奪われた幸せ

ずーん、と効果音が聞こえてくるのではないか…と思うくらいラビは一人、甲板で落ち込んでいた。
その理由は、彼女の足に巻かれている包帯が理由であった。





「ラビのあの落ち込みようは尋常じゃないよ、キャプテン」


「ったく…手の掛かる奴」





ベポがぽつりと呟いた一言に、ローは甲板に居座るラビの元へと向かった。





「…おい」


「………………」


「ラビ」


「……な、に…?」





ぐすっと鼻を啜り、涙が零れ落ちる瞳を擦るラビ。…重症である。





「お前が悪いんだろう?その足は」


「………そう、だけどさ…」


「三週間もあれば治る、たかが捻挫だ」


「………」





ローの言葉に黙り込むラビ。彼の放ったことは真実で、偽りは何一つない。
自分の足を痛めてしまったのは、自分の不注意なのだから。
船の中をふんふん鼻歌混じりで歌っていると自然と体も踊り始めて…段差があることも気付かずにステップを踏み、足を挫かせた。




『全治三週間だな』




ローが放ったその一言に、ラビは目の前が真っ暗になり、絶望の淵に落とされた気がした。




「ほら、飯だ」


「…いらないっ…」


「俺の命令に逆らう気か?」


「…っもう、ほっといてよぅ…!私、別にお腹なんて空いて…っ」




と、ラビが言葉を続けようとした途端…ぐー、と情けない音が彼女のお腹から聞こえた。同時にラビの顔に熱が集中していく。





「ハッ、慣れないことはしない方が身のためだな」


「…ローの…いじわる……っ!」





未だ顔を赤くし、ローを睨むラビだが…彼からしたらそんな顔で睨まれても迫力なんて微塵も感じないし、元々怖くない。
そんなローの心情が読み取れたラビはすぐにローから視線を移し、再び海の方へと戻した。




「…とりあえず、今は食べる気分になれないの…だから、」


「なら無理矢理食べさせるまでだな」


「へ…」





ローの言葉にまた彼の方へと視線を向けた瞬間、





「ふむっ!?」





強引に口の中にフォークが突っ込まれた。口内に広がる、香ばしい牛肉の味。放り込まれたものは食べるしかなく、もぐもぐ口を動かすことしか出来ないラビ。




「うめーか?」


「……ん」





またも、ローによって口内に放り込まれていく料理たち。それを大人しく食べるラビではあったが……しばらくするとグスグスと鼻を啜り始めた。
そんな彼女を横目で見るロー。ボロボロに涙を流していた。





「…そんなに嫌か、踊れねーことが」




ローの言葉にコクン、と小さく顔を縦に振るラビ。





「踊ることが、私の全てだもん…」


「また治ってから踊ればいいだろうが」


「一分でも、一秒でも…舞っていたいんだよぅ…!」





出来なかったステップが出来るようになった。回転もぐらつかないで回れるようになった。歌って、舞っているときが…一番の幸せのひとときだから。





「かといって無茶するわけにはいかねーだろうよ」


「…うぅ、そりゃ…そうだけどさ……」


「わかったらさっさと完治するよう大人しく部屋にいろ。こんなとこにいつまでもいたら次は風邪引くぞ」


「わ、あっ…!?ろ、ロー!!」





ラビをまるで米俵かのように肩に担ぎ、ツカツカ歩いていくロー。そんな彼に、ラビは反論せずにはいられない。





「は、離してよっ…!ちゃんと自分で歩くからっ!!」


「俺に命令すんじゃねぇ」


「お、お願いだからっ…!!」


「ハッ、よく言うぜ。さっきまで踊れねーって、泣きべそかいてた奴がよ」


「…そ、それは……!」





まだまだガキだな…なんて言われ、悔しいが図星なためこれ以上反論出来なかった。




「…ロー」


「なんだ」


「…その、怪我、治ったら……ローに一番に舞いを見せてあげるね…!」


「…あぁ」






ローの返事にホッとしたのか、ラビは先程泣いていたのが嘘みたいに、嬉しそうに微笑みを浮かべたのだった。





奪われた幸せ




(…けどやっぱこの運ばれ方は嫌だよ、ロー)
(文句言うんじゃねぇよ)