不穏な動きの幕開け
菜子が真撰組の女中として働くようになって数日……仕事にも生活にも慣れ、平穏な生活を送っていた。…ただ、たまに…愛した人のことを想い、胸が痛く…苦しくなることもあるが。
「はい、みなさん。今日の夕食は天ぷら蕎麦にしてみましたよ!」
隊士たちに食事を運んでいく菜子。彼等の前に次々と蕎麦が並べられていく。
「菜子は本当に料理が得意なんだな」
「…トシにマヨネーズを大量に掛けられて言われても少し悲しい気がするのは気のせい?」
トシの褒め言葉に苦笑する菜子。今ではもう、見慣れてしまったが…彼の一日のマヨネーズの使用量は半端ない。……体には絶対によくないとは思うのだけれど、本人は一切止める気はないらしいのでどうしようもない。
「土方さん、隣りでそんなベシャベシャした犬の餌を食べないでくだせェ。気持ち悪くなりまさァ」
「っんだと総悟!ならてめぇが他行きやがれ!!」
「なんで俺が動かなきゃならねェんですかィ。土方がどっか行けコノヤロー」
「ブッ殺す……!」
「わ、わぁ!?止めて、二人とも!!」
(そして、この二人の揉め合いにも慣れてしまった気がする…)
こんな日々がここ最近は続いている。
「じゃあ私は今日はこの辺で帰りますね」
「菜子ちゃん、もう帰るのか?」
「近藤さん…!はい、銀ちゃんのところに寄って行かなきゃいけないから…」
菜子の言葉にトシと総悟は一気に不機嫌となった。
「…チッ、あんな奴らに会わなくても別にいーじゃねぇか…」
「そうでさァ、旦那たちのことなんかほっとけばいーじゃねェですかィ…」
「銀ちゃんとは付き合い長いからね。まぁここ最近はあまり付き合いなかったんだけど……あっ、そろそろ行かなきゃ!じゃあまた明日、さよなら!!」
バタバタ…と音を立てて菜子は屯所を去っていく。それを寂しげに見つめる隊士たち。最早菜子は真選組隊士たちにとってアイドルと言っても過言ではない。厳しい毎日の中のオアシス的存在だった。
「…なんであんな奴と菜子は仲がいいんだ?」
「さぁねィ…。まぁ気に食わないのは確かですねィ……」
そして…隊士全員が菜子を狙っている。それはもちろん、トシ、総悟も同じだった。
「…確かに、気に食わねぇな……」
「銀ちゃん〜来たよ〜!」
「おっ!菜子か、中には入れよ」
「今日のご飯は何アルか〜?」
「今日はね〜天ぷら蕎麦だよ。すぐ出来るから待っててね」
万事屋のみんなに少し待ってもらい、真撰組の屯所で作ったものと同じのを器用に作ってしまう。
「菜子のご飯は最高ネ!何杯でもおかわりしてやるアル!」
「神楽ちゃん、なんだか偉そうなんだけど……けど確かに美味しいですよね」
「ふふっ…ありがと、みんな」
自分の作った食事を褒められて嬉しくて、つい顔が綻ぶ菜子。自分の作った料理を食べて褒めてもらうなんて日々はここ数年なかったから本当に嬉しく思う。…と、そのとき銀時が口を開いた。
「菜子、お前さ〜二日後になんか用事あるか?」
「二日後……?仕事はあるけど夕方ぐらいまでだし……それからなら暇だけど?」
「ならよ〜…一緒に祭りに行かねぇ?」
「お祭り!?」
銀時の口から出た言葉に一気に瞳が輝きだした菜子。菜子は祭りが大がつくほど好きなのだ。
「てめぇはいつも弱音吐かずに頑張ってるからよ〜たまには息抜きが必要だと思ってよ〜…」
「銀ちゃん、それナイスアイディアネ!私も菜子と祭り回りたいネ!」
「私も祭り…みんなと回りたい!……一緒に行っていい?」
「もちろんですよ!」
(祭りかぁ……久々だなぁ……昔はよく、晋助に引っ張られて行ったものだけど……)
「この祭りは幕府と天人が手を結び、終戦したことを記念して毎年行われているんですよ。将軍様を今回の祭りに顔を出すそうです」
「へぇ…そんな大きい祭りなのね……楽しみだなぁ…!」
「菜子、俺等も祭りの日はババァに頼まれた仕事があるけどよ、それが済んだらお前んちまで迎えに行くわ」
「は〜い!」
今からこの祭りが楽しみだ、と菜子は満面の笑みを浮かべたのだった。
『よぅ、久々だなぁ〜…』
「……何者だ?」
橋の上で座禅を組む桂の隣りに、一人の人柄が出来た。桂は目を細めて、頭に被る笠から顔を覗かせた。
「っ高杉……!」
……そこにいたのは間違いなく、かつての同志であり、今じゃ攘夷志士たちの中で最も過激と恐れられている……高杉晋助 だった。
「貴様が何故このようなところにいる………幕府から逃れるために京に身を潜めていると聞いていたが?」
「フ……祭りがあると聞いてよぉ…居ても立ってもいられなくなったのさ」
「祭り好きも大概にしておけ。お前は私以上に幕府から嫌われているんだ」
昔から変わらない、高杉の祭り好きに桂はため息を零す。
「まっ、それだけのために江戸に来たわけじゃあるめぇよ」
「何……?」
゙俺の女を連れ戻しに来だ
ククク…と独特の笑いをしながら遠い空へと目をやる高杉。…彼の瞳に映っているのは目の前に広がる青空ではなく、愛しい彼女の面影だった。
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