんな触るな。
「いや、充分だろう」
そう言いながらみょうじの目線の先を追った。

…ん?あれは靖友か?校舎の端で何か渡している?
なんていうかここから分かるほどの巨乳ちゃんにお菓子をもらって、少し鼻の下を伸ばしている。そうか、さっきからそれ見てたのかみょうじは。

「ね、足りないらしいでしょ?」
口を尖らせて言うみょうじ。いや、先ほども思ったが充分だろう。みょうじの手じゃ少し余っていたじゃないか、全く…言えば俺が支えてやるのに、物理的に。

「まぁ、アレだ。欲求不満なのかもしれないぜ?靖友」
「…一昨日、したもん」
「…それはまぁ」
別といえば別だと言っても通じるわけないな。というか、一昨日どこでしたんだ?学校だったじゃないか…寧ろテスト期間中…というツッコミはやめておいてやる。

「さて、と。新開その日誌私届けるよ。部活先に行って」
いきなりスクっと立つみょうじ。
「ああ、おめさんはどうするんだ?」
俺の手から日誌を持とうとするみょうじに問いかける。

「巨乳ちゃんに弱いらしい彦星さんを壁ドンしに」
少し良いこと思いついた的に意地悪そうに笑うみょうじだ。なんともその顔も好きだと思う。ああ、靖友ご愁傷様、意外と独占欲強いらしい織姫さんがこれから向かうらしいぞ。目の前のみょうじはウキウキとしたオーラを纏っている。

「じゃ、また後でね新開」
さっきまでの俺と殺伐しながら話していた"素"だと言っていたおめさんの素はどこいった?
鞄と日誌を持って笑顔で…下手すれば鼻唄が聞こえそうな感じで廊下に消えていった。

ああ、靖友に会いに行くあの楽しげなみょうじの姿も素なのだろう。いや、違うかあのさっぱりとしたみょうじは俺に対して合わせていたとも考えられるな。なんだ?じゃ単に惚気られただけじゃないか。
これ以上気温上げるなよ、2人とも。


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