菖蒲色の光を感じて
なんだか今日は珍しく寒気がする。頭をどこか痛い。
今までならこんなとき、「だるい」の一言で学校を休み、一日中ゴロゴロ家で過ごしていた…が、だ。
今の高杉には「だるい」よりも惚れた女子に会いたい、彼女の作った弁当を食べたいといった思いの方が勝っていた。
だから遅刻はしたものの、学校には来た。
「あ、おはよう高杉君っ」
「……あぁ」
今はもう三限目の後の休み時間だが、菜子はおはようと優しく声をかけて来てくれた。…それだけでも学校に来てよかったと思う俺はどうしようもないほど馬鹿だ。
そんなことを思う一方で頭痛のせいで普段よりも愛想悪くなる自分に口惜しい。
カタン、と席に腰かけると体は限界だったのかそのまま机に寝そべる高杉。
そんな高杉をどこか不審に思った菜子は自分の席から腰を上げ、隣の席である高杉の前へ近寄った。
「…大丈夫?高杉君」
「何が」
「なんか、辛そうだから…」
菜子の一言に正直驚いた高杉。自分は無表情な方で、あまり変化が出ても顔には出にくいタイプなのだが…万斎ならともかく、何故彼女に自分の不調がわかったというのだろうか。
「…大したことねェから」
「けど……あ、ちょっとおでこ貸して?」
「は……」
次の瞬間、ひんやりしたものが高杉の額に当てられる。それが菜子の小さい手のひらであるというのを理解するのに数秒かかった。
「…やっぱり、高杉君風邪だよ…熱もある」
「…っ!」
自分を心配してくれる菜子との距離は、近い。互いの顔との距離は10cmもないだろう。僅かにだが、菜子の匂いもする。
…やべェな、俺。心臓が保たねェ。
「高杉君、一緒に保健室行こう?少し休んだ方がいいよ」
「…いい、一人で」
「けど…」
「大丈夫だ」
…むしろ菜子といたら余計体温が急上昇しちまう。
「…そっか……じゃあ、また後でね」
心配そうに眉を下げながらこちらを見てくる菜子に胸を微かに痛めながらも、高杉は一人保健室へと向かったのだった。
保健室には誰もいなく、高杉は迷うことなくベッドに身を任せる。今まで我慢していた分が来たのか、すぐに眠りの中に入ってしまった。
未だ自分の額に残る、菜子の手のひらの温もりに愛しさを寄せながら。
菖蒲色(あやめいろ)の光を感じて
(踏み出せば変わる世界)
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