花火
「なまえチャン、明日花火行くかァ?」
ある日の補習終わり実家帰りの靖友が別れ際にそんな事を言う。その言葉に近くで催される花火大会があった事を思い出す。
「良いよー、新開が遅れてこないと良いよね」
「…」
待つのは嫌いじゃないけど、毎回だとさすがに嫌になる。まぁ新開だから許せるんだけど。
靖友からの返事がなくて少し覗くと…あら怖い顔。
「あの、眉寄ってるけど」
「…福チャンとか新開なしでェ」
「っ」
「…嫌っつーなら良いけどォ」
気まずそうに言う靖友になぜか胸が痛い上に言葉が出てこなくて、ブンブンと顔を横に振って意思表示をした。
「…またメールすっからァ」
とりあえず明日夕方なと言いながら自宅に帰っていった。
今更だけど靖友から誘われる…とか初めてかもしれない。新開の名前出してごめね、そりゃ嫌がるよね。
「…浴衣着るかな」
早速クローゼットを漁った私だった。そして、浴衣用のアレンジを漁ってここぞとばかりに練習した。…勉強はどうするの私。
…
翌日の午後、いそいそと準備をする。日中暑いので軽くシャワーを浴びて体を冷やす。この昼間に浴びるシャワーはいつもと違う様な特別感がある。そしてラフな格好のまま、約束の時間を計算しながら軽く化粧をする。たまにはと思い、昨日早速あまりしないペディキュアまでするという…しかも鼻緒と合わせた色味だ。指の爪には控え目なフレンチネイルにしてみた…なんか一人盛り上がりすぎたかもしれない。
…っていうか、気合入りまくりじゃないか私。
その時自宅のチャイムが鳴ったのでラフな格好であわてて階段を駆け下りる。もちろん居たのはラフな格好した靖友だ。
「っ迎えありがと、あの、まだ...」
用意できてなくて...と続けようとしたのだが、靖友は勝手に無言で私の部屋に向かう。
「だろーな」
「いや、だろーなじゃなくて」
「待つなら部屋も玄関も一緒だろ、女の支度はなげェー」
いや、分からなくもないけど!ていうか、あの私着替えるんですけど!?そんなことを思いながら靖友の背中を追う。
そして私のベットにドカッと足を広げて座る靖友。
「用意しろヨ」
「浴衣着ようとしてるんだけど?」
「…足のヤツ良いね」
「ああ、これ?」
靖友に足先を向けてみる。した瞬間足首を捕まえられ、少しバランスを崩す。
「ちょっ...」
「何?たまには気合入れてくれたのォ?」
「ふんっ、別にいいでしょ」
したり顔の靖友に、図星を突かれた。さすがというか、よく気づくよね。これは妹さんたちがいるせいなのだろうか。
…
そして目の前で着付けをせざる終えなかった私。
「よく似合ってんヨ」
「うるさい」
日が長い夏の6時過ぎ、誘った割にはぶっちょう面の靖友話しながら花火大会に向かう。徐々に浴衣姿の女性や楽しそうな親子連れが増えていく。
いや、増えるどころかあっという間に窮屈だ。っと思った瞬間に手を掴まれた。
「「...」」
そのまま人ごみを外れて、ある神社の境内裏に連れて行かれた。
「...すご、」
ひっそりたたずむ神社の裏は一部木が開けて打ち上げ場所からやや遠いが見晴らしが良かった。木の間をすり抜けていく風が気持ちがいい。そして穴場なのか人はまばらだった。
「何ここ!?よく知ってたね!」
「ちいせェ時はここだったんだヨ」
頭をボリボリかきながら明後日の方を向きながら言う靖友。
「へぇ… フフ」
「あんだヨ!?」
「別にー」
なんていうか昔知っていた秘密の場所に連れてきてもらった感じで正直嬉しい。靖友はここで家族や友人と見ていたのだろうか。きっと家族だっら賑やかだったんだろうなぁ、だってあの妹さんたちもいるもん。
その辺に転がっていた古いイスを適当に拭いて座ることにした私たち。
しばらくすると遠くのアナウンスと共に打ちあがる花火を無言で鑑賞する。パッと光り、一瞬で消える儚さはどこか夏真っ盛りなのに夏の終わりを感じさえする。
「...あ、蝶々好き」
「あ?リボンだろ」
「蝶々でしょ!?」
途中どうでもいい会話をしながら見る花火だ。
ラストに向けてスターマインが多くなっていく。音か遅れてくるので、余計に不思議な感じがする。
「...靖友は一応、理系だよね」
「一応は余計だっつーのォ」
「え、だって私に勝ててないじゃん」
「せーヨ」
″大学どこ考えたりしてる?″
そんな言葉が口から出てこない。靖友の考える先に少しは私の事は頭にあるのだろうか。希望通りを押し通すのか、通さないのか、お互いが納得する事ってなんなのだろうか。そりゃ付き合ってる…からこそ分からないところは絶対にあるはずだ。
花火を見ている靖友を盗み見る。うん顔色変わらないから分からないが、横顔はまぁ綺麗かもしれないっていや男に綺麗は東堂君だけで十分だ。
「終わったね」
「帰るかァ」
そうだねと言い腰を上げる。人ごみに紛れながら歩いていると、徐々に少なくなっていく。
そしていつもの公園に差し掛かった時、公園内に連れ込まれた。
「休憩なァ」
あと5分しないところで休憩をする私たち、靖友の手には先ほど買ったベプシだ。飽きないの?というと飽きないと返ってくるので最近はもう言わないことにした。生ぬるい風が少し気持ち悪い。汗もかいて少しじとっとする。
ベンチに座る私の足元でいきなりお似合いなヤンキー座りをする靖友。
「...お手」
「犬じゃねーヨ」
「そうだね、アキちゃんもっと利口そう」
「あのなァ...」
深いため息をついたと思ったら、靖友が私の右足を掴む。そして私の足に目線を落とす。
「え」
「靴擦れしてんぞ」
「あーまぁ慣れないしね」
「...はぁ」
スッと私の下駄を脱がせた靖友。それによって一気に右足に解放感が襲ってくる。やっぱり慣れないものはどうしてもだめだなぁ、お正月の時もそうだったけど...。そんな事を思っている私の足を持って何をするのかと思っていたら、靖友はつま先にキスをしてきた。
「!?」
つーか汚いから!焦る私の気持ちを知らないのかこいつは!?足のつま先に落とされるその唇に緊張してしまう。
「まァ、なんつーかよく俺相手に浴衣きるなおめぇはァ...ソンケーするわ」
「そりゃぁ...まぁ」
彼氏だし?少しくらいいつもと違う私アピールだ。そう下心だらけだ。
「まァ?」
「...夏だしね」
「素直じゃねぇなァ」
それはおそらくお互い様だ。口角をあげて意地悪そうな顔するあんたにはこれで十分でしょう。だから家までは私から手を繋いで帰ってあげる。
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