無意識に泣きそうな面
さっきはついつい剣のアドバイスなんてしちゃったけど………気を付けないと真撰組のみんなに私が昔、剣使ってたこと知らされちゃうし。……否、剣を使ってたことは別に知られちゃってもいいんだけどさ。私が晋助率いる鬼兵隊の一人だった、ってことは知られたらヤバイもんね。




「…ふぅ、こんなものでいいかなぁ?」




隊士たちの洗濯物を全て干し終わると、菜子は外の様子を眺めながら近くに座る。





「…少し、慣れてきたかなぁ……」




今の生活に、馴染んできた気がする。鬼兵隊を抜け、この国をあちこち放浪していたときのことと比べたら……幸せすぎるぐらいの生活だ。
だけど、どうしてだろう……胸が締め付けられたようなこの痛みは。理由は、わかってはいるけれど……認めてはいけない。






「……綺麗な、空………」




青く澄んだ……雲一つない青空を見上げ、思うのは………たった一人の人物のこと。





昔はいつも、みんな一緒だった。それが当たり前だと思っていたし、これからもずっとそうだと信じてた。だけど………違った。世間はそんな甘いものじゃなかった。みんな、みんな……違う道を歩いていく。晋助も、銀ちゃんも、ヅラも………
晋助とも、私は道を歩くのをやめてしまった。これからどうしていくかなんて何も考えてないし決めていない。



(ねぇ、晋助…私はただ、貴方の隣にいればよかったの?貴方が傷ついていく姿を見て見ぬフリをして、晋助に甘えていればよかったの…?)




それが嫌になって、離れたものの未だその判断が正しかったのか、自分でもよくわからない。







「…おい、」





ふと、背後から声を掛けられた。




「あ、トシ……トシじゃない!仕事、休憩なの?」


「ん、まぁな」




スー…と煙草を吸うトシに話し掛ける。煙草がよく似合うなぁ〜なんて呑気に思いながら。





「大変だね、鬼の副長さんは」


「そうでもねぇよ。ほとんどの仕事が総悟の暴走の尻拭いだからな……チッ、あいつどこでもバズーカ使いやがって……」


(…総悟のバズーカって、いつもどこから出しているんだろう。疑問なんだけど……)


「あ、今日お前屯所で飯食って帰るんだってな?」


「うん、近藤さんにたまには一緒に食べようって誘われたし、私も私でみんなと食べたかったし……」


「なら遠慮することねェよ。毎日ここで食えばいいじゃねぇか」


「や、……銀ちゃんに呼び出し食らうからさ」


「チッ…アイツァ、いつもいつも余計なことを………」





トシの頭から、銀時のアホヅラが離れない。奴の考えそうなことだと舌打ちを打つ。





「けど、たまにはこうやって真撰組のみんなと食べないとね!」




フフ、と女らしく笑う菜子にトシは少なからずときめく。




(くそ、ガキかよ俺は………)




こんなことでドキドキしてしまう自分にトシは動揺し、少し頬を赤く染める。……菜子には一切そのような素振りは見せないけれど。





「あ、夕食何食べたいかな?トシ、いつも仕事頑張ってるから今夜はトシの好きなもの作るよ!」


「…別に、んなことしなくていーっつーの」


「まぁまぁ!そんなこと言わないでさ!お肉とか好きそうだよね、トシって」


「どーゆーところからだよっ!!……じゃー、和食……」


「え、そんな投げ遣りな!」


「別にいーだろ。……お前の作る飯ならなんだっていーんだよ」


「?なんか言った??」


「いや、なんでもねぇ」


「…そう?ふふっじゃあ楽しみにしててね!頑張っちゃうから」


「…おー」


「あ、もう買い物行かなきゃ!また後でね、トシ!」


「っ、待て菜子…!」





買い物に行こうとすると……ふと、トシに腕を捕まれ、呼び止められた。





「…?…どうしたの、トシ……?」


「…いや、…その………話なら、聞いてやる……」


「えっ……?」





トシのいきなりの言葉に、菜子は情けない声を出す。





「…あ〜っ!!だから、泣きそうになるくらい溜めんなって言ってんだよ!!」


「泣き、そう……?私、が……?」


「……さっき、俺が話掛ける前。シケた面してたじゃねぇかよ」




カチッとマヨネーズの形をしたライターでまた煙草に火を点けるトシ。その彼の瞳は、偽りのないもので……私は無意識に泣きそうな表情になっていたみたい。




「っ…ありがとう、トシ」




そう笑って返すしか、私には出来なかった。その場から逃げることしか、私には出来なかった。だって、自分でもわからなかったから。彼を想うと泣きそうな顔になっている、だなんて。



(トシの指摘で初めて気付いた…)




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