怪しい気配
『勇敢少女、火の中飛び込み子供無事救出!』
『子供の命を助けたのは真撰組の女中』
『真撰組女中、子供のために炎の海へ』
テレビでも、新聞でも……この話題が大きく載せられている。
「……チッ、あの馬鹿………!」
テレビで騒ぎ立てるこのニュースに、気に食わなさそうに舌打ちをする一人の男。
「さすが菜子様っす!この来島また子、ますます惚れたっすよ〜」
「また子さん、煩いですよ。少しは静かに出来ないんですか?……この猪女…っ!」
「聞こえてるんすよっ武市先輩ィーっ!!この銃で早打ちされたいんっすかー!?」
高杉が率いる鬼兵隊の船の中。その一員であるまた子と武市がモメるのは日常茶飯事のこと。それを軽く無視し、高杉は菜子の活躍について話すアナウンサー等を鋭く睨み付けた。
(…気安く、俺の女のことべらべら話すんじゃねぇ……)
そいつらを見ているのも腹立たしく感じた高杉はテレビの電源を消した。
「不機嫌そうでござるな……晋助」
「……万斉……」
「相変わらず、無茶をするのが好きでごさるな……お主の子猫は」
「……首輪で締め付けとかねぇといけねぇなァ……」
ククク……と鼻で笑い、煙管を食わえる晋助。その瞳はお世辞でも優しそうには見えない。鋭く、冷たい瞳。
「それにしても、幕府の犬っころ達の女中とは……一体何を考えているんでござるなぁ……菜子殿は……」
「ハッ……決まってんだろ…俺に喧嘩売ってんだろうよ」
(……面白い、テメーがその気ならこの喧嘩、買ってやらァ)
「晋助様!あまり一人で街に出歩かないでくださいっす!危険っす!」
「……来島ァ…俺がそう易々とやられる柄か?」
「っ、そ、そういう意味じゃないっすけど……心配っす!」
「…万斉、テメー菜子を俺の元に連れてこい。たっぷりとヤンチャな子猫を調教しなきゃなんねぇみたいだからなァ…?」
晋助の言葉に、万斎は何も言わず……黙ったままこの場を立ち去った。
「おいっ菜子!オメーはおとなしく寝てろ!」
「大丈夫よ、トシ。そんな心配しなくても。怪我だって大したことじゃないし、それに仕事だし」
トシの静止の言葉を無視し、隊士たちの洗濯物を慣れた手つきで干していく菜子。
「っ、オメーは無茶ばっかするから危なっかしいんだよ……!」
「心配してくれるの?ありがとう、嬉しい」
「バッ……!」
否定の言葉を上げようとしたトシだったが、彼女ににっこりと微笑みを向けられ、言葉を告げれなくなってしまう。
「けど、よかったね。真撰組の評判も少し上がったみたいで。私、少しは役に立てたみたいね」
「……おかげ様でな」
「あ、トシ……」
「ん、なんだァ?」
「あのとき、ありがとね。私を抱えて運んでくれたの…トシだって山崎君から聞いたから」
「チッ……山崎の野郎……余計なことをっ……!」
新しく、箱から煙草を取出し火を点けるトシ。彼の頬は少し照れくさそうに赤く染まっていた。
「私、嬉しかった!…だから、ありがとう……」
「……あぁ」
ふふ、と女らしい笑い声を出す菜子から顔を背けるトシ。
「…けど、もうこんな無茶な真似すんじゃねーぞ。心臓がいくつあっても足らねぇからな」
「銀ちゃんにも注意されちゃった!『俺の可愛い菜子の顔に一生の傷付いたらどーすんのォォ』って」
「…フン、万事屋らしいな」
「だから笑って言ってやったの。私は銀ちゃんのモノではありませんーって」
その時の様子を思い出しているのかクスクス笑う菜子。そう言われた銀時はよほどショックな顔していたのは想像がつく。
「あ、そろそろ私買い物に行かなきゃ…!じゃあまた後でね、トシ」
「あぁ…気を付けろよ……」
トシの言葉に頷き、菜子はトシと別れた。彼女の姿が見えなくなるまで、トシはずっと見守っていた。
「…今日はどうしようかなぁ……」
(確か昨日、他の女中さんと話していたのはカレーだったっけ…?)
なんてことを呑気に考えながらスーパーに向かっているそのときだった。……背後からこちらを見てくる鋭い視線を感じた。
「……っ、この気配は……」
(間違いない、彼だ)
体の向きを変え、視線のする方に菜子はスタスタと近寄っていく。
ビルの物陰に、確かにいた。見覚えのある彼の姿が。
「……また、監視ですか?万斉さん?」
「ハハハ…またもバレてしまっていたでござるか」
「私が万斉の気配に気付かないわけないって、知ってるでしょ?」
「"鬼兵隊の鬼の牙"と言われたそなたが気付かない筈がないでござるからな」
「……で、今度の要件は何?」
「晋助の元に、戻ってもらうでござる」
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