群青色の広がる未来



「…あれ?高杉君?」




玄関で一人帰ろうとしていたら、聞き慣れた愛しい声につられるがまま振り向くと…愛らしい少女がこちらを見ていた。




「今帰りなの?」


「…っ花村は?」




彼女に話しかけるのはいつになっても慣れない。俺とは違って汚れの知らない彼女に嫌われないか、変に思われないか…そんなことばかり気にして上手く話せず、声は震える始末だ。

が、彼女は変わらず話をしてくれる。




「ちょっと銀ちゃんと話し込んじゃって…気付いたら真っ暗なんだもん。びっくりした」





…っくそ、銀八の奴が羨ましい。あいつはいつも花村を好きに呼び出して、独占してやがる。…いずれは俺が花村を独占してやらァ…そんときは覚悟してろってんだ。


よいしょ、と自分の身長よりも高い下駄箱から綺麗に手入れされたローファーを取り出す菜子。そんなことですら高杉にはきらきら輝いて見えるものだ。





「最近暗くなるのが早いよね」


「…そうだな」





話しのほとんどは菜子がしているが、高杉は構わない。寧ろその方がいいと思っている。

自分の横に並んで楽しそうに話す彼女の姿を見ているだけでいい、だなんてどれだけ惚れまくっているのだろうか。彼自身わからない。




「家近いからいいんだけどね」


「…へェ」


「遠かったら、暗い中帰りたくないからね。あ、私の家こっちだから…」





学校の門まで一緒に歩くと、菜子は右へと指差す。…一方、高杉の通学路はと言うと反対方向である。





「それじゃあ高杉君、また明日学校で」




高杉に軽く手を振り、そして背を向けて帰っていく菜子。少しずつ遠くなっていく彼女の背中を見て、何だか胸が締め付けられた。





「〜っ…待てよ…!」


「…へ?」





気が付けば、彼女を呼び止めていた。





「…送ってく」


「…え、」


「ほら、行くぞ」


「や、けど高杉君ち確かあっち…」


「いいから」





菜子が高杉を呼び止める言葉を掛けるが、それを無視して高杉は一人ズンズン先に菜子の家の方へと向かって行く。





「……ほら、早くしろよ。」




…なんで偉そうにしか話せねェんだよ、俺は。


なんて、一人心中後悔の念に襲われていた高杉だったが……





「うん、ありがとう!」




彼女のキラキラした笑顔一つで、そんな感情はどこかに吹き飛んでいってしまった。



群青色(ぐんじょういろ)の広がる未来
(眩しいほどの光はいらない)





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