君の温もりを知ったから、もう戻れない。

さっきまで僕の名前を呼んでくれてた琥珀は、瞼を閉ざし、静かに永遠の眠りについている。



…嫌や。




「……っ琥珀……!」





一時仮死状態させていた乱菊が姿を現し、駆け寄って来た。…信じられないものを見るかのように琥珀を見つめている。
…僕かって、信じたくない。琥珀がもうおらんなんて、ただの悪夢や。






『ギンちゃーん』






愛しいあの子を、たった一人で逝かせてしもた。
その事実が、僕を苦しめる。




周りが色々騒がしいけど、なんも耳に入ってこん。
この腕の中にいる琥珀の存在しか、僕はもう考えられへん。



戦場が再び荒れ始めた。死神代行の黒崎一護君が、藍染隊長と戦い始めても、僕にとってはもうどうでもいいことや。

勝っても負けても、もうどうだってええ。
肝心の琥珀がもうおらへんのやから。








「ギン!どこ行くの、ギン!!」






冷たくなった琥珀の体を抱きかかえながらこの場を後にしようとする僕を引き留めたのは、乱菊だった。






「…また一人で勝手にどこへ行くのよ…!!」

「………琥珀のところや」

「え……」

「…僕が琥珀のところに行けば、琥珀と一緒にいられるやないの」





そう告げると、乱菊は息を呑んでこちらを見た。

乱菊かって、ずっと自分の妹のように可愛がっていた琥珀を失って、同じように悲しんでいるのに……そんな乱菊のことを気に留める余裕なんて、僕には残っておらへん。





「…堪忍な、乱菊」

「…っギン、待って!行かないで!!」





悲鳴のような乱菊の引き止める声が辺りを響き渡るが、僕はそれに背を向けてこの場を後にした。




なぁ、琥珀。もう少しだけ待っとってな。
もうすぐ僕も…琥珀の傍に行くから。