雨の下の偽りの笑み
「おいおいオメー等、いい加減にしろよ〜こちとら、医者に糖分の摂りすぎだって言われて週一でしかパフェ食えねぇから機嫌悪ィんだよ!!早く俺の菜子出せって言ってんだろーコノヤロー!隠し持ってんじゃねぇー!!」
「うるせェ万事屋!!ここにはいねェって何回言やぁわかんだよ!!」
「そんな嘘に銀さん騙されないから!!大串君!!」
「誰が大串だァァ!!」
真選組屯所の前で、菜子を迎えに来た銀時とそれを追い返すトシの姿があった。
「それにしてもホントどこ行っちまったんでしょうねィ、菜子。きっと土方さんの極度のマヨラーなのに嫌気がさして飛び出しちまったんでしょうねィ」
「いや、この瞳孔開きっぱなしの目に怯えちまったんだよ〜俺の可愛い菜子ちゃんは」
「このドSコンビがァァ!!」
「まぁ落ち着けトシ……それにしても、こんな雨ん中で……大丈夫かなぁ?」
近藤は未だ降り続く雨に目をやる。この様子だと止む気配はないだろう。
「……菜子っ………」
「また、子猫を逃がしてしまったのでござるか?」
「……万斉、テメー勝手に部屋に入って来んじゃねェ」
機嫌の悪い晋助の言葉を無視し、万斉は部屋の中へと足を運ぶ。
「せっかく連れ帰って来てやったと言うのに……」
「……どーせ今帰って来てもまたすぐ逃げるのは目に見えてらァ」
「…あぁ、海賊【春雨】のことでごさるか?」
【春雨】……宇宙一の大規模な海賊。これ等と手を組むことで、鬼兵隊は利益得ることは間違いない。…が、
「アイツは、許せねェだろうなァ……天人嫌いだからよォ」
(俺が、春雨と手を組むことを)
「ではまだ暫くは泳がせておくつもりでござるか?」
「……安心しろ、アイツは必ず戻って来る」
(アイツの居場所は、俺のとこしかあるめェよ)
「ククク……」
(アイツが俺の元に戻ったとき、そんときが……この国を潰すときだ)
(強くなりたい。そう、強くなりたかった。私は、強さを欲した)
『おやおや菜子、髪を自分で切ってしまったんですか?』
『先生……なんで私が自分で切っただなんてわかったの?』
そう問いかける私に、松陽先生は優しく笑って答えた。
『髪の長さ、バラバラですよ』
『あ……短刀で切ったのはやっぱ失敗だったかな』
『ほら貸してみなさい、私が整えてあげるから……』
『はぁい』
長さがバラバラになった菜子の髪を丁寧に、綺麗に整えていく先生。
『……戦に、行くんですね?』
『…先生は、全てお見通しなんだなぁ……』
『わかりやすいですからね、菜子は。そのために髪を切ったのでしょう?』
『…三人とも、みんな私が行くの反対したんだもん……っ女の私は足を引っ張るから駄目だって……』
(だって、悔しかったんだもの。"女だから駄目だ"って言われたのが悔しかったんだもの)
『全く、あの三人は……まだまだ子供なのだから……』
『…先生……っ私は、強くなれないの?女の子は駄目なの?』
(強くなりたい、って思うのは駄目なことなの?)
『そんなことはない。男女ともに強くなることは必要なことだよ』
『じゃあ、なんで三人は………』
『けどね菜子はそのうち強くなる必要はなくなるんだ』
『…女の子だから?』
『菜子を守ってくれる人が現れるからだよ』
そう優しく告げる先生の言うことは、このときの私にはよくわからなかった。だけど、今ではその意味が痛いぐらいにわかるよ。
「……やっぱり心配だな、トシ、総悟!それから万事屋!!菜子ちゃんを捜索しに行くぞ!!」
「こんな時間まで帰って来ないのは確かに危険だな」
「だーかーら、テメー等が匿ってんだろ?早くしないと誘拐事件でお宅警察に連行してもらうよ?」
「俺等が警察だ」
「あ、そうだった。…ったく、こんなチンピラみたいな奴らが警察だなんて世も末だねェ…」
「テメーは黙れ!」
「あ、」
「なんだ、総悟!?」
「あれ……菜子じゃねェですかィ?」
「「「何!?」」」
総悟の指差す方向に目をやると、確かにそこには………
「「「菜子!?」」」
「………っ、……」
雨でびしょ濡れになっている、菜子の姿がそこには合った。
「ちょ、菜子っ……」
「菜子!?どうしたんだ!?」
彼女の元へと、皆雨など気にせず近寄っていく。
「……みんな、ごめんなさいっ!!」
「えっ?」
先程漂わせていた暗い雰囲気とは偉い違いで、明るい口調で話す菜子に思わず戸惑ってしまう。
「や、あのね……昔の、知り合いと街中でばったり会っちゃって……それでつい話し込んじゃって遅くなっちゃったの…急いで帰ろうと思ったんだけど雨で………ホントごめんなさい……!」
雨で体が冷えたのかつ、ガタガタ…と小さな細い体を震わせながら頭を下げる菜子。
「まぁ、何事もなくてよかったよ。それよりこんなところじゃ何だから、とりあえず屯所の中へ……」
「近藤さん………っあ、いいです。私、今日はもう帰るんで……っ銀ちゃんも帰ろう?」
「え、あ…っ」
銀時が返事をする前に、彼を引っ張って、真撰組の屯所から離れていく菜子。
その姿は元気そうに見えた。近藤もトシも、安心したように去っていく二人の背中を見つめていた。……が、総悟一人は菜子の様子の変化に気付いていたのだった。
「ったーくよぉ〜銀さん本気で心配したんだからなぁ〜?」
「はいはい、ごめんね」
一緒に帰る銀時の機嫌を宥めながら帰路を歩く菜子。
「あっ、じゃあ私家こっちだから……」
「そうだったな……んじゃあまた明日な」
「うんっバイバイ銀ちゃん!」
銀時に元気よく手を振ると、菜子は自分が住むアパートへと足を走らせた。玄関のドアを勢い良く閉じると、菜子はその場にしゃがみ込んでしまう。
「っ、ふ………」
自分の髪から落ちる雨の雫とともに……瞳から涙の粒が流れ落ちていく。
「ひっ、く……ふっ……あ……!!」
……限界だった。皆の前でワザと明るく振る舞うのは。本当はあのときに、泣き崩れてしまいそうだった。
「…っあああ……!!」
だけど、それだけは嫌だった。泣いて同情してもらうだなんてこと、したくなかった。だから必死で堪えた。涙一粒流さないように、笑って見せた。
「…っふ、あぁぁあ……っ!」
降り続く雨と一緒に、この想いも洗い流してくれればいいのに。彼と過ごした長いときを、なかったことにしてくれればいいのに。そしたら、こんな辛い想いはしなくて済んだのかもしれないのに。
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