初めまして、さようなら!

「きゃーっ!?やめてーっ来ないでっ!」


「ちょこまかと逃げんじゃねー女っ!!」





何人もの人攫いに追いかけられているラビ。奴らに捕まったら最後…ヒューマンオークションに出品され、死ぬまで奴隷として人生を歩むことに……





「そっ、そんなの嫌ーっ!!」





一瞬想像してしまった自分の不幸な末路にゾゾゾ…と寒気が走った。
死んでも捕まるわけにはいかないと半泣きで島中を逃げまくっていたそのとき…目の前に現れた人影に思い切りぶつかってしまった。




「…っあ、ご、ごめんなさっ…!?」





慌ててぶつかった相手に謝罪の言葉を向けたラビだったが…その相手の顔を見て、さぁ…と血の気か引き、恐怖のあまり体は硬直してしまった。何故ならその相手とは……





「おい女、どこ見てほっつき歩いてやがる?」


「きっ……!」





ユースタス・キッド…通称キャプテン・キッド。懸賞金3億1500万ベリー。…民間人にも被害を及ばせていて、若手の海賊たちの中で最も危険視され、世間を騒がしている……キッドの情報がぐるぐるラビの頭を巡ると同時に顔色は血の気がなくなり、真っ青に変わっていく。





「ごめなさっ…わたし、わたし…!」


「どこ行きやがった!!あの女…!」


「あ……!?」





キッドに慌てて頭を下げて、謝罪の意を大袈裟に表現するラビだが…どうやら今はそれどころではないようで。
先程ラビを追っていた人攫い達がどんどん近づいて来るではないか。正に、絶体絶命の窮地に立たされたとはこういうことを言うのだろう。
どうしよう、どうしようっと焦りでまともに働かない頭で必死にこの場を打開する策を考えるラビだが思い浮かばない。
そんな彼女の背後でキッドはニヤリと笑みを浮かべた。と同時に彼女の細い肩を強引に掴み、自分の方へと引き寄せた。





「ひゃっ…な、何を…!」


「お前、人攫いに追われてるんだろ?」


「っそ、それは…!」


「気分が変わった。助けてやる」


「へ、あのっ?」


「いいから俺の方に向け」





ギロリとあの瞳孔が開いた瞳で睨まれればラビは言われたとおりするしかない。
恐る恐るキッドの方へ向き直すとキッドはそのままラビを自分の胸元へと抱き寄せ、彼女の腰に腕を回した。そのとき、人攫い達が姿を現した。





「おい女!てめーよくもちょこまかと逃げ」


「人の女をかっ攫おうとは、いい度胸してんじゃねーか」


「っ!?ち、ちが…んぐっ!」





キッドの言葉に慌てて否定しようとしたラビだったが、彼の大きな手のひらに唇は覆われ、何も言えなかった。…いや、それだけではなく、キッドの目が『余計なことを話すな』とラビに睨みを効かせていたのもあるが……





「てめーら、どうなるかわかってんだろうな?」


「お、おいっこいつぁキャプテンキッドじゃねぇか!?」


「チッ…厄介な奴が…まぁいい、キッドも賞金首に違いねぇんだ!取っ捕まえろ!!」





人攫い達は一瞬キャプテンキッドと言う大きすぎる強敵に怯んだが…金の欲に負け、彼に襲い掛かり始めたではないか。





「リペル」


「なっ…お、俺達の武器がぁっ!?」





人攫い達の武器が浮き、キッドの方へ集まったかと思えば次の瞬間には彼らに襲い掛かっている。恐れをなした人攫い達は二人を捕らえることを泣く泣く諦め、その場を物凄い速さで後にした。




「……あ、ありがとうございましたっ…!」


「あぁん?」


「そ、そのっ…私のこと、人攫い達から…助けて、」





噂で聞いていたより優しい人ではないか!と思った矢先、





「勘違いすんじゃねーぞ」


「え?」





キッドがラビの思ってることを察し、口を開いた。





「ハッ、てめえの頭はめでたいものだな。俺は確かに奴らを追い払う手助けはしてやると言ったが…俺自身が手を出さねぇとは言ってねぇよ」


「そ、それって……!?」





キッドがラビの顎を上に向け、自分の顔を近付けてきた。それに嫌な予感を感じたラビはなんとかしなければ…!!とその一心でラビは慌ててキッドの胸元を押した。





「なっ何を!?」


「助けてやったんだ、礼は体で払ってもらうのは当然のことだろうが」


「……な、なるほど……」





確かに、助けてもらっておいて何も礼をしないって言うのは気が引ける。……だが、私に出来ることなんて…と思った瞬間、彼女の脳裏に一つの案が浮かんだ。





「わかりましたっ!」


「は?……ま、いい。わかりゃいーんだよ」


「はいっ!それじゃちょっと離してください?」


「は?体で礼を払うって言ったじゃねーか」


「だからですよ!」





逃げたりしない、と約束するとキッドは不審そうに思いながらも彼女の体を離した。




「それじゃ、お聴きください!」


「あぁ!?」





すぅ…と胸一杯に息を吸い込むと、ラビはゆっくりと口を開くと同時に彼女の歌声が……──





「…!?」





素直に、キッドの中へと入っていくラビの歌声。普段の彼なら、こんな彼らしくない穏やかな歌に耳を傾けたりなどしない。
…が、彼女の歌は違う。耳を傾ける必要なんてない、自然と彼女の歌を受け入れてしまうのだ。…また、楽しげに、幸せそうに歌う彼女の姿から目を逸らせない。





「…──キッド、さん?」


「…っな、何だよ!」


「どうでした!?私の歌!私なりに上手に歌えたんですけど…」


「……………」


「…お、お気に召しませんでした…?」





…何の反応も返してこないキッドに不安げに尋ねるラビ。そもそも、凶悪な海賊団船長と言われている彼にこんな歌を勝手に聴かせて、逆に機嫌を損ねてしまったかもしれない。



ああーっ!私のバカ!!…と、後悔した瞬間だった。






「悪くねェ」


「………へ?」


「悪くねェって言ってんだよ!!何だ、文句あんのか!?」


「〜っあ、ありがとうございますっ!!」


「な、てめっ!!」





感極まって、目の前にいるキッドに抱きつくラビ。今の彼女は何も考えてなどいない。ただ、自分の歌をあのキャプテン・キッドに否定されなかったと言う事実で一杯なのだ。



「それじゃ私、礼も払いましたし、帰りますね」


「……あぁ!?何ふざけてんだ!?てめえ!!」


「ふっふざけてなんかないですよ…!」





カッと一気に迫力を見せるキッドに、ラビは後退り気味になる。





「俺の言う礼って言うのは、こういうことを言うんだよ」


「わっ…んん!?」





ラビの白くて細い手首を掴み、自分の方へ引いたキッド。その弾みのまま彼の方に引き寄せられ…唇を重ねられた。





「っや、やめ…んはっ!」


「…てめえ、キスもまともに出来ねぇのに女ぶってんじゃねーよ」


「な、なななっ…なぁーっ!?」





茹でタコくらい顔を赤く染め…ラビは羞恥に動かされるまま、その場を逃げるかのように後にした。





「…ハッ、…我ながら面白い女を見つけたもんだな」





奇声を上げながら逃げ去るラビの背中を見つめていたキッドの表情は、どこか楽しげであった。




初めまして、さようなら!


(わぁぁんっ…!何今の何今のーっ!!)(ローの顔…見れないよーっ!!)



(どこ行ってたんだ?キッド)
(キラーか…面白ェ女を一人見つけた)
(…また弄んで捨てる気だろ)
(ハッ、どうだかな)