ほのかに残る余韻
『ローが海賊になるんなら、私も一緒に行くっ』
にっこり幼い笑みを浮かべながら、そうはっきりと告げたラビの姿が今でも何一つ忘れることなく覚えている。…まるで、昨日の出来事だったかのように。
ラビが蛇の毒にうなされ、苦しむこと三日。漸く解毒作用のある薬草を手にし、薬を調合することに成功した。…そこまではよかったのだが、
「…っ薬、やだ…苦い…!!」
「テメーなァ…っ!」
ラビの部屋から洩れる二人の会話。部屋の中ではベッドに横になり、ローから顔を逸らすラビと、そんな彼女に青筋を立てるローの姿があった。
「何ガキみてーな我儘言ってやがる。俺がわざわざ調合してやったんだ、飲め」
「…余計にやだ」
「何だと?」
「だ、だって安心できないよっ……」
「俺は医者だ」
「…外科医じゃん…っ!ローの専門じゃな…」
「んなもん関係あるかよ」
「…ある、よっ…!」
毒のせいで発熱を起こしていたのだが、少し熱が引いたこともあり、会話はまともに出来るラビ。…やはり少しは苦しそうではあるが。
「これ飲まねェとテメー、後一週間もしたら死ぬぞ?」
「…う……!」
「ラビの夢は未完で終わってもいいのか?」
…私の、夢。世界一の舞姫になるって言う…私の……
「…………やだ…」
消えそうな、涙交じりの声で呟くラビにローははぁ、と溜息をついた。
「だったら飲め」
「……っ薬、貸して……」
ローの持つ、彼が調合してくれた薬をもらうよう手を差し伸ばすラビ。そんな彼女に肩を竦めつつ、そっと薬を渡した。
「安心しろ、死にはしない」
「余計安心出来ないよっ……ばか、」
ゆっくりと、ちょびちょびと薬を喉へと通していくラビ。あまりの苦さに眉を寄せ、涙を浮かばせている。ごくり、と最後の一口を飲み干すとローはぽん、とラビの頭を撫でてやった。
「…うぅ〜…ローの嘘付きっ…!あまりの苦さに死にかけたよ…!!」
「嘘なんて付いてねェだろ?現にお前は死んでねェ」
「ひ、ひどい…!!」
さらっと放ったローの一言に不貞腐れるラビ。つん、と唇を前に尖らせ、ローを睨む…が、彼に全く効果がなかったのは言うまでもない。
「…そんなに苦かったのか?」
「苦いなんてもんじゃないよっ!!おかげで死んじゃうかと……」
「…おい、こっち向けラビ」
もう何なのさ、と振り向いた瞬間だった。ローの顔が間近にあったのは。
「〜っ!!?」
そして気付いたときには、ローの唇と自分のとが…重なり合っていた。
「〜っ…んー!」
ローの胸板を押し返し、離れようと試みるラビだが、先程解毒の薬を飲んだとはいえ弱っていることに変わりない。ましてや男女の力の差と言うのもある。
ラビの抵抗など小さいものに過ぎず、ローからしたら痛くも痒くもないものだった。ローが離れたときには、ラビは酸素不足で呼吸が乱れていた。
「はっ、は……!」
「確かに苦ェな。よく飲んだなお前」
ぽんぽん、とまた頭を撫でられるとローは何事もなかったかのように部屋から立ち去って行った。そんな彼に呆然としつつ、未だ残る熱い感覚にラビは耳まで紅潮させたのだった。
ほのかに残る余韻
(キャプテーン)
(どうした、ベポ)
(なんかラビが顔を布やらで完全防備してて怪しいんだけど……)
(……救いようがないくらい馬鹿だな…アイツは…)
(ろ、ローのやぶ医者ァァ…!返せーっ乙女のふぁ、ふぁーすと…きす、を…っ)
実際は初めてじゃないんだけどね←