遠くなった存在
「っや、私に近づかないで…!!」
「…今、何て言った?ラビ」
「私、貴方なんて知らないっ!貴方みたいな怖い人知らないっ!来ないでよ!!」
「……ラビ、テメー……」
「きゃ、キャプテン…」
ローの隣で今の様子を見ていたベポ。…次の瞬間だった。
バキッ…!と何とも言えない音がラビの部屋で聞こえたのは。部屋の壁が粉々になってしまったのは。
「ぎゃーっ!駄目だってキャプテン!暴力反対っ!!」
「離せベポ、こいつの頭カチ割ってやる」
「駄目駄目駄目っ!ラビが余計怯えるじゃんか!」
「…っ!わーんっ!助けて白くま君っ!!」
「白くま君じゃなくてベポね!!」
一気に船内は大騒ぎである。ラビに手を出そうとするローを必死に二人の間に入って止めるベポ。
この中で誰が一番大変なのかは言うまでもないだろう。
「…ふざけんなよ」
「あっ、キャプテン!!」
ローはバンッと乱暴に戸を閉め、出て行ってしまった。
部屋に残ったのは…ラビとベポの二人だけ。
「…っもう何なの…あの目つきの悪い人は……白くまくん!」
「や、だから白くまくんじゃなくてベポ」
「…怖かったよう…なんで私が知らない人に睨まれなきゃいけないの……?…ううっ思いだしただけでも身震いする…!」
「聞いてよラビ」
「……?ラビって、私の名前……?」
……もうメチャクチャである。ラビは相変わらずマイペースで、せっかくベポが説明しようとしてるのに少しも話を聞こうとしない。
そんなラビに呆れつつも説明しないわけにはいかないので、ベポは気にしないようにして話を続けた。
「…そう、君の名前はラビって言うんだ。で、僕らと同じハートの海賊団のクルーだったんだ」
「……え…」
ベポの口から出た"海賊"の単語にピシッとまるで石になったかのように固まってしまったラビ。…何を言っているのか理解できない、否したくなかった。
「で、さっきの人はこの船のキャプテンだよ」
「キャプテン…?」
「ラビの、旦那様」
「っ!?」
「って言うと大袈裟だけど、」
「び、びっくりした……」
はぁ…と一息つくラビ。あんな目つきの悪い男が自分の旦那様だなんて言われたら誰だって冷や汗ものだと思う。
「だけどラビと恋人同士であることは間違いないよ?」
「………っいやー!!」
もう何から何まで信じたくないことばかり。ラビはただただ叫ぶことしか出来なかったのであった。
「…チッ、気に食わねェ」
一方、ラビに過剰なほど怯えられたローはと言うと…船の甲板でこのイラつきを抑えようとどこまでも続く青い海を見ていた。が、一向に収まる気配はない。
『いやいやっこないで!!』
……自分の恋人にそこまで怯えられたら誰だって気分悪くなるのは仕方ないであろう。
それがたとえ、記憶喪失だとしてもだ。
「…あーあ、ありゃかなり機嫌悪いぜ…?船長」
「ったく、いつもラビのことで苦労するよな〜」
そんなローの様子を、キャスケットとペンギンは遠くから眺めることしか出来なかった。
「とりあえず、俺達で二人の仲をなんとかするしかねェよな!?」
「馬鹿、ラビの奴…普段でさえ手のかかる奴だって言うのに、今回は記憶喪失しちまってるんだろ?どう仲良くさせるって言うんだよ」
「…それが問題なんだよなー……」
結局この二人は周りに迷惑をかける運命なのである。
遠くなった存在
(抱きしめたくて、お前は遠い)
(…やだ、わたし…どうなっちゃうの…?)(怖いよ…っ)
まだ記憶喪失編続きます←