甘酸っぱい林檎飴

「銀ちゃーん!祭り、もう始まってるよ!早く行こう!」


「…菜子も来たか。オメー等も行くぞ」


「「わーいっ!!」」





銀時達も無事仕事が終わり……菜子は万事屋の皆と合流し、祭りに向かった。






「三郎、次はあっちアルー!」


『御意』


「…ねぇ銀ちゃん、神楽ちゃんが乗ってるのって……何?」


「ん、あぁ……あれは、このオッサンが作ったんだとよ」


『オッサンオッサンうるせぇぞ!』





神楽は三郎に背負ってもらいながら、新八と二人で先に屋台を回ることになり、菜子と銀時は二人とは別行動をすることとなった。
菜子の質問に、銀時は自分の傍にいるおじさん…平賀源外を指差す。






「こいつァ、江戸一の発明家なんだってよ。今日ババァに頼まれた仕事はこのオッサンの手伝いだったってわけ」


「江戸一の、発明家…!?すごいんですね…」


「何もすごくなんかねぇさ。今は皆からそう呼ばれてはいるが、俺ァ…昔、息子と色々作っていたときが一番楽しかったさ…」





江戸一の発明家、なんて名誉の名に対してあまり嬉しそうではなく、むしろ哀しげな源外。その表情がどこか菜子には胸の奥に引っかかった。





「息子ってアンタにそんなのいたのかよ?」





銀時は源外の言葉に驚き、目を開かせる。彼に息子がいたことなど銀時も知らなかった。初耳である。





「戦で、死んじまったがな……勝手に戦に出て死にやがった……俺と同じでからくり造るのが好きなクソガキでよ〜…だけどあのときがやはり、一番楽しかったなァ…」


「……そう、だったんですか」






戦は……全て簡単に消し去っていく。そのことを、戦に出ていた銀時と菜子は嫌と言うほど味わった。…目の前で一瞬のうちに喪われていく無数の命。自分の非力さが、歯痒く、悔しかった。






「銀時、お前も戦に出てたんだってな?」


「…別に大したことじゃねぇよ。それに、仲間もたくさん失っちまった……」


「…銀ちゃん…」






たくさんの同志が皆、目の前で死んでいった。助けてやれなかった、守ってやれなかった。…自分達に残されたものは…一人では抱え切ることが出来ないほどの大きな喪失感。虚しさが込み上げてくる。だが…どれだけ悔やんでも、亡くなった命は元には戻らない。






「……そいつらの仇を取ろうとは思わんのか?」


「…ジジィ、おまっ……!」


「……仇…!」





ぼそり、と源外の口から零れ出た物騒な言葉。「仇」。…そのときの源外はまるで別人のように見えた。






「…おぉっと、喋りすぎてしまったなァ。おい三郎、最後の調整に向かうぞ〜!」






次の瞬間には源外はケロリと言った様子で彼が作った三郎とどこかに向かっていく。残された銀時と菜子はと言えば…先程の源外の言葉が消えず、黙り込んだ。
……その沈黙を先に破ったのは菜子だった。





「……ねぇ銀ちゃん」


「なんだァ、菜子」


「争いごとって、醜いね」


「…テメーの大切なもんも、テメーの手で消しちまったりしちまう」


「…それって、本当にすごく…寂しいことだよね…」


「……あぁ」






(ねぇ、いつから?いつからみんな、こんなバラバラになってしまったの?昔はいつも、一緒だったのに。一緒にいないことの方が珍しかったのに。今では一緒にいないことの方が当たり前になってしまった…)

今更、あの頃に戻りたいだなんて…言えないこともわかっている。だから口には出さない。…きっと皆、同じ気持ちだろうことも知っているから。






「さーてと、銀ちゃん。私、林檎飴でも買ってくるね」


「ん、あぁ…」


「じゃ、また後でね」






静かに酒を飲み続ける銀ちゃんを一人残して、菜子は近くにある林檎飴屋さんへと足を向ける。






「すみませーん、おじさん林檎飴一つ下さーい」


「あいよ〜」






店のおじさんに代金を払い、代わりに林檎飴を受け取った。直ぐ様、飴を口に含むと甘酸っぱい林檎飴の味が口内に広がった。

ふと、幼き頃の光景が一瞬で脳裏に蘇った。






『晋ちゃーん、銀ちゃーん、ヅーラっ!早く早くー!』


『んな急いだって祭りは逃げたりしねェよ』


『菜子、ヅラではない。桂だ!!…全く、二人がそんな変な呼び方をするから……』


『んぁ?ヅラはヅラだろー?』





(いつも、みんな一緒。私のすぐ傍には、いつも三人がいてくれた。…そして、もう一人)





『おやおや菜子、危ないから気を付けて行くんですよ』


『はーいっ松陽せんせーっ!』





(優しくて、時には厳しい……大好きな……私たちの恩師、松陽先生……)




彼はもう、この世にはいないけれど…他の皆はまだ生きている。…またあのように四人で並んで歩く日がくることをを望みたかった。






「…懐かしいな」




(平賀さんが、息子さんと発明する時間が一番楽しかったように……私も、みんなと一緒にいた時間が一番楽しかった)





「あ…そろそろ、銀ちゃんのところに戻らないと……」





物思いにふけることをやめ、来た道を戻ろうとしたそのとき…懐かしい声が聴こえた。





『菜子』






自分を呼ぶ声。この声を…菜子は知っている。
その声に驚いて、思わず持っていた林檎飴を地面に落としてしまった。買ったばかりの林檎飴はすぐに砂塗れになってしまった。甘酸っぱい味が、未だ口内に広がっていた。



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