どちらを天秤にかけても

「………はぁ、なんでこんなことに………」





部屋一つを借りて、女物の真撰組の隊服に腕を通していく菜子。
あの後、直ぐ様近藤さんが隊服を持って来て着替える羽目になってしまった。





(…こちらからしたらなんだかコスプレをしてるみたいで気恥ずかしいんだけど…)


「"洋服"なんて、着慣れないし………」





菜子はいつも着物ばかり着ているためあまり洋服に馴染みがなく…だから着物を脱いで洋服を着る、というのには少し違和感がある。

ふと、鏡に自分の背中が映った。白い肌が広がっている……が、左肩の一部は違う。





「………火傷の、痣………」






幼いとき、私は火事で両親を亡くし、左肩に火傷の痣を残して天涯孤独の身となった。
そんな私に、優しく手を差し伸べてくれたのが松陽先生だった。



あのときのことは、今でも鮮明に覚えてる………――――












煙っぽさに気が付き、眠っていた瞳を開けると……そこはもう、真っ赤な炎の渦しかなかった。





『っ、お母さ…ん……お父さ…ん?』




一生懸命両親を呼ぶが、返事は返ってこない。逃げなければならないと、わかってはいるけれど足は恐怖のあまり上手く歩いてくれない。煙で視界が効かないし、呼吸がしづらい。






『…っきゃあ!』





そのとき、家の柱が左肩に向かって落ちてきた。言葉には出来ないぐらいの熱さが菜子を襲う。





『いやぁぁぁあ!!誰かぁぁあ!!』




(お願い 誰か、誰か助けて……晋ちゃんっ……!)




『っ、菜子!!』





心の中で、晋ちゃんを呼んだら……本当に晋ちゃんが来てくれた。晋ちゃんの姿を一目見たら、安心してしまって………気力を失われていた幼い私はゆっくりと瞳を閉じた。

次に瞳を開けたときには見覚えのある天井が広がっていた。

私は晋ちゃんに助けてもらったのだと、話を聞いた。晋ちゃんは私が中にいると人々から話を聞くと、直ぐ様全身に水を被り、炎が渦まく家に飛んで行ってくれたらしい。
そしてあの炎の中から、私を見付け、助けてくれたらしい。





『っ、お母さんたちは…!?』


『……俺が行ったときには既にもう………』


『っ!』


(……死んじゃったんだ。お母さんも、お父さんも、私一人遺して……)


『わ、たし…これからどうすればいいの…?』






ぎゅ、と自分の膝の上にある布団を不安そうに握る。その手はブルブルと震えていて、頼りない小さな手をしている。
その手を、優しく包んでくれたのが先生だった。





『大丈夫だよ、菜子……貴女は一人じゃないから。貴女の面倒は亡くなった貴女の両親の分も、私が見る。晋助や銀時、小太郎も菜子の傍にいるだろう?
不安がる必要なんてないんだ、菜子は一人なんかじゃないのだから…』





その先生の言葉で、いきなり独りぼっちになってしまった私は助けられたんだ。孤独という恐怖から。先生のおかげで、今の私がある。





「…はぁ、こんな格好しているときに……このこと思い出すのもどうかと思うけどね」





鏡に映る、真撰組の格好している自分に思わず苦笑してしまう。
幕府を許す気なんてさらさらない。私の大切なものを奪った奴等なんか許さない。



(……けど、真撰組のみんなは好きだから)




「ほんと、矛盾してる…」





自分の優柔不断さに、呆れる。大切な人たちだから…どちらを天秤に架けても答えは出ない。





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