愛しき人、再会

『随分祭りを楽しんでいるようじゃねェか……菜子』






愛しい愛しい人の声が耳に届き、菜子は動きを止める。まるで呼吸をすることも忘れそうになるくらい。






「…晋、助……」





その人の名前を、呼んではいけないとわかっていた。その声のする方を、振り向いてはいけないとわかっていた。…・わかっていたけど、止められなかった。自分の視界の中に、彼の姿を…映してしまった。






「久しぶりだなァ……菜子」





ククク…と彼独特の笑い声が耳に入る。そしてゆっくりと、だが確実に彼はこちらに歩んでくる。
この場から離れた方がいいのはよくわかっているのに……体は金縛りにあったかのようでピクリとも動かせなかった。……否、動けないのは菜子が未だ晋助に強く惹かれていて、今まで会えなかった期間に恋しく思った気持ちが彼女を引き留めていた。






(……逃げなきゃいけないのは、わかっているのに…!晋助から、目を逸らせない…)


「…来い、菜子……」


「あっ………!」






晋助に腕を掴まれ、菜子は人混みの中を晋助の背中を追うかのように引っ張られていた。
彼に連れて来られたところは人の気配が一切感じない、祭りの場所から少し離れたところにある茂みの中。菜子はふいに茂みの木に体を押しつけられ、両手首は見事捕らえられる。逃げることが不可能の状態におかれていた。木の冷たさが、菜子の背筋に走った。






「やっ、晋助、離し…!」


「誰が離すかよ」






晋助に言葉を遮られ、晋助の鋭い独眼に見つめられ、菜子は言葉を失ってしまう。






「ククク……俺から上手く逃げれたとでも思ったか?」


「…あっ……」


「…が、残念だったなァ。俺は独占欲が強ェ奴でよぉ…。そう簡単に逃がすはずがあるめぇよ」






笑い声を出しながら肩を震わせいる晋助。そして、そんな彼の顔がゆっくりと、菜子に近付いてくる。






「…やっ駄目……!」






瞬時に口付けられると察した菜子はすぐに晋助から目を逸らし、顔を背ける。…だが、男の力に女子から敵うはずがない。
両腕を片手で抑えられ、空いたもう片手で顎を取られる。…そして、二人の唇は重なり合う。







「…っんぅ…!!」





止めて、という抵抗の言葉は晋助の口内で消え……彼の体を押し返したいものの、両腕は捕らえられているためピクリとも動かすことが出来ない。
それはまるで…噛み付くような、焼き付かれるような……激しい口付け。じっくりと味わうようにキスを堪能した後、ようやく晋助は唇を離した。
はぁ、はぁ……と呼吸を整えながらその場に座り込んでしまう菜子。足がガクガクと震えて上手く立てない…が、今はそれどころではない。







「っど、して……っ?」


「んァ?」


「どうして……ここにいるの!?」





万斉には昨日会ったが……晋助が江戸にいるだなんて聞いていない。彼はそんなこと何も自分に告げなかった。






「オメーに会いに来た…それが理由じゃ不服かァ?」


「…!そんな嘘、言わないで……」


(…からかっているんだって……わかってはいても…つい胸がときめいて、顔を赤く染めてしまう。…そして、そんな私の様子に気付いている…!)






晋助はまた、ククク…と笑い声を上げている。






「ククク……嘘じゃねぇんだがなァ、まぁそれだけじゃねぇのは確かだが……祭りがあるって話を聞いてなァ、将軍様も来るようなこんなデケぇ祭りに、祭り好きの俺が来ないわけがあるめぇよ」


「……っ将軍…!…もしかして、何か企んで…!?…やめて!この江戸には、銀ちゃんたちがいるの!銀ちゃん達に、危険な目を遭わせる気なの?そんなのやめて!何もしないで!!」






…幕府だなんて、どうなってもいい。消えてしまって構わない。所詮私たち攘夷志士を切り捨てた裏切り者だ。



(…だけど、銀ちゃんたちは違う…!消えてほしくない。大切な、大事な仲間に変わりないのだから…)






興奮した菜子は晋助の着物の袖を掴み、必死に訴えた。銀時達が暮らすこの江戸の町を何としてでも守りたかった。…しかし、晋助の様子は先程から変わらず、ただただ妖しげな笑みを浮かべているだけだ。





「…なんだァ、オメーも俺といてぇのか?」


「っ!そ…そういうのじゃ……!!」


「まぁ、オメーには思い知らせてやらねぇとならないからなァ」


「…な、何を…?」





菜子が晋助に尋ねると……晋助はにやりと妖しい笑みを浮かべた。





「テメーが、一体誰のもんなのか…なァ?」






1/76
prev  next