落します
「...わりィけど、そーいう風に見たことねェ」
「...そう、だよね」
校舎裏というベタなスポットで、たった今振られた私。好きだった荒北に告白して見事に撃沈だ。それでも仲良い方だと思ったんだけどなぁ...。単なる女友達だったのか。そりゃ自転車でいっぱいだもんねその軽そうな頭。...好きな男だと言うのに散々な私、ただそんなところも大好きだ。
あぁ、もう心臓が締め付けられる...泣きそう...でも、ここで泣いたら荒北が嫌うような女になる。ぐっと耐えて帰りそうな荒北の腕を引き止める。
「...好きな人とか付き合ってない人居ないんだったら、落とすから!」
「ハァ!?」
「聞こえなかった?だか「何言ってんだヨ、他いけ他」
「嫌、荒北が良いです」
うっと言葉に詰まる荒北。こんなこと言っといてアレだけどそんな顔はして欲しくはないので、非常に心苦しい。
「...ぜってェ無理だって」
「...しつこくとか絶対しないから...お願いだから、もう少しだけ好きでいさせて」
下を向いて涙を堪える。落とせる自信なんてないけど、もう少しだけ好きでいさせて欲しくただそれだけだった。
「...知らねェかんな。勝手にしろヨ」
「!ありがと、...ごめん引き止めて」
一応許可を頂いた。今日はとりあえず荒北から手を引く。おそらく部活へ行ったと思われる荒北を見送る。
...っと言ったものどうしたら良いのだろうか。正直言うとまだ気持ちがバレていないなら気になっていた相手を落とせる自信はある。
だが想いがバレている相手をその気にさせるっていうのは、非常に難しいのだ。なぜなら好意が分かると色々なものがあざとく感じるからだ。そう、下心がみえるようなもんだし、特に荒北が嫌いそうな女だ。だからこそこの状況は明日から避けられてもおかしくない。
あ、自分でまとめておいて凄いダメージだ。
帰ってからベットで泣く。はぁ、やっぱ言うんじゃなかった。友達付き合いの方が付き合いやすい、こんな事になるよりは。
とりあえずしつこくならないメールを送っておく。
"部活お疲れ様です。今日はごめんなさい、ありがとう"
返信は来なかった。前までは普通に返ってきてたのにな...。
翌日、頑張ってフォローしたがどうしても泣きはらした感じの目になってしまった。もうしょうがないから、そのまま学校に行くと友人に心配されたが泣けるドラマを借りているっということにした。
正直昨日の今日で荒北の顔なんか見れないので、来週から頑張ることにした。長期戦覚悟だ。
んー、なんというか、荒北を落とそうとしているのだが正直今更すぎる。何がというと、今までがサバサバとしたような友人付き合いだからこそ、何をしてもあざとくなってしまう。
この”落とす”事については親友のみに話した。そしたらあんたバカじゃないの、そんなのただあんたがつらいだけじゃんと言われた、そりゃそうだそれは自分自身が一番わかっている。
翌週から、とりあえず容赦なく荒北を見つめてみることにした。ぶっちゃけもう気持ちばれているのでほぼ捨て身だ。
そりゃほぼ目の端に入れてれば一日に一回くらいは目が合う。のでその時は笑顔で手を振ってみる...ほぼすぐに目を逸らされる。その都度凹むんですけどね。
数日やるとさすがに荒北が話しかけてきた。
「みょうじうぜェ、何がしてェんだヨ」
「...見たいからみてた、別にこんなの平気でしょ」
この距離は目が合わせられないので教科書をいじる手作業をしながら答える。
「ったりめェだろ」
次の日曜は、リンゴが手に入ったのでアップルパイを作る。料理は得意でも苦手でもないけどネットで出てきたレシピの通りに作る。まぁ、作ってももらってくれないと思うけどさ。作りながら泣きそうになる、涙腺崩壊してるなこの間から。
「荒北、差し入れ」
「あ?」
「アップルパイ」
「...俺あめェの好きじゃねェ」
サラッと言い放った荒北。それは誤算だった。出した手を引っ込める。そのまま張り付いた笑顔で応える。
「そう、んじゃまた何かにするね」
手に残ったアップルパイは他のクラスに持っていく。
「福富君」
金髪つんつんな彼を呼び止める。彼とは委員会で一緒になってリンゴ好きだとは言っていた気がした。
「なんだ?」
「差し入れ、アップルパイ。リンゴ好きだったでしょ?気になる人にあげたら断られて、そんな感じで申し訳ないんだけど」
「そうか、問題ない。いただくとしよう」
なんとなく嬉しそうなのか?荒北がいう鉄仮面なのでいまいち表情が分からないけど、消費できてよかった。
...あー、断られた。予想通りだけどさぁへこむよやっぱり。こんなんでへこんでてこれからやっていかれるのか。福富君のクラスの帰り道階段の影でうずくまるりながら反省をする私だ。
夜荒北にメールを送る。
”お疲れ様、何が好き?”
もともと長いメールはしないけど、最近はうざくならないようにさらに簡潔にしている私。なんだよこの可愛げもないメールは...。
ピロリンと鳴る携帯。高速でメールを開く。
”じゃ、肉”
うお、ほぼ一文字じゃないですかこれ。でも、しっかり返してくれた。それだけで嬉しくなれる私は実に単純だ。
翌々日
朝早く起きて牛丼を作る。ご飯は抜きにしておかずだけで良いだろう。
荒北に声をかける。
「荒北!昼にでも食べて、微妙だと思うから新開にでもあげていいから!...あの、でも、さすがに目の前で捨てるのはやめてね!」
怒涛に喋って、席を外す。オイッと声がかかったけど立ち止まれない。
新開にも伝えておく事にした私。
「あの、新開」
「あぁ、どうした?みょうじ」
訳を話す私。
「...って事で、荒北からおかずもらえると思うから食べておいて」
「...おめさんはそれで良いのか?」
パワーバーをむさぼる新開。お腹空いているのなら私の牛丼だって余裕だろう。
「私が好きで勝手にしてるだけだし、気にしないでいいよ。むしろ荒北迷惑だと思ってるだろうし、いつか一口くらい食べてくれるとありがたいくらいだよ」
おかずを入れた容器は新開経由で返ってきた。まぁそうであろう。
毎日じゃ鬱陶しいと思うので精々週2かな、じゃないとこちらも身が持たない。そこは正直な私だ。
ある日、生理痛が酷くて保健室でうずくまっていた。するとガラッという戸の開く音がする。...だれか来たのだろうか。シャーッとカーテンが開けられる。
「...荒北!」
だった。ブサイクなツラした荒北の登場に少しテンションが上がる私は現金だ。
「.....どォ?」
具合の事であろう。少し笑って返す。
「大丈夫だよ」
「...つーか、てめェ今まで通りに接しろ、あからさまに逃げんなヨ。調子狂うだろ」
いや、それ無理っしょ!と言いたいんですが。
「わ、分かったそれで良いなら」
そう伝えて、荒北は出て行ってしまった。
見舞いって訳じゃないのか...今度は少しテンションが下がる。今まで通りって告白する前だよね。出来るんだろうか。
だって、未だ週2で一緒に食べているはずの彼らのおかずをを増やしているお弁当箱は新開経由で返って来ている。味の感想だって聞けやしないのに...。
放課後、帰りがけに後ろから自転車競技部の集団が迫ってくる音がして、思わず後ろを向く。
「みょうじ!」
荒北の横の新開が笑顔で手を振ってくれる。ホントに一瞬の事だけど、私も笑顔で手を振る。半分は荒北に向けてだけど。通り過ぎたあとに、荒北が左手を挙げてくれた気がした。
...あーもう、かっこいい。あの仏頂面なのに、あの細目なのに、胸板薄そうなのに、...あんなに私を無視するのに。あのひたむきな姿が好き過ぎるのだ。
夜思わずメールを送る。
"かっこよかった!
荒北も今まで通りにしてよね"
送ってしまった。荒北も今まで通りだったらそれなりに話し掛けてきてくれたのに、今じゃほぼ無視だもん。
ピロリンと音がなり、すぐさまメールを開く。
"わかってんよ、早く寝ろ"
これは私を気遣っていると勝手に解釈をすることで、心の安定を保つ。
"ありがと、おやすみ"
翌日、とりあえず荒北に近寄る私。そして未だ逸らされる目線に、悲しくなる。
エイ!万を時して、荒北の脇腹をつつく。ビクッとする荒北。
「フフ、意識しないでよ。そんなんだと落とされちゃうよ?」
今まで通りに荒北に話しかける。今まで通りよりは愛がこもっているけど。
「っせ」
「はい、おかず。今日生姜焼きね、新開にもよろしくね」
「ヘイヘイ」
お弁当を受け取ってくれる荒北が愛しい。食べてくれると良いのになぁ。
「みょうじは料理中々なんだな」
弁当箱を返しながら新開が話し掛けてくる。なんと言うかこいつのおかずを豪華にしているだけな気がするけど、正直慣れてしまった。
「そう?そう言ってくれると嬉しいね」
「おう、尽八も言っていたから間違いないぜ?」
「本当!?フフ、なんか嬉しい」
確か東堂君旅館の息子だもんね。
「でも、本当これで良いのか?俺協力してやろうか?」
「アハハ、それは卑怯でしょ。簡単に落としちゃうじゃん!今は新開達のおかず豪華にするくらいで我慢しておくよ!」
自信満々で言う私に新開が笑ってくれる。
「おめさん雑草のようだな」
雑草で結構。荒北のとこならどこでも出没するよ。なんしろもうここまで捨て身できているのだから。
あー、次の作戦どうしようかな。目線を合わせたりするのはもう日常と化してるしなぁ。
ささやかなボディタッチ?いやー、もう気持ちバレてる上は厳しいな。
とりあえず今まで通りを心がけよう。
「荒北、一緒に昼食べよ。屋上で」
かれこれ落とすことを始めて二ヶ月あまり初めてそれっぽく誘う私。微妙な表情をした荒北が付き合ってくれる様だ、思わず笑みがこぼれる。
荒北が購買でパンを買ってきた様だ。一応お弁当箱を手渡す。
「荒北、良かったら食べなよ」
「...おめェ作ったのか?」
「そ、ここ最近で腕あげたから大丈夫だよきっと」
どうするのかなぁと見ていたら受け取って、無言で食べ始めてくれた。
「フフッ」
「...あんだよ?」
「つい、嬉しくてさぁ。ねぇ味変じゃない?」
「ふつー」
「なら、良かった」
やった食べてくれた!それだけで今までの頑張りが報われるようで凄い幸せだ。どうやら私の頭は完璧に荒北への恋愛脳になってしまっているようだ。
午後の授業の話しをしながらお弁当を進める。
食べ終わったところで聞く。
「...あの、良かったらまた一緒に食べて?あの、前日にメールするから!」
言い出しておいて、逃げ出したい...。厚かましいかもしれないやっぱ。
「はぁ...好きにしろよ、もう」
頭かきながら、飽きれ顏だ。
「っ!うん!ありがと、凄く嬉しい。もっと美味しく作るよ」
「...精々期待しねェからァ」
「はーい。あ、じゃ先戻るね!本当ありがと。あの、え、と食べてくれてありがと、大好きです...!」
じゃっと言い残して屋上から走り去る。うぁーつい言ってしまったぁぁぁ!でも今度もお昼食べれる!少しは進歩したかもしれない。真っ赤な顔を冷やすかのようにトイレに駆け込む。だめだ荒北の前でも赤かったかもしれない。
下準備の関係から月曜に誘うことにした。
前もってメールを送る。
"明日一緒にお弁当食べてくれたら嬉しいんだけど、何が食べたい?"
"何でもいー"
あ、食べてくれる様だ。つい笑ってしまう、こういうところが可愛いんだよね。
返信して、返ってきたメールを読み返してニヤニヤする気持ち悪い私。だって本当良い進歩じゃないですか?最初の無視から考えると。
・・・
翌日
昼に2人分お弁当をもって、階段を登っていく。すると聞き慣れた声がする。荒北、とおそらく後輩の女の子。
告白シーンかよそれも...。荒北は例によって断っている。それを聞いていると胸が痛くなる、私に向けてじゃない言葉なのになぁ。お弁当箱を胸の前で抱きしめる。告白が終わり、通りすがりに女の子に睨まれる。いや、あの好きで覗いていたわけじゃないんだって。
屋上の手すりにもたれかかっている荒北に声をかける。
「...ゴメン、遅くなって。ハイお弁当」
「おめェはしつこいねェ、その上モノ好き」
おおう、ズシッと胸に突き刺さるよ、それ。
「...い、良いでしょ?荒北の事好きだし。...好きでやってる事だもん」
「ヘイヘイ、勝手にしろヨ」
お弁当を広げる私達。さっきの雰囲気を変えるように適当な話をふり、色々可笑しく話を盛り上げる。...本当しつこいよなぁ私も。
ある日の放課後
「なまえあんたそれで良いの!?面倒なだけじゃん!都合の良い女扱いじゃん」
親友が言ってくる。
「...気持ち隠さなくて良いのは楽だよ。最近相手してくれるし、あと少し...もう少しだけだよ」
「...でも、なまえ前より可愛くなったよね。うちら女子からみてそう思うよ」
「じゃ、それ荒北のおかげっていう事で」
嬉しい言葉を笑い飛ばす。確かに前よりかはすごく身なりも動作も気を配っているつもりだ。そういうなら、恋する力は偉大だ。
ある日曜ピロリンとメールが届いた音がする。
"生姜焼きが良い"
!初めて荒北からだ。すぐさま返信をする。ってしまった、何も書かないで送っちゃった。すぐさま返信に書き込む。
"ゴメン、さっきのメールなしで、テンパりました。
了解しました。メールありがとう、ゆっくり休んでね"
うおー!嬉しい!笑みが止まらない私。所謂ルンルン気分で買い物に出掛ける。
翌日屋上にお弁当抱えて登場する私。を見て笑う荒北。
「ハッ何がそんなに嬉しいんだか」
そりゃそうでしょ。荒北は分かってないな、いや分かっているのか。
「ふん、分かってるくせに、そろそろ落ちた?」
「気まぐれに決まってんだろォ、嫌なら辞めろ」
やっぱりそうですよね。
「...気まぐれでも嬉しいよ、はいこれ生姜焼き弁当」
無言で食べ始める荒北。それを盗み見て嬉しくなる、少しは美味しいと思ってくれてるっと言うことにして良いよね?
「最近おめさんのおかず回ってこねぇんだけど」
新開から告げられる嬉しい情報。
「本当!?嬉しい」
「あぁ、残念だ。物足りないから今度また作ってくれよ俺に」
「うん、その情報もらったから、お礼に作るね」
さっそく翌日作ってあげたら喜ばれた。
こんなやり取りももう4ヶ月くらいは経った事になる。お弁当は気まぐれで食べてくれるようになったけど、本当に荒北は私には興味ないのかもしれない。結構頑張ったつもりだったけどなぁ。勢いで落とすとは言ったけど正直もう色々と辛くなってきた。もうそろそろ潮時なのかもしれないな。そう思うと涙が溢れてくる。あーもう滅入ってんなぁ...あと、数回お弁当一緒に食べたら決着つけよう自分の気持ちに。
親友に告げる事にした。
「もうそろそろ終わりにするから合コンでも企画しといて」
「オッケー!!そうこなくちゃ!レベル高めで企画してあげるから」
...よし、これで次に繋げよう。笑顔で楽しみだと伝える。
残り数回と決めたお昼を楽しむ。
「今日は牛丼にしてみたよ」
無言で食べる荒北。変わらず適当な話をふる私。
「...ごちそうさまァ、うまかった」
お弁当を片付ける私に僅かに聞こえるその言葉に嬉しくなる。初めてかもしれない感想言ってくれたの。
「!!うん!なら良かった!」
こういう時にこいつはズルい。何かを嗅ぎ分けるようだ。
瞬間手を引かれた。
いきなり目の前にある荒北の顔、自体を把握した瞬間の行動は早かった。
バチンッ
右手に感じるジンジンする痛み。
「ってェ」
「...最っ低!キスなんて気まぐれでしないでよ!!...そんなに私おちぶれてない!馬鹿にすんな!大っ嫌い!」
口を拭いながら、思わず涙が溢れる。ビックリする荒北の制止の声を振り切って屋上から一目散に逃げる。教室に行って、親友に具合悪くて帰るからと一言行って帰る。正直もう今日は学校なんて気分じゃない。
あぁ、もう本当に遊ばれてたんだな私って。いや都合の良い女か。こっちの気持ち利用してキスだって、...それ以上出来るような軽い女だと思われてたのかもしれない。通りすがりの人に不審に見られながら家について部屋に入り号泣する。
前代未聞だ。引っ叩いてやったそれも片思いの人を、未だ右手がジンジンする気がする。でも、もういいや、なんだって。
溢れる涙と嗚咽が止まらない、本当気持ち悪い。
でもやっぱり酷くないだろうか、そりゃ好きで好き勝手やっていたけどさぁ、気持ちはあったもん。初めからしらねェからなと荒北に言われた。だから傷つくの覚悟で挑んだよ?ただその傷つける結果がこれかよ、あんまり過ぎる。人の気持ちを踏みにじった行為に吐き気がする。
"わりぃ"
荒北からメールが入ったけど、さらに泣けた。そう思うならすんな、死ね、ムカつくのと悲しいので完全に体調を崩した私はそこから2日間休むことになる。
休んで1日目
親友が見舞いに来てくれた。
「あんたどんだけ具合悪いの?って酷い顔」
私の姿を確認した瞬間言い放つ。
「もう、風邪まで引いて熱が下がらなくて、多分明日も休み」
「そう、話聞くけど?」
事情を話すことにした私。親友は私に同意してくれた。思わず抱きしめる。
「あんたが男だったら最高だったのに」
「ハイハイ、まぁゆっくり休んで治しなって。荒北は懲らしめておくから」
「フフッもう荒北はどうでも良いよ」
なんとなく話せてスッキリした。
休んで2日目
新開からメールが届いた。
"具合どうだ?一昨日の靖友の頬赤くしたのおめさんだろ?"
あぁ残ったんだ、ざまぁみろだよ。
"大丈夫だよ、明日には行くよ。いい痕だったでしょ?"
と送る。
"あぁナイスだ"
さすが分かってるな新開。
これ以上休めないので熱も下がったし、登校する。教室に入り心配してくれる友人達に、風邪こじらせてさぁと話す。なんとなくだが、荒北の視線を感じる。まぁ謝る気なのだろうが、もう正直荒北の顔なんて見れない。
休み時間は親友から貸してもらったノートを見ながら簡単な説明を受けながら写していく。
「なまえ、合コン来月だから、良い感じに出来そうだよ」
「最っ高、よろしく」
翌週
放課後新開に屋上に連れて行かれる。
「おめさん、いいのか?」
主語がなくても通じる。なので思わずむすっとする。
「話す気になれない、つかその話題もいや」
「そうか、悪かった」
「でも新開には迷惑かけてるから、また時々おかず作ってあげるね」
「おぉ、さんきゅ」
「...ダメだろそれ」
物陰から荒北が現れた。...しまった嵌められた。反射的に逃げようとしたら新開に腕を掴まれた。
「や、新開、離して...」
「まあまあこのままでもアレだから、2人で話せって」
「話す事なんてないから!」
振り払おうとする腕を荒北が掴む。
新開がまたなと去って行く、あぁもう取り残された。
「...やだ、荒北、離してってば!」
振り払おうと暴れる私。掴まれた腕が熱くなる?
「っ、話聞けって!」
「!いや、聞きたくない!」
ガシャンと屋上ドアに体を張り付けられて、少し背中に痛みが走ったと思った瞬間にまた口を塞がれる。
!こいつまた!足で股間を蹴る。
「ってェ!」
腰をひく荒北。
「...」
もう言葉すら出てこない。所謂壁ドン状態の荒北を睨む。
「...好きじゃなきゃんなことしねェだろ、わかれよボケなす」
苦々しい顔した荒北から予想外の言葉が漏れる。
「はっ?」
思わず間抜けな声が私の口からも漏れる。
「っあんとき、思わずしたくなったんだヨ!!」
「はぁ...?」
「っだからァ...とっくにみょうじに落ちてんのォ!」
「......しらない」
「...そりゃ言ってねェしな」
何か溶かされていくような、胸に広がる温かい感覚になってきた。
何を発すればいいのか分からず固まる私の口。本当に何を言っているんだ荒北は。
「この前俺のこと嫌ェっつったけど、嫌ェになったっつーなら......今度は俺が落としてやんヨ」
...なんなんだよこの男。不器用ながら繋ぐ甘い言葉をいう荒北に涙がでそう。
つーか言えよはじめから!こんな事になってないだろきっと。あぁもう今更ながら変なのを好きになっていたようだ。
そしてその言葉にどう落としてくれるのか見てみたいと思ったが、私も大概待てない人間である。
やたら開いた制服の胸元を掴んで、荒北を引き寄せる。少し驚いている荒北のその薄い唇に触れるだけのキスをした。
「...今落ちました」
企画してもらった合コンには行ったのだ。そう、狼の送迎付きで。
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