月明かりの夜
「もう、すっかり遅くなっちゃったね………ごめんね、こんな時間に送ってもらっちゃったりして……」


「そんなこと気にすることじゃねぇさァ。菜子を一人夜道歩かせる方が嫌でさァ」




さらっと言い放つ総悟に、そっけない彼の優しさに菜子はつい顔が綻ぶ。





「あ、見て見て!綺麗な月………」


「今日は満月ですかィ……」




ふと、夜空を見上げると……綺麗な星空に、大きな満月が浮かんでいた。それに、つい心奪われ、魅入ってしまう二人。総悟は隣りにいる彼女に視線をやる。満月の光に照らされて、元々白い菜子の肌はさらに煌いて見える。嬉しそうに、目をキラキラさせて………可愛らしい。
ぼんやりと…総悟は今日、銀時と交わした会話が脳裏に浮かべた。






「旦那なら、知ってるんだろィ?菜子とも長い付き合いだ〜って聞きやすし」


「さ〜な、俺にはさっぱり。総一郎君が何言ってんのかさっぱりわかんねぇなぁ〜」


「総悟でさァ。…そんなわかりやすい嘘は止めやしょうぜィ、旦那?」





総悟は銀時をファミレスに呼び出し、どうしても話を聞きたかった。菜子のことについて。





「今日菜子がある隊士に剣のアドバイスをしていやしたんですけど……それが見事、的に当たっていてねィ。ほんのそこらの奴らじゃあそこまで見抜くことは出来やしねィ」


「あー…俺はなぁ〜んも知らねぇよ〜八神宗一郎君〜」


「総悟でさァ。…なのに菜子ったら剣なんてしてねぇってわかりやすい嘘をつくんでさァ。……ねぇ、旦那。本当は菜子、剣やってたんじゃねぇのかィ?それも長い間…実はかなりの凄腕の剣士とかだったんじゃ?」


「さぁな、どうだった……」


(……俺ァ、そう簡単に騙されたりはしねぇぜィ)


「正直に教えてくれたらチョコレートパフェ、3つほど奢りまさァ」


「……くっ……ぎ、銀さんそんなことに流されないもんねぇ…っ!!」


「あ、5つでも構いやせんぜィ。店員さーん……」





……というワケで、銀時の前にはたくさんのチョコレートパフェ。そしてそれを嬉しそうに食べる銀時。……銀時は、パフェの誘惑にあっさりと負けてしまったのだった。





「で、教えてくだせェ。菜子のこと」


「っんぐ……!………はぁ〜……つーか、お前なんでそんな菜子のこと知りてぇんだよ。言っておくけど菜子は銀さんの未来のお嫁さんだから狙うんじゃねーぞコノヤロー」


「寝言は夢ん中で言ってくだせェ。菜子は俺のもんって決まってんのさァ」


「いやいやいや、銀さんは菜子と将来誓った仲だから」



そんな話の進まないやり取りを幾度か繰り返した後、銀時はパクリとパフェを堪能しつつも真剣味が増した声で話した。





「………アイツは、大切なもんを守りたくて剣を取った。……が、その分傷ついて、大切なもんも失っちまった」




剣を振るうことで その分たくさんのものを失った。たくさんの涙を流した。目には見えなくても、心には今でもはっきりと心に傷が残っている。




「アイツはもう、誰も傷つけたくねぇんだよ。だから刀は振るわねェの……この話はもう無し、菜子にも話すんじゃねーよ」




ぱくぱくパフェを食べながら話す銀時の瞳は真面目なもので……嘘ではないことは伝わる。……そう言われて、総悟はもう、それ以上そのことに関して何も言わなかった。
菜子も、菜子なりに傷ついてきた。彼女のことは知らないことの方が多いけれど、そのことはよく痛いぐらい伝わってきた気がした。
そして、ふと思ったのだ。
この優しげな笑顔の下には何を想い、何を抱えているのだろうかと。






「…うご、総悟!」


「っ!…なんでィ?」


「何って……何回声掛けてもボーっとしていたから心配になったの」





どうしたの、と首傾げる菜子の様子を見るとどうやら本当の話みてぇだ。この俺が、不覚だったと頭を掻いて平常に戻る。





「もうこんな時間だし……早く帰ろう?」


「……ああ、そうだなァ……」





自然に、菜子の手を取ると……菜子はまた優しく笑って、手を握り返してくれたんだ。
月明かりの今夜は二人だけの夜だった。




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